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汎用AI 第2回
ヒトを超える賢さをもつAIを実現し、そのAIがヒトに寄り添う社会

マシンインテリジェンスによる汎用AI実現の可能性 ――汎用AIというよりは「汎用性を高める技術」に注目を

機械学習技術を用いて構築することができる知的能力を指してマシンインテリジェンスと呼びます。マシンインテリジェンスは、第1回のコラムで取り上げた「特化型AI」の代表的な実現方法の一つです。 近年の機械学習の技術的な発展は目覚ましく、このまま機械学習技術 が向上すれば、近いうちに人間の知的能力を超えてしまうのではないか、そこまで行かずとも人間の作業の大半をコンピューターが代替してしまうのではないか、という予想や期待があります。しかしながら専門家の多くは、現状の機械学習技術の延長で 「汎用AI」が実現するのはまだ遠い将来だと考えています。本コラムでは、その理由について解説するとともに、汎用AIをビジネスに展開するにあたっての留意点について考えたいと思います。

機械学習により汎用AIを実現するために必要な機能

機械学習的なアプローチで汎用AIを実現するために必要な機能はどのようなものでしょうか。これについては、さまざまな考え方で研究が進められています。例えば、チェコのスタートアップ企業であるGoodAIによるもの※1や、ニューヨーク大学の研究によるもの※2が著名です。これらの考え方を参考に、機械学習技術の延長線上で汎用AIが実現するために必要となる能力をまとめると、表1の5つが挙げられます。以下では各能力について、人間の能力と対比して説明します。

表1

機械学習による汎用AIが有すべき5つの能力

能力1 少ないデータで学習できる
能力2 実世界の多様な問題を解ける
能力3 知識や経験を蓄積して活用できる
能力4 自ら適切な情報源を探して知見を蓄えられる
能力5 仮説を設定し、試行錯誤してそれを検証して答えを得られる

出所:三菱総合研究所

能力1:少ないデータで学習できる

多くの人間は日常生活で目にすることが少ない動物(ライオン、ゾウ、カバ、シマウマなど)を識別することができます。少数の写真を見ただけで、高い精度でそれらの動物を識別できますが、それは子どもの時に数千枚※3の写真を見せられたからではなく、少数の写真から学習した結果、識別できるのです。

能力2:実世界の多様な問題を解ける

人間は、例えば動物の写真ではなくて、動物が描かれた絵本やイラストを見たり、文章で動物の説明を読んだりすることを通じても、それがどのような動物であるかを識別し、柔軟に理解します。表現手法としては明らかに差異のある写真、イラスト、文章を結び付けて、ある一個の動物であると判断できる能力が人間には備わっています。

能力3:知識や経験を蓄積して活用できる

人間は教育を受けることや、仕事を教わりスキルを獲得することを通じて、知識を蓄積し、それを実生活の問題に適用することができます。もしAIがこの能力をもてば、すでに大量に存在する人間用の教育資料を用いて学習し、高度に抽象的な概念を獲得することができます。

能力4:自ら適切な情報源を探して知見を蓄えられる

能力3と類似していますが、能力3よりも高度な能力と考えられます。他者から教えられることなく、自ら問題意識をもって情報源を探索・学習し、得られた知識を用いて問題を解決する能力です。もしAIがこの能力をもてば、インターネット上の大量の情報を取得して理解し、問題を解決することが可能となります。

能力5:仮説を設定し、試行錯誤してそれを検証して答えを得られる

実生活の高度な問題を解決するために仮説を自ら設定し、仮説の正しさを検証することにより問題解決を行う能力です。もしAIがこの能力をもてば、研究活動や新商品の開発など、創造性が必要とされる作業をも代替することが可能となります。

機械学習による汎用AIの実現に向けた現状

汎用AIの実現に向けて必要となるこれらの能力に対して、現状のAIの技術開発ではどの水準まで実現できているのでしょうか。

能力1

現状の機械学習では大量の学習用データが必要となります。少ないデータで学習できる能力の実現は、機械学習においても大きな課題の一つです。現時点でも、機械学習に必要となるデータ数を減らすことで効率を高めるさまざまな手法が考案され、一定の効果を上げています。しかし、人間並みの水準を実現できるめどは立っていません。

能力2

現状の機械学習の手法でも、狭い範囲ならば多少の柔軟性をもつことは可能になっています。例えばカメラで撮影された画像認識の場合、対象物のさまざまなバリエーション、撮影時の昼夜の違いや撮影角度の違いなどを適切に解釈し判断することまでは可能です。しかしまだ人間並みの柔軟性には遠く及んでいません。

能力3~5

研究開発としてはまだ黎明(れいめい)期にあります。研究者によっていくつかのアプローチが提案されているものの、どのアプローチもまだ決め手となる解明には至っていません。アプローチの一つとして、アメリカの国防高等研究計画局(DARPA)が研究を進めているLifelong Learning※4と呼ばれる手法では、能力3に関係する「記憶の仕組み」のメカニズムや、能力4に関係する「好奇心の仕組み」のメカニズムなどを取り入れた機械学習の手法が考案されています。ただし、この取り組みでも、あくまで能力3~5に対して、機械学習技術として扱いやすい側面に限って実現しているにすぎません。また図1で示すように、現時点で複数のアプローチが存在する中で、この手法が今後普及するかどうかは未知数です。

図1

機械学習による汎用AIの実現:現行技術との大きなギャップが存在

出所:三菱総合研究所

汎用AIの研究開発がもたらすビジネス面へのインパクト

このように機械学習技術の延長で汎用AIを実現することは、まだまだ発展途上で、現状では技術的な糸口すら見えていません。一方、汎用AIを目指す技術をビジネスに活かすという意味では、上記5つの能力のいくつかが部分的に実現されるだけでも、大きなインパクトがあります。例えば、能力1「少ないデータで学習できる」能力について、効率性の高い手法を開発すると、データのラベル付けにかかる大きなコストを劇的に下げることにつながり、短期的なビジネス上のメリットも大きいと言えます。このような背景から、Google BrainやOpenAIに代表される汎用AIを志向する企業が、大手企業から莫大(ばくだい)な出資を得て活発な手法開発を行っています。

マシンインテリジェンスによって「汎用AI」が実現するのはまだ遠い将来かもしれません。しかし機械学習技術の汎用性を高めていく過程にも、ビジネスの可能性が広がっています。今後、国内企業が機械学習技術を活用したビジネス展開を検討する際にも、機械学習の汎用性を高める技術をいかに開発し、活用できるかが、ビジネスの成功の重要な要素となるでしょう。

  • ※1:GoodAI: Roadmap
    https://www.goodai.com/roadmap/ (閲覧日:2019年12月22日)
  • ※2:Lake, Ullman, Tenenbaum and Gershman(2017)Building machines that learn and think like people, Behavioral and Brain Sciences, 40: e253. doi:10.1017/S0140525X16001837
  • ※3:機械学習手法の一種である深層学習による画像認識の場合、数千以上の学習データ
  • ※4:Lifelong Learning Machines (L2M)
    https://www.darpa.mil/program/lifelong-learning-machines (閲覧日:2019年12月22日)
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