マンスリーレビュー

2019年5月号トピックス1スマートシティ・モビリティ

移動制約者の生活を支える完全自動運転のあり方

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2019.5.1

次世代インフラ事業本部鯉渕 正裕

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 移動制約者を支援する手段として、完全自動運転への期待は大きい。
  • サービス実現には技術に加え、使い勝手の検証が不可欠となる。
  • 利用者と事業者の意図したサービスができるよう、今から試行の積み重ねを。 
ドライバーレスな完全自動運転の実証実験が全国各地で進められている。過疎化に伴い路線バスが廃止された地域では、足腰の弱った高齢者など移動制約者の外出手段の確保が急務である。そのような地域では運転手も不足していることが多いため、完全自動運転による移動サービスへの期待は非常に大きい。

しかし、こうした実証実験は、技術の検証に重きを置いている傾向が強い。移動制約者を含め利用者の求めに応じられるかどうかの確認が難しいケースも散見され、肝心な使い勝手の検証が後回しになりかねない懸念がある。

確かに、移動制約者を支援する完全自動運転サービスの実現は、車両の自動運転技術自体の開発や道路環境、関連法制度の整備が大前提となる。だが、単にドライバーが人からシステムに置き換わるだけでは、サービスとして完全にはならない。多様な移動制約者が、さまざまな状況下で自律的かつ安全に利用できるようにする工夫が必要だ(図)。

例えば、複数の車いす利用者が使う場合を考えてみよう。介助なしに乗降できるのか、乗り遅れをチェックできるのか、車内で孤立し不安を感じないようにできるのか、車両故障や急病人発生といった緊急時に迅速に対応できるのか。こうした課題の克服なしに、実サービス化は難しい。

鍵は自動運転車を遠隔できめ細かく監視・操作できる仕組みの構築にある。コスト抑制も欠かせない。このため、運行事業者とは別に、特定地域内の遠隔制御を一括して手がける管理会社を、自治体や交通事業者などが設立するのも有効だろう。地元の道路事情を熟知したタクシーやバスの元運転手をオペレーターに起用すれば対応は充実する。管理拠点に自治体の健康相談員を配置して車内にいる高齢者との相談ができれば、監視業務の効率化と人件費抑制が期待できる。

移動制約者が自動運転サービスを自律的かつ安全に利用でき、事業者が意図したとおりの運用を可能にするためには、今から実サービスに近いかたちで試行を積み重ね、考え得る課題を丁寧につぶしていくことが重要であろう。
[図]移動制約者の生活を支え得る自動運転サービスの要素