[国際]EUがイノベーション波及に果たす役割

Point
英国の離脱選択などEU統合深化へ逆行する動きが強まっている。
しかしEU統合はイノベーション波及に寄与してきた可能性がある。
活力減退を防ぐため、各国のイノベーション力と成果吸収力の向上が重要。

政策・経済研究センター 田中 康就

 欧州では、英国がEU離脱を国民投票で選択したほか、イタリアで極右とポピュリストによる連立政権が樹立された。背景には、EU統合深化が、移民・難民の増加やグローバル化を促し、不平等感の拡大をもたらした、との不満がある。

 しかし、EU統合深化は、域内全体にイノベーション力を波及(スピルオーバー)させ、経済成長にも寄与してきた可能性が高い。GDPで加重平均した「グローバルイノベーション指数(GII)」の世界ランキング(2018年実績)を見ると、2位のオランダや3位のスウェーデンを筆頭に、上位には軒並みEU諸国が並ぶ(表)。理由として考えられるのは、域内でヒトやモノや知識が流通しやすい点であろう

 EU加盟国は、関税撤廃や共通通貨ユーロの導入を後ろ盾として、国境を越えたサプライチェーンを組みやすく、域内貿易が盛んである。パスポートの提示なしで越境を認めるシェンゲン協定により、各国間の移動も容易である。また、加盟国間で製品の規格や規制の共通化が進んでおり、他国の事例を自国に適用しやすい。さらに、2014~20年にEUが約800億ユーロ(約10兆円)の公的資金を投じて研究開発・イノベーションを助成する「Horizon2020」プログラムのもと、共同研究を通じた知識の域内浸透が加速している可能性がある。

 イノベーション力の高い国の知識や技術が域内へとスピルオーバーすると、国境を越えて生産性が押し上げられる。さらに、各国が得意分野(比較優位)を生かして協働すれば、EU全体のイノベーション力も高まる。

 だが、EU 統合深化が逆行すれば状況は変わる。一例として、英国がこのまま離脱してしまうと、EUのGII指数平均は53.1から52.0へと低下する計算*1になる。イノベーション力自体とその成果を吸収する力の双方を減退させることなく、スピルオーバーに有利な環境を維持することが求められるだろう。そのためには、各国間の利害調整に加え、金融危機に伴う不況の長期化によって低下した、企業の投資活動や労働の質を向上させることが重要となる。

表 グローバルイノベーション指数(GII)の世界上位10カ国


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