2019年11月に中国の武漢で初症例が発見された新型コロナウイルス。感染の波は瞬く間に世界に広がり、ヨーロッパや米国の主要都市では、実質的な医療崩壊を招き、一部の都市ではロックダウンを実施。都市機能はまひし、市民生活や経済に大ダメージを与えた。
日本では2020年4月から5月にかけてと、8月から9月にかけての2回、感染増加の波を迎えた。マスクやアルコール消毒液などが一時期入手困難になり、緊急事態宣言の発令によって食料品の買い占めが起こるなどの混乱もあったが、現在までのところ医療および経済や暮らしの崩壊は何とか免れている。しかし、この秋冬にかけて感染拡大の再燃が危惧されているのは周知のとおりである。
仮に今回のパンデミックを乗り切ったとしても、過去にもSARS、MERS、新型インフルエンザなど、新たな感染症が次々と発生しており、今後も同様の事案が起こることはほぼ間違いない。未知の感染症に対して、どうすれば被害を最小限に食い止められるのか。今回の新型コロナウイルスへの対応から見えた課題について3つ挙げたい。
日本では2020年4月から5月にかけてと、8月から9月にかけての2回、感染増加の波を迎えた。マスクやアルコール消毒液などが一時期入手困難になり、緊急事態宣言の発令によって食料品の買い占めが起こるなどの混乱もあったが、現在までのところ医療および経済や暮らしの崩壊は何とか免れている。しかし、この秋冬にかけて感染拡大の再燃が危惧されているのは周知のとおりである。
仮に今回のパンデミックを乗り切ったとしても、過去にもSARS、MERS、新型インフルエンザなど、新たな感染症が次々と発生しており、今後も同様の事案が起こることはほぼ間違いない。未知の感染症に対して、どうすれば被害を最小限に食い止められるのか。今回の新型コロナウイルスへの対応から見えた課題について3つ挙げたい。
①新型コロナウイルス(COVID-19)発見および公表の遅れ
現在のところ、中国で初症例が発見されたのは、非公式ながら2019年11月17日といわれている。しかし、ウイルスを分離しゲノム解析を開始したのは12月24日以降。12月28日にゲノム解析が完了するまで41日が経過している。初症例の発見からすぐに解析を行っていれば、1カ月以上早くウイルスを特定できていたことになる。
さらに、中国政府からWHO(世界保健機関)への報告は2019年12月31日にされているが、その後の情報も過少報告が疑われるものとなっており、WHOによるPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)が発令されたのは2020年1月30日になってからのこと。渡航制限への言及もなかった。
しかし、2020年1月14日の時点で、中国政府は人から人への感染を国内に警告し、同月23日には武漢市の完全封鎖に踏み切っている。情報統制や情報隠蔽(いんぺい)による発見や公表の遅れは初動の遅れに直結し、多くの人命に関わる課題である。真っ先に対策を講じる必要がある。
さらに、中国政府からWHO(世界保健機関)への報告は2019年12月31日にされているが、その後の情報も過少報告が疑われるものとなっており、WHOによるPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)が発令されたのは2020年1月30日になってからのこと。渡航制限への言及もなかった。
しかし、2020年1月14日の時点で、中国政府は人から人への感染を国内に警告し、同月23日には武漢市の完全封鎖に踏み切っている。情報統制や情報隠蔽(いんぺい)による発見や公表の遅れは初動の遅れに直結し、多くの人命に関わる課題である。真っ先に対策を講じる必要がある。
②WHOや各国政府の対応の遅れ
感染症のパンデミックを防ぐ鍵を握る初動段階で、国や地域の対応に大きな開きがあった。台湾では、2019年12月30日の武漢の医師によるSNS上のグループチャットを通じた告発にすぐさま反応し、翌日にはWHOに照会をかけ、武漢からの渡航制限に踏み切っている。また、国内初症例が確認される前日の2020年1月20日には、対策本部を設置している。韓国も同様に初症例が確認された当日の1月20日に対策本部を設置した。
一方、日本では1月16日に国内初症例が確認されているが、対策本部が設置されたのは、それから2週間後の1月30日のことである。3月に中国の習主席の国賓としての来日予定、夏に東京オリンピック・パラリンピック開催を控えていたという事情はあるとはいえ、初動で大きく後れをとったといわざるを得ない。米国でも、個人の活動制限が行われたのは国内初症例確認から57日後の3月17日と大幅に後れをとっている。
こうした対応で後れをとった国の多くに共通するのは、パンデミックの脅威を過小評価していただけでなく、政治的な優先度が低く、科学的根拠に基づく助言が通らなかったことである。WHOについても基本的な図式は同じで、加盟国の利害が情報収集とパンデミック対策の足かせとなった。そのうえ、WHOの要請や勧告は強制力をもたないという制度上の限界も露呈した格好だ。
一方、日本では1月16日に国内初症例が確認されているが、対策本部が設置されたのは、それから2週間後の1月30日のことである。3月に中国の習主席の国賓としての来日予定、夏に東京オリンピック・パラリンピック開催を控えていたという事情はあるとはいえ、初動で大きく後れをとったといわざるを得ない。米国でも、個人の活動制限が行われたのは国内初症例確認から57日後の3月17日と大幅に後れをとっている。
こうした対応で後れをとった国の多くに共通するのは、パンデミックの脅威を過小評価していただけでなく、政治的な優先度が低く、科学的根拠に基づく助言が通らなかったことである。WHOについても基本的な図式は同じで、加盟国の利害が情報収集とパンデミック対策の足かせとなった。そのうえ、WHOの要請や勧告は強制力をもたないという制度上の限界も露呈した格好だ。
③感染症に対する日本国内の準備不足
日本国内に目を向けると、感染症への準備不足は明らかである。1989年に848あった保健所数は、1997年を境に大きく減少し、現在469となっている※1。保健所の機能を平時に向けて最適化した結果、今回のパンデミックで発生した膨大な業務に規模的に対応しきれなかったことに加え、新規感染者数の報告がいまだにFAXでなされているなど、非効率な業務プロセスも機能不全に拍車をかけた。
諸外国に比べて圧倒的に少ないPCRの検査数についても、政府は「目づまりがあった」と表現しているが、分解すれば、検査機器不足や検査員不足、また検査の自動化などへの対応の遅れに起因しており、その背景として、検査キットの開発や検査機器の導入における許認可面での不備などが指摘されている。
このほか、冒頭でも触れたとおり、マスクやアルコール消毒液、医療機関用の防護服など医療物資の不足も表面化した。パンデミック対策に必要不可欠な物品まで、経済性を優先して輸入に頼る現状を改善していく必要がある。緊急事態宣言発令の遅れなど、法律やガイドラインの不備も課題だろう。
諸外国に比べて圧倒的に少ないPCRの検査数についても、政府は「目づまりがあった」と表現しているが、分解すれば、検査機器不足や検査員不足、また検査の自動化などへの対応の遅れに起因しており、その背景として、検査キットの開発や検査機器の導入における許認可面での不備などが指摘されている。
このほか、冒頭でも触れたとおり、マスクやアルコール消毒液、医療機関用の防護服など医療物資の不足も表面化した。パンデミック対策に必要不可欠な物品まで、経済性を優先して輸入に頼る現状を改善していく必要がある。緊急事態宣言発令の遅れなど、法律やガイドラインの不備も課題だろう。