未来の働き方
―フリー、フラット、プルーラル

 
Point
日本型の雇用・就労形態は、知識産業の比率が高まった今の時代に不適合。
一人ひとりが場所や時間、組織に縛られない自律的で多元的な働き方へ。
企業経営者としては、社員に気づきを与え、意識改革を図ることが重要。
 情報化が進み知識産業の比率が高まった現代では、かつて日本を支えてきた規格大量生産を前提とした画一的な工業社会の働き方は時代に合わなくなってきた。若者、高齢者、女性など、誰もが自分らしく自律的に働ける社会への変革が求められる。人々の価値観の多様化や結びつきの変化、高齢化の進展、さらにICTや先進医療をはじめとする技術革新の急速な発展などが未来の働き方のヒントとなる。

1.未来の働き方とは

 人々の価値観が多様化するに伴い人間関係の基盤としての地域や職場の役割は低下していった。一方で、SNSなどが発達し、緩やかで多元的なつながりが広がっている。また、新卒一括採用、年功序列賃金体系、終身雇用制、メンバーシップ型雇用などのいわゆる日本型と呼ばれる従来タイプの雇用形態は、すべて人口ボーナスに適合した仕組みであり、人口オーナス下の日本では適合しなくなりつつある。そんな中、働くことの意味の模索や変化を体現する世代が登場した。画一的でない働き方の志向は、個の主体性を重視しようとする時代の到来を示唆する。
 未来の働き方に大きな影響を与えるのは、テクノロジーの進化である。テレコミュニケーションやデータ解析技術を含むICT関連技術は、われわれの予測をはるかに超える速さで進歩している。これは、場所や時間の制約を一気に取り払う。そうなると皆が一カ所に集まり同時に働く必要性がなくなる。これらの趨勢を受けて、組織に固定的に縛られず、個人の主体性に基づくフリーエージェントに近い「自由(フリー)」な働き方が可能になる。これは、単に組織という制約からの解放にとどまらず、自分で選ぶ、決める、責任をもつという意味で、自律的、主体的に働くことを意味している。
 人の活動を支援するロボット技術は日本が得意としている分野である。これにより、製造業にとどまらず家事や介護・医療などの対人サービスの分野でも、ロボットの活用が期待されている。また、ヒューマン・エンハンス技術(人間の能力を拡張する技術)によって高齢者が体力を取り戻し、再生医療による人体機能の再生が平均寿命と健康寿命の差や障がい者と健常者の差を縮めるであろう。自動翻訳が高度化すれば言葉の壁も克服できるようになる。現在、少子高齢化が労働供給の制約を急速に高めつつあるが、上記のような技術を援用することにより、高齢者や女性を含むあらゆる人の社会参画を促す。
 そうなれば、年齢、性別、さらには国籍などに縛られず誰でも「平等(フラット)」に働ける社会が実現するであろう。企業や社会という観点からは、日本でも階層構造をもたない組織が出現し、部長や課長の存在しない企業がいずれ出てくるかもしれない。組織から個人へのパワーシフトが想定され、セルフマネジメントが求められるようになる。
 国籍、性別、信条によって差別されない多様な価値観が認められる組織では新しい価値が創造され、活性化する可能性が高い。また、ロボットや人工知能が進化し多くの作業を担うようになれば、人々には時間の余裕が生まれる。時間や場所に縛られず、個人の主体性・自律性のもとで自由な働き方が進展すると、組織を超えて活躍の場が大きく広がることが予想される。一人二役、三役、四役、五役が当たり前の時代がやってくるのである。このように、個人の人生において、また社会において多様な働き方をする人々が共存するという点で、「多元的(プルーラル)」な働き方が広がることが予想される(図1)。
 当社の生活者市場予測システム(mif)を用いて行ったアンケート調査をみると、男女とも、7割以上の人々が新しい働き方に期待している。特に、女性の約8割が多様な働き方、生き方を希望している(図2)。フリー、フラット、プルーラルな働き方の導入は、女性の就業率を高める有効な一策とみることができる。
 組織という制約からの解放にとどまらず、自分で選び、決め、責任をもって自律的、主体的に働くことを意味する「フリー」、あらゆる制約や壁が消失し、社会参画する機会が平等化する「フラット」、人々の価値観の多様化にあわせ働き方も多元化する「プルーラル」が、未来の働き方を示すキーワードとなる。これらは独立のものではない。階層がないフラットな組織では柔軟でフリーな働き方が浸透しやすく、さらに自由度が高いフリーな働き方ができることで、いくつものプルーラルな仕事を担うこともできる。
 こうした働き方が実現すれば、上司という概念がなくヒエラルキーのない組織が実 現し、オフィスそのものがなくなり週3日勤務や在宅勤務が当たり前になるかもしれない。朝に4時間、夕方に4時間働き、昼間の数時間はプライベートの活動を楽しむ、あるいは、地方に住みながら都会にいたときと同じ仕事をし、個人が自身の志向や生活の状況に合わせて自由に、柔軟にワークとライフのあり方を選択できる時代が、近い将来やってくるであろう。

2.未来の働き方の萌芽

 未来の働き方は、個人の夢であり、企業経営にとってはプラスにならないのではないかとの危惧があるが、決してそうではない。すでにその萌芽は現れている。
 例えばGEは、「Smart Work @GE」というプロジェクトを始めている。個人としてフレキシブルに働ける環境を作るもので、働く時間や場所を規程内で自由に設定できるようにしている。上司の承認があれば急用にも対応できるよう弾力的に運用している。これにより、育児や介護はもとより、資格獲得のためのスクーリングやスポーツなどにも自由に時間を割くことができる。多くの人が、「Smart Work@GE」を体験しており、生産性の向上を実感している。通勤電車に揺られる時間は不要となり、その時間を仕事時間に充てられる。業務を支援するICT機器やアプリケーションのサポートも充実している。結果、仕事の生産性は高まるという。働き方に多様性をもたせることが、企業の成長につながっているのである。
 また「世界の課題を解決する企業」を標榜するGEでは、ダイバーシティはイノベーションを創発し企業を成長させ続けるための必須要件と考えている。国や地域、性差、年齢など、多様な人たちが一緒に働くことで、イノベーションは生まれるという。
 ゴアテックスで有名な米国のゴア&アソシエイツ社は、創業以来、革新的な製品を生み出し続け、世界各地に8,000人以上の社員を擁する企業であり、「働きがいのあるグローバル企業」世界ランキング上位の常連になっている。
 ここでは、社長以外は役職や階層などの肩書がなく、細かい職務区分もない。縦型の階層構造ではなく、あらゆる社員がほかの社員と結びつくことができるフラットなマトリックス型の構造をとっている。人事評価は社員同士がお互いに行い、直接コミュニケーションの原則により電子メールやメモは極力使用しない。組織をフラット化することで、企業にとっては管理コスト削減や迅速な対応が可能になるというメリットがある。さらに本質的なメリットは社員の心の中にある。フラットでオープンな組織は、お互いの信頼感を醸成しモチベーションを向上させる。
 副業禁止をうたう企業が多い中、オンラインショッピングや専門家マッチング事業を手掛ける日本企業、エンファクトリー社は専業禁止を掲げている。積極的に多元的な働き方を推奨しているといえる。実際、社員の半数以上が副業をもっている。副業で社員がいろいろな経験をすることにより、社員のビジネスセンスが磨かれる。そうして身に着けた社員のスキルは、会社にも還元される。個人のパラレルワークは、経済活動の基盤である企業活動とも整合が取れている。

3.未来の働き方を実現するために

 フリー、フラット、プルーラルな働き方を実現するためには、何よりも一人ひとりがのびのびと主体的に生き方・働き方を前向きに考える必要がある。未来の働き方は、一人ひとりが本来もっている多様な価値観を実現するものであり、決して無理を強いるものではない。
 心理学では飴や鞭ではなく個人の好奇心や関心に基づく動機を内発的動機という。企業経営者としては、先進的な取り組みの良いところを取り入れ、社員の内発的動機を高め、意識改革を促すことが重要である。新たな仕組みの導入には不安がつきものであるが、一種の割り切りや発想の転換が求められる。
 同時に、時代の変化に合わせた柔軟な労働環境整備のための制度づくりや、近年注目を集めつつある社会的・情緒的スキル(人間力)をはじめとする自律した人材が備えるべき力を育成するための教育改革も必要である。
[図] 未来の働き方

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