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汎用AI 第1回
ヒトを超える賢さをもつAIを実現し、そのAIがヒトに寄り添う社会

「汎用AI」実現の近道は複数アプローチの組み合わせ

未来構想センター 中村 智志 2020.04.17

「特化型AI」の発展で期待が高まる「汎用AI」の実現

映画にしばしば登場する未来のロボットは、人間と同じように考え、行動し、学習可能なように描かれます。ロボットであるにもかかわらず、どこか人間臭さを感じさせる姿の理由は、組み込まれたAIが非常に高度化されているからです。そうした未来のAIと比べると、現在のAIの機能はまだまだ限定的です。

AIは、一つの機能に限定された「特化型AI」と、さまざまな機能を一つのAIで実現する「汎用AI」の2種類に大きく分類できます。私たちが現在接しているAIは「特化型AI」のことを指します。一方の「汎用AI」は、現時点ではまだ実現できていません。AI研究が始まった1950年代から「人間のようなロボットを作りたい」といった「汎用AI」のコンセプトに近い発想はありましたが、技術的な制約もあり、特定の機能に限定した「特化型AI」の開発が進められてきたのです。

2000年代に入ると、コンピューター・デバイスの進歩とともに、「特化型AI」の開発がさらに進められてきました。その過程で、ディープラーニングをはじめとした汎用性のある要素技術が急速に発展していきます。さらに、「汎用AI」を研究・開発するヒントとなる、人間の脳への知見も深まっていきました。これらの技術的な飛躍を契機として、「汎用AI」の実現を模索する企業や研究機関が現れ始めています。

「汎用AI」実現の先に懸念される寡占プラットフォーマーの脅威

汎用AIの実現を検討するなかで常に議論されるのが、将来的にAIが人間を支配するのではないか、つまり汎用AIの自己学習能力が高度化することによって、「技術的特異点(シンギュラリティ)」を超えるのではないかという点です。シンギュラリティとは、人間の介在なしにAI自身が自律的に進化しはじめる時点を意味します。シンギュラリティを超えると、汎用AIは人間の能力を超える存在になると考えられ、例えば今ある職や労働をロボットに代替されてしまうことにも懸念が及んでいます。

AI研究の権威であるレイ・カーツワイルら※1は、汎用AIによるシンギュラリティが2045年頃に訪れると予測しています。一方で2045年までに人間の知性と同等もしくは人間の能力を超えた汎用AIが完成しているという予測には懐疑的な研究者も多く、意見が分かれるところです。

今盛んに論じられているのは、汎用AIのインフラ独占への危惧です。汎用AIがシンギュラリティを引き起こすか否かにかかわらず、将来的に汎用AIを実現できるのは高度な技術を保有する限られた組織になるでしょう。そうなると、世界でも少数のプラットフォーマーのみが汎用AIのインフラを独占し、その結果、それらの組織に富が集中して、国家以上に権力をもつに至ることも予想されます。

以上のようにAIに関しては、AIによる人間支配、多くの職がAIに奪われてしまうこと、独占的なプラットフォーマーへの富と権力の集中など、さまざまな懸念が国内外で広がっています。これらを背景に、AIの開発方針や、AIと倫理、AIと社会のかかわり方について、国家や企業を超えた検討が始まっているのです。

「汎用AI」実現に望まれる知見共有による技術的飛躍

汎用AIの実現に向けては、技術的課題も明らかになってきています。汎用AIを実現するアプローチは、大きく分けて4種類あります(図1参照)。4つのアプローチに共通しているのは、AIにとってのディープラーニングにあたるような、技術的な飛躍がなければ実現が困難なことです。4つのアプローチを詳しくみてみましょう。

図1

汎用AIを実現する方式

注1:機械学習(教師あり/なし学習、強化学習)、深層学習、およびその派生なと

注2:脳の各器官(新皮質、海馬など)を機械学習モジュールとして開発・統合するなどのアプローチ

出所:三菱総合研究所

機械知能(マシンインテリジェンス)によるアプローチは、現在の特化型AIの延長によって、汎用AIの実現を目指す取り組みのことです。一方、全脳アーキテクチャによるアプローチは、人間の脳を模倣することで汎用AIの実現を目指す取り組みを指します。これらの工学的(計算機科学的)アプローチによって汎用AIの実現を目指すには、ハードウエアとアルゴリズムの革新が必要となります。

ブレイン・マシンインターフェースによるアプローチは、人間の脳と計算機を接続し、脳の活動を理解することで汎用AIの実現を目指す取り組みのことです。一方、生物学的な認知エンハンスメントによるアプローチは、人間の脳に介入して、脳機能の拡張を行う取り組みです。これらの生物学的アプローチを進めるには脳の構造を理解することが必須となりますが、現状では脳機能の解明が十分ではありません。

いずれのアプローチからも汎用AIの実現に近づく可能性はありますが、個別のアプローチによって一足飛びに汎用AIを実現することは困難です。今後は複数のアプローチの知見を組み合わせ、総合的に取り組むことが近道となるでしょう。そのためには、各アプローチの研究を行っている団体間で、これまで以上に情報共有を進めるべきです。汎用AIは、宇宙開発技術などと同様に、世界で共有する技術として、国際的な協力に基づき発展させていくことが望まれます。

※1:The Singularity Is Near:When Humans Transcend Biology(2005), Raymond Kurzweil, Viking Press
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