(1) 世界の「内向き志向」の強まり
2016年は欧米の大国で「内向き志向」が強まった象徴的な年となった。最大のサプライズは、11月の米国大統領選でのトランプ氏勝利であろう。トランプ氏は、自国の経済的利益を最大化するため、環太平洋パートナーシップ(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、メキシコや中国に対する関税引き上げなど強硬な保護主義政策を主張する。「内向き」な政策を掲げての勝利は、国際社会での大国の役割より、自国の利益を優先せざるを得ない経済社会構造の変容を表すものでもある。
欧州でも「内向き志向」がみられる。英国では、6月に欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票で離脱派が勝利し、ドイツやフランス、イタリアなどでも反EU政党が勢力を拡大。欧州の平和と繁栄を目指すEU統合の理念より、統合による経済的・社会的デメリットを問題視する動きが広がった。
欧州でも「内向き志向」がみられる。英国では、6月に欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票で離脱派が勝利し、ドイツやフランス、イタリアなどでも反EU政党が勢力を拡大。欧州の平和と繁栄を目指すEU統合の理念より、統合による経済的・社会的デメリットを問題視する動きが広がった。
(2) 成長下振れが続く世界経済
世界経済の成長率は、前年と同様に低調な伸びに終始した。IMF見通しによると、2016年の世界経済の実質GDP成長率は前年比+3.1%と、1年前の予測(同+3.6%)を大幅に下回り、期待外れの成長にとどまった。
先進国経済は、期待成長率の低下などから投資の不振が続き、リーマン・ショック前の水準を回復していない。こうした背景には、総需要の大幅な落ち込みが潜在GDPの低下を招き悪影響が持続する「履歴効果」や、技術革新力の低下などが挙げられる。新興国経済は、所得水準の着実な上昇は続くものの、中国経済の構造調整圧力の強まりや原油安による資源国経済の下振れなどが回復の重石となった。
先進国経済は、期待成長率の低下などから投資の不振が続き、リーマン・ショック前の水準を回復していない。こうした背景には、総需要の大幅な落ち込みが潜在GDPの低下を招き悪影響が持続する「履歴効果」や、技術革新力の低下などが挙げられる。新興国経済は、所得水準の着実な上昇は続くものの、中国経済の構造調整圧力の強まりや原油安による資源国経済の下振れなどが回復の重石となった。
(3) 浮き彫りになった先進国のひずみ
欧米大国で進む「内向き志向」の根は深い。共通する特徴として、低成長が続く中、グローバル化の進展や移民の増加、経済格差の拡大、既存の政治(EUの過剰規制や権限拡大など)に対する国民の不満の高まりがある。今回の米国大統領選では、ラストベルト(錆び付いた工業地帯)※1と呼ばれる、かつて製造業が盛んだった州を接戦でものにしたことがトランプ氏の勝因とされる。機械化・IT化による「普通の仕事」の喪失や、所得上位0.1%の全所得に占める割合が7~8%に達するなど、極端な「富の集中」といったひずみが、政治でも表面化した。
(4) 世界的に高まる不確実性
世界の内向き志向の強まりを受け、先行きに対する不確実性がとみに高まった年でもあった。英国のEU離脱選択により、同国のEU単一市場アクセス権の行方が不透明になったほか、米国のTPP離脱やNAFTA再交渉の可能性が高まるなど、グローバルな経済活動の前提となる取り決めが根底から覆される可能性が一気に高まった。企業からみれば、先行きが「読めない」こと自体が、経営上の大きなリスクとなった。
(5) 強まる「スロー・トレード」現象
貿易量の伸びが経済成長率を下回ることを指す「スロー・トレード」現象も強まった。2016年の世界の貿易量は前年比0%まで低下、2008年のリーマン・ショック時を除けば1992年以降で最低の伸びとなる。背景には、世界的な投資需要の低下といった循環要因に加え、新興国での技術力向上による現地調達(生産の内製化)の進展や、各国の貿易制限措置発動による自由貿易化の弱まりといった構造要因もある。「スロー・トレード現象」もまた、世界の低成長と内向き志向の強まりの結果として捉えられよう。