TOPICS 50周年記念研究 活動トピックス
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50周年記念研究 活動トピックス

「13番目の人類」
―フロネシス22号発売

2020.04.27

三菱総合研究所は2020年9月に創業50周年を迎えるのを機に、次の50年を展望して「目指すべき未来社会」の設計とその実現方策の研究を進めています。50周年記念研究のテーマは「100億人・100歳時代における豊かで持続可能な社会の実現」です。この中では、次世代の「ウェルビーイング(幸福のかたち)」も、重要な観点としてとらえています。

この研究において当社は、先端技術が未来社会を実現する重要な駆動力となることに着目しています。2020年4月に発売した『三菱総合研究所の未来読本 フロネシス』22号では、そうした技術の一つとして「人間拡張技術」をとりあげました。

ここでは、50周年記念研究の活動トピックスとして『フロネシス』22号で展開された、さまざまな分野の稀有な識者からの問いかけや当社研究員による論考の一端を紹介します。本書のタイトルは「13番目の人類」です。

現人類は12番目

「13番目」は、われわれ「ホモ・サピエンス」が人類として12番目の進化形態とする学説をもとにしています。一方、50周年記念研究では、世界全体で健康寿命が延び100億人が100歳まで生きるようになったら、いかなる社会が出現するのかという未来予測が、大きなテーマとなっています。

今回のフロネシスでは、科学技術によって進化を遂げた「13番目の人類」の姿を、人と人との関係の変化を含め、さまざまな角度から描こうと試みました。表紙に描かれた顔は新たな人類の想像図でもあるのです。右半分が素顔で、左半分がメカニカルな顔というその表情からは、人間なのかロボットなのか、男性なのか女性なのかすら、うかがえません。これは、さまざまな境界線を越えた、新たな人類の可能性を表現したものです。

表紙イラストはニューヨーク在住のイラストレーター・目黒ケイさんに依頼しました。目黒さんは現在、朝日新聞朝刊における連載小説の挿絵を担当されていますが、鉛筆ドローイングによる写実的な人物画がSNS上で話題を集めています。サイボーグ感のある人物画を描いてみたいと思っていたところに、今回の企画が一致したとのこと。目黒さんはイラストに印象的な差し色を1色加えることが多いのですが、今回は意外にも「白」を差し色として右目にはめ込み、これが人の目を引くアクセントになっています。

Phronesis22  13番目の人類

定価:1,800円(+税) 発売日:2020.4.8 発行:ダイヤモンド社

人間が重視される社会へ

絵的な部分に加え、文章で新たな人類の姿を描くためにインタビューさせていただいた「フロネティックリーダー」の顔ぶれも多彩です。稀代の名棋士である羽生善治さん、解剖学者の養老孟司さん、映画版「攻殻機動隊」監督の押井守さん、生命に関する芸術作品の多いアーティスト長谷川愛さん、そして「寿命100歳以上の世界」到来を約10年前に予言していたソニア・アリソンさん。ほかにも、人間拡張技術のパイオニアが目白押しです。

羽生さんは、AIならばマイナスだと判断して避ける将棋の1手が20手先ではプラスに働くかもしれないと信じられる愚直さこそが人間の強みだと指摘しました。しかし、単に人間に軍配をあげたわけではありません。現状のAIに倫理観はないものの、「人間には絶対的な倫理観があるのかといわれると、答えに詰まる」「AIの登場によって、人間の本質的な部分への問いかけがもたらされているのではないか」との問題提起も忘れませんでした。

養老さんは、「人間が本当に楽しめるのは自然から与えられたもの。それ以外の人工的なものを心から楽しむのは難しい」と語りました。押井さんも、「人間のなかには動物と同じ自然状態がある。その自然な部分を掘り起こしてみることが重要」であり、人類は今こそ進化のあり方を改めて考えてみるべきである、と説きました。

フロネティックリーダーのみなさんの主張は、50周年研究で目標に掲げる未来社会の輪郭を示しています。そうした社会をどう呼ぶべきかについて当社内ではまだ決まっていません。しかし、人間の健康寿命や能力を延伸させる人間拡張技術が格差拡大を招くような社会ではないことは確かです。むしろ、こうした技術が個人および社会全体のウェルビーイングの達成につながっていくような社会です。そのような社会では次世代である13番目の人類だけでなく、12番目であるわれわれも含めた、多様な人々が幸せになれることが重要なのです。

当社の「総合力」を駆使

そして、当社の多くの研究員が、「こんなことができるようになったら」(What if)との視点に基づいて分析を行い、人間拡張技術が拓く未来社会の可能性を提示しています。総論に当たるカバーストーリーでは、「13番目」の詳しい説明をするとともに、人間拡張技術が現在どこまで進んでいるかを解説しました。

人間・生命拡張に関わる技術のカオスマップ

出所:三菱総合研究所編著『フロネシス22号 13番目の人類』(ダイヤモンド社、2020年)

そのうえで各論では、「健康維持と老化防止」、「AI」、「コミュニケーション」という3つのテーマごとに、技術が人間をどういった方向に変えていくのか考察しています。合間には、科学技術と倫理との関係に関するコラムや、明るい未来を予感させる世界各地でのイベントを簡潔に紹介するコーナーも配置しました。

内容が盛りだくさんになった結果、過去の号で120ページ前後が一般的だった分量は今回152ページに達し、読み応え十分の1冊となっています。

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