想定外の危機に備える 新型インフルエンザ等感染症対策

Point
東日本大震災の経験を踏まえると、新型インフルエンザ対策にも「想定外」があってはならない。
2013年春の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」施行に向け、対策も進みつつある。
新型インフルエンザ等感染症対策の一環として、企業の事業継続計画(BCP)も再点検すべき。

■今もある新型インフルエンザの脅威と課題

 新型インフルエンザは、2011年に発生した東日本大震災のインパクトに押しやられ、私たちの意識から薄らいでいるように感じられる。しかしその脅威は今でも社会に根を下ろしている。震災の教訓を踏まえ、「想定外」をなくす対応が求められる。
 わが国の近年の新型インフルエンザ対策は、強い病原性の鳥インフルエンザ(H5N1)のヒトへの感染が確認され2005年に政府が「新型インフルエンザ対策行動計画」を策定したところから始まる。その後、2009年に豚由来の新型インフルエンザ(H1N1)が発生。その際は、病原性が弱いものであったこと、徹底した公衆衛生対策(学校閉鎖や手指消毒など)を講じたことで、他国に比較して小さな被害に抑えられた。
 一方、2009年の対策には多くの課題も指摘された。まず、実態に即した柔軟な対策ができなかった点だ。例えば、事前の計画どおりに実施された水際対策(メキシコからの帰国便の検疫強化など)は、やりすぎとの批判を受けた。国内未発生期の水際対策としては国内の感染拡大を遅らせる効果があるが、国内発生後の対策には効果が薄れるとされるためだ。これらを踏まえ、発生後の状況に応じて、対策の実施の可否や中止を決定するプロセス、政策判断・決定の仕組みを構築することが課題とされた。
 次に、事前準備の不備だ。特にワクチンの製造能力や接種体制が問題となった。ワクチンの供給は発生後約半年後に開始されたが、全国民分の生産には1年半ほどかかるため、緊急輸入された経緯がある。また、緊急時に、どのように接種するか、といった接種主体・体制も定まっていなかった点や、関係者との連携不足も問題になった点である。

■進みつつある新型インフルエンザ等の対策

 これらの問題を踏まえつつ、新感染症の発生も想定した対策を法的根拠に基づいて実施するために、「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)」が2012年4月に成立、13年春から施行される。
 今後は、特措法に基づいて、政府対策本部・本部長である内閣総理大臣が、病原性などについて専門家の意見を踏まえつつ「基本的対処方針」を決定することになる。例えば、強い病原性の新型インフルエンザ等感染症が発生した場合は「緊急事態宣言」を発動し、外出自粛や施設使用制限の要請・指示、住民への予防接種などを進めることとなっている。
 ワクチンの供給・体制についても約1,000億円が投じられ、生産施設・設備などが整備されてきた。来年度には世界のどこかで感染症の発生が確認されると、約半年後には全国民分のワクチンが生産可能となる。特措法では、国民生活・経済を維持するために、政府が具体的な要請を行う事業者を指定公共機関として指定するほか、「特定接種」という制度を設けた。この制度は、ワクチンを住民に先んじて国費で接種するもので、指定公共機関の一部の従事者を事前に登録し、発生時に本人の同意の上で接種する。また、全国民への予防接種を国、自治体で実施する仕組みも構築された。

■企業に求められる対策の再点検

 このように国、自治体では対策が進められているが、企業ではどのような対策を講じていくべきか。
 新型インフルエンザ等感染症は科学的に未知な部分が多く、被害や発生時の社会状況も現時点で予測不能な面が多い。現段階の想定に基づきつつも、発生事象に応じて柔軟に対応できる対策、すなわち想定外の危機に備える対策を講じる必要がある。
 「特措法」との関連で言えば、指定公共機関や登録事業者に選ばれる可能性の高い業界ではすでに検討が始まっている。例えば日本物流団体連合会は「新型インフルエンザ対策小委員会」を設置し、特措法が施行されるまでに、物流業界として必要な対応を検討するとのことだ。物流業界は緊急物資の運送の要請などが行われることになるため、都道府県などとの連携も十分図る必要がある。
 それ以外の一般の企業においても、「特措法」はBCPの見直しや強化のきっかけとなるだろう。企業の新型インフルエンザ対策のBCP策定時に留意すべき点は、「優先業務への重点化」と「感染防止策」を両立しながら実施することである。また、1つの流行の波が約8週間続き、反復して流行すると考えられていることから、自ら業務の操業レベルをコントロールしながら「細く長く継続できるBCP」を策定することも基本となる。企業は、まず政府で想定されている致死率や感染者数などに基づいたBCPを策定するとともに、さまざまなリスクのパターンを想定し、対応を事前に整理することが重要である。また対策を縮小する際のトリガーや、意思決定の仕組みを検討・構築することも必要である。
 その際、政府対策本部の緊急事態宣言や、それに伴う外出自粛や施設使用制限の要請などもトリガーの1つになるであろう。使用制限の要請対象となる施設などは、現在、政府などで検討されており、来春の特措法施行時に明確になる。また、政府や都道府県の行動計画も順次、改定されることになる。
 各企業は、感染症に関して政府などの今後の動きを確認するとともに、自社のBCPを再点検することが望まれる。

特措法を踏まえて企業が実施すべき対応

 当社では、2008年より新型インフルエンザの発生・蔓延は事業上の一つの脅威と捉えて、対策マニュアルに組み込んでまいりました。対策マニュアルにおいては、社員の生命を守ることと共に当社の事業活動に伴ってお客様への健康被害や社会的混乱を拡大させない事を基本方針としております。その上で、多様な罹患・蔓延シナリオをパターンとして整理して業務活動に対して自主的な意思決定を行えるようにしております。また、来春の施行が見込まれる新型インフルエンザ等特別措置法を踏まえて、行政や公的機関の意思決定とも連動する事を意識しています。
 なお、当社では従来からリスクマネジメントや危機管理コンサルティングを企業や自治体のお客様に実施しておりますが、新型インフルエンザを含めた危機対応、事業継続マネジメントなどにおいてもご要望に応じたご支援をさせていただいております。

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