民主導のCCRC2.0へ

 
Point
地方移住施策として高齢者のコミュニティーであるCCRCが多くの注目を集めている。
シニアの住まい方は多様であり、地方移住は一つの選択肢にすぎない。
CCRCの本質に立ち返り、民主導かつユーザー視点の仕組みへの再構築が必要である。

1.CCRCの歩み

 CCRC(Continuing Care Retirement Community)は、継続的なケアが提供される高齢者の共同体であり、全米で約2,000カ所、約70万人が居住し、約3兆円の市場をもつ。

 当社では2010年からCCRCの研究を始め、「健康で輝き続けるコミュニティーの実現」を目標に、リタイア後の高齢者が快適に生活する姿を描き、日本でも有望かどうか展望した。その後、2014年に閣議決定されたまち・ひと・しごと創生総合戦略では地方創生の重要施策として「日本版CCRCの検討」が明記された。検討の成果をまとめた最終報告では、「東京圏をはじめとする地域の高齢者が、希望に応じ地方やまちなかに移り住み、多世代と交流しながら健康でアクティブな生活を送り、必要に応じて医療・介護を受けることができるような地域づくり」を目指すものと定義された。

 まち・ひと・しごと創生本部事務局が地方公共団体を対象に実施した調査結果によると、2017年度時点で日本版CCRCに取り組む意向がある団体は245団体、すでに構想などを策定している団体は79団体に上り、多くの注目を集めている。

2.CCRCの本質

 CCRCは、日本では地方創生政策として注目されたがゆえに、高齢者の地方移住を促進するためのものというイメージが強くなってしまった。しかし、シニアの住まい方は多様である。自宅に継続して居住する人もいれば、自宅の近くに住み替える人もいる。中山間地から中心市街地に住み替える人もいれば、自宅から遠距離の場所に住み替える人もいる。人がどこに住むかは自由であり、CCRCは地方移住ありきではない。

 CCRCの本質とは何か。それは、カラダの安心(健康・介護支援)、オカネの安心(適切な生活・介護コスト)、ココロの安心(居住者のつながり・生きがい)の三つの安心の充足である。

 カラダの安心は、健康寿命を延ばすための運動、食事、社会参加に加え、要介護になった時や認知症の発症時に尊厳のある暮らしができることである。オカネの安心は、米国のCCRCに共通している理念であり、要介護になっても家賃は原則不変ということ。ココロの安心は、価値観や趣味の合う人たちと一緒のコミュニティーで暮らし、貢献欲求や承認欲求が満たされることだ。

 大切なのはこの三つの安心の担保であり、それはどこに立地しているかを問わない。CCRCが地方移住のイメージをもたれる理由は「主語」の置き方にあるのではないだろうか。政府(供給者)を主語とする「地方創生」の視点に立てば、CCRCは地方移住とセットにならざるを得ない。しかし、主語を高齢者(利用者)に置き換え「私が輝く暮らし」の発想を起点にすれば、CCRCは都市・近郊・地方のどこでも立地可能であり、地方移住ありきで考える必要はないことがわかる。

3.CCRC2.0の実現に向けて

 官主導×地方創生政策のCCRCを「CCRC1.0」とすると、今後CCRCを広く展開するには、民主導×新たなライフスタイルとしての「CCRC2.0」を目指すべきだろう(表)。そのために重要な視点は二つ。一つは民主導を支援・促進すること、もう一つは政策立案者ではなくユーザーを主語にすること、すなわちユーザーのためのCCRCにすることである。

[表] CCRC1.0とCCRC2.0の対比

 CCRC 1.0CCRC 2.0
主導者 国・地方公共団体 民間企業
主 語 政策立案者 ユーザー
ゴール 地方創生政策 新たなライフスタイルビジネス

出所:三菱総合研究所

(1) 民主導に向けた視点

 CCRCに取り組む地方公共団体の共通した悩みは、計画を策定しても事業主体がなかなか現れないことだ。その理由は、地元関係者の合意形成など、事業主体の負担が、非常に重いからである。実際、企業、医療法人などが高い関心をもちながらも、迷っているケースがあり、事業主体の後押しとなる「参入障壁の軽減」が必要である。さらに「減税や補助インセンティブ」などの制度設計も有効である。具体的には不動産取得税の減税、共用部への建設補助金、固定資産税の減税、また居住者の自立度や要介護度が改善された場合には、事業主体の法人税減税や奨励金の補助といったインセンティブが考えられる。

 CCRCの候補地が市街化調整区域、農業振興地域、都市計画公園である場合は、土地利用の柔軟な「規制緩和」が必要である。また50代のアクティブシニアを呼び込むには、原則60歳以上となっているサービス付き高齢者向け住宅の入居年齢を引き下げるべきだ。さらに週20時間、月10日以内と決められている現行のシルバー人材センターにおける勤務者の労働時間を延長することも考えられる。

 今後医療・介護費が増加していく財政状況を考えると、シニア住宅の収益構造は介護保険への依存度を減らし、自立した経営モデルを構築するのが望ましい。それは、介護をビジネスとするのではなく、要介護にさせないことをビジネスにする「逆転の発想」だ。米国では居住者の健康寿命を延伸させるために、予防医療、運動、食事、生涯学習が緻密にプログラム化されるなど、絶え間ない努力が続けられている。居住者はこうしたCCRCに魅力と価値を見いだしている。要介護にさせないための技術やサービスはまだ多々あるはずだ。

 米国のCCRCの経営者の”CCRC is not a real estate business, but a lifestyle business”というコメントが示すように、CCRCは単なる不動産事業ではない。ハードとソフトが融合した事業であり、健康支援、食事、IT、学習などの「組み合わせ型のライフスタイルビジネス」である。特に居住者の健康寿命延伸のためのビッグデータの解析などは有望分野である。米国では大学と連携してこの分野に注力している事業主体もある。また、日本の先駆的事例をみると、企業や社会福祉法人が単独で担っている事業主体が多い。しかし、開発から運営まで全て担うことは困難である。共同出資法人や有限責任事業組合方式で複数の企業からなる「事業主体の形成」を図れば、リスクをヘッジし、運営ノウハウを共有させた事業推進が可能となる。

(2) ユーザー主語に向けた視点

 今のCCRCの議論でもう一つ欠けているのが、「ワクワク感」ではないだろうか。「いつかあのCCRCに住みたい」という憧れや前向きな動機が必要であり、そこには「私が輝くライフスタイル」というストーリー性の訴求が求められる。

 シニアの住み替えで気になるのは「年賀状」だという。例えば「この度、東京の介護問題が不安なので、地方の老人ホームに引っ越しました」という年賀状だと、いかにも都落ちのようだ。しかし、「この度、『高知龍馬ビレッジ』に移住しました。かつて支社長として過ごした思い入れのある場所で、好きな幕末の歴史を地元の大学で学びながら、地元の特産品の営業アドバイザーをしています」といった内容であれば年賀状にも書きたくなるだろう。ほかにもテーマパークの近隣のCCRCやプロ野球、Jリーグと連携したCCRCであれば、孫も遊びに行きたくなり親子三世代で楽しめる。また大学連携だけでなく、旧制中学のような地方の名門高校に再び卒業生が集う高校連携型も可能性がある。さらにCCRCの隣にシングルマザーの住宅を併設し、彼女たちの雇用を担保すると共に、シニアが子育て支援に参加し、子供の家庭教師を担うような多世代連携型も考えられる。

 CCRCのような新たな暮らしを選ぶのは、「イノベーター(革新者)」といわれる層である。例えば初めてスマートフォンを使った人、最初にSNSを使い始めたような人である。スマートフォンで撮影した自らの写真をSNSで発信し、他の人と共有する姿を見て追随者が増えたように、今後はイノベーターがCCRCのライフスタイルを発信し、市場のけん引者となるはずだ。そのためにも彼らが満足するようなCCRCを創出しなければならない。

 CCRCでは集客戦略が重要である。米国のラッセル・ビレッジでは、敷地内の大学講座を最低年間450時間以上受講するよう義務づけ、入居条件のハードルを上げたことによって知的好奇心の高いシニアを呼び込むことに成功した。日本でも、近隣の大学での週10時間受講、その大学の学生のホスト・ファミリーとなる、地域で週10時間就労する、といった入居条件を設定するなど、「あえてハードルを上げる」戦略を取り入れてはどうか。

 また、CCRCは生涯活躍のまちと称されるように、アクティブシニアの活躍の基点であったが、ともすれば要介護や認知症の発症時に、継続的なケア=Continuing Careや尊厳のある暮らしを担保した本来のCCRCの姿を忘れがちになることがある。無論、アクティブであることも大切だが、要介護になった時に、“別の施設に移ってください”では本末転倒である。「Continuing Careの視点」でしっかりとユーザーの人生をフォローすることが重要だ。

 事業主体だけでなく、「居住者へのインセンティブ」も忘れてはいけない。もし居住者の自立度や要介護度が改善し、健康に生活できるようになった場合は、彼らの医療費や健康保険料を一部減額するアイデアだ。また、地域で50時間就労したら、その50時間を自分が介護を受ける時に使えたり、5,000円の地域通貨と交換できたりするポイント制度の導入も有効だ。

 低品質の「えせCCRC」の粗製乱造は絶対に避けねばならない。CCRCは自分の老後を託す重要な存在であり、それには客観的な品質保証が必要だ。米国にはCARFCCACという非営利機関が担う認証規格がある。ハード、ソフト、財務内容が評価対象であり、居住者の判断基準になり、機関投資家の投資評価基準にもなっている。日本でもユーザー視点に加え、市場の健全性のためにも、「認証規格制度」の設置を進めるべきである(図)。

[図] CCRC2.0実現に向けた12のポイント

民主導の視点
  1. 事業主体の後押し
  2. 減税・補助インセンティブ
  3. 規制緩和インセンティブ
  4. 逆転の発想
  5. 組合せ型ビジネスの視点
  6. 事業主体形成の視点
ユーザー主語の視点
  1. ワクワク感と年賀状問題
  2. イノベーターの視点
  3. あえてハードルを上げる
  4. Continuing Care の視点
  5. 居住者インセンティブ
  6. 認証規格制度

出所:三菱総合研究所

 CCRCに対して否定的、批判的な見方もあるが、カラダ・オカネ・ココロの安心が満たされたコミュニティーづくりに反対する人はいないはずだ。当社がCCRCの有望性を提言し続けてきた理由は、従来の老人ホームのイメージを払拭したシニアの新たなライフスタイルの可能性である。今こそCCRCの本質を見つめ直そうではないか。官主導の地方創生政策で始まったCCRC 1.0から、民主導のCCRC 2.0にシフトする重要な分岐点が今なのである。


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