スタートアップ共創

スタートアップとともに、未来を創る。社会課題解決に導くMRIの共創プロジェクト

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社内外のつながりが広がった「MRI DEMO DAY 2023」

八巻 MRIは今まで社会課題解決型シンクタンクとして、官公庁や大企業をクライアントとする事業を推進してきました。国の事業としてスタートアップ支援を実施したり、実際にスタートアップと連携した事業開発にも携わってきました。また、こうした事業活動とは別に、広く社外にネットワークを形成し、イノベーションを通じた社会課題解決を目指した会員プラットフォーム「未来共創イニシアティブ(以下、ICF)」を構築しています。ICFでは社会課題の解決を目指すスタートアップを支援し、共創事業創出を目指す「ICF Business Acceleration Program(以下、BAP)」を実施するなど、スタートアップとの共創をさらに進めているところです。

2023年3月には、MRIのスタートアップ共創の取り組みを対外的に発表する「MRI DEMO DAY 2023」を初めて開催しました。これも、当初はBAPの成果発表会という位置づけだったのですが、最終的には事業部門やコーポレート部門も含め、MRI全体としてのスタートアップ連携・共創の取り組みを紹介するプログラムになりましたね。DEMODAY開催から数か月が経過しましたが、反響や進捗はいかがですか?
八巻研究員
加藤 BAPは2016年からスタートアップ支援・共創に取り組んでいます。ただその対象は、ICFのプラットフォームの中でビジネスマッチングや共創可能性を模索するなど、あくまで会員同士でオープンイノベーションを目指す活動に留まっていました。

今回DEMO DAYを開催したことで、ICFの枠を超えた初の集いとなり、社会課題解決ビジネスに関心の高い社内外の多様な方々に訴求できたと感じています。また、BAPでは、1次・2次審査を経てファイナリスト(最終審査会に進出する企業)を選考します。その後、当社研究員によるメンタリングを経て、スタートアップ単独で最終審査会のピッチに臨んでいただきます。一方、DEMO DAYでは、ファイナリストと一緒にメンタリングを担当したMRI研究員もピッチのステージに上がることにしました。この結果、チームとしての一体感も高まり、よりMRIがスタートアップ共創に本気であることがご来場の皆さまにお伝えできたのではないでしょうか。
八巻 研究員とスタートアップメンバーがおそろいのTシャツを着て登壇したりね。MRIの研究員も、スタートアップ共創チームとして部署を超えた連携ができたという意味でも良い起爆剤になったように思います。
中村 社内はもちろん、社外からの評判も良かったのが印象的でした。「社会課題解決を目指す共創に参加しませんか?」というのがDEMO DAYのキーメッセージであり、このメッセージをさまざまな方に受け入れていただいたのだと感じています。
天野 その意味では、DEMO DAYは他社との連携やネットワークを構築しやすかったですね。一般的なフォーラムや営業セミナーよりも、共創を前面に打ち出したことの効果は大きかったように思います。

社会課題の解決策から見つめるのが、MRIの“共創”

八巻 「一緒に取り組んでいこう」という空気感を醸成できたのは良かったですよね。では、本イベントの意義とは何だったのでしょうか?
天野 事業部門の立場からすると、案件を創っていくことが第一です。しかしMRIだけでやれることは限られますし、それはグループ企業との協働だけでも足りません。だからこそ、スタートアップと共創していくのは、自然な流れだったのではないでしょうか。
加藤 シンクタンクがスタートアップと共創していると言うと、一体どのような観点で共創を進めているのか尋ねられることがよくあります。例えば、事業会社が主催するアクセラレーションプログラムの場合、「自社で足りない技術やビジネスアイデアはこれなので、解決してくれるスタートアップはいますか?」という流れが基本です。MRIでは「対象となる社会課題を分析すると解決策やその実装に必要なマーケット形成の仮説はこのようになる。この仮説のもとで、必要な技術の導入を含め、具体的に事業化を進めていくビジネスアイデアを共に検討してくれるスタートアップはいますか?」という流れになります。つまり、自社の経営資源を活用した課題解決はもちろん、より広いマクロな視点で「社会的インパクトを与える事業」は何だろうか、より「革新的なソリューション」は何なのかを考えることを大切にしています。
加藤研究員
八巻 社会課題をいかに解決していくかに焦点を当てているということですね。
中村 シンクタンクがスタートアップと共創する意義は、シンクタンクが提言している将来あるべき姿に対して、独創的な視点や技術力で具体的なソリューションを創り出しているスタートアップとが組み合わさることにあると思います。一般的に一つの課題に取り組むスタートアップに対して、シンクタンクならではの俯瞰的なものの見方や分野横断的な知見は新鮮です。BAPのメンタリングでも、そのような視点でのアドバイスが有効だったと感じます。

MRIとの共同研究に至った「New Ordinary」

八巻 一言で共創と言っても、顧客事業と一緒にやるのか、新規事業を開発するのか、PoC(Proof of Concept:コンセプトの実証)を兼ねて実施するのかなど、複数のパターンがあると思います。早速、現在進めているスタートアップ共創事例について紹介してもらいましょう。
加藤 New Ordinary社は、ユーザーの潜在的な気分・興味から、今行きたい場所をAIでリコメンドする技術を持っています。大企業や自治体との実証実験やアライアンス実績も豊富で、彼らの「移動体験を充実させる」というビジョンに共感し、BAP2022のファイナリストとして採択しました。採択後に、MRIがNew Ordinary社ビジネスの事業化支援を伴走する過程で、互いの強みを活用し、課題を補い合える共創プランの検討も併せて行いました。そこで、MRIの「actfulness」チームとの共創プランを具体化することができました。「actfulness」は、一人ひとりの価値観や生活環境に応じて行動機会の創出や価値向上を可能とすることで社会の活力向上を図る考え方で、兼ねてより当社の政策・経済センターが提唱してきた重要テーマの一つです。

New Ordinary社のAIレコメンド・アプリとMRIの効果測定モデルが持つそれぞれの強みを組み合わせ、アプリの改良・実証のための共同研究を実施しています。今後、交通事業者や自治体などでのアプリ導入を進め、「actfulness」の実現を目指していきたいと思っています。
対談風景
八巻 社内を巻き込むことに苦労はありましたか?
加藤 単に同じようなビジョンやビジネスを志向しているだけでは、なかなか具体的な共創にはつながりません。MRIの政策・経済センターで「actfulness」を提言しており、その提言内容を、社会実装に向けた実証実験を計画していく際に必要な技術と、New Ordinary社が持っている技術が合致したことで、共創を実現することが出来たのだと思います。 New Ordinary社も、自社事業の大きな発展につがる可能性を感じていただけたからこそ、実証実験への参画に至ったのではと思います。

ビッグデータ解析を自由に、容易にした「ForePaaS」

天野 私はMRIで、「ForePaaS」というビッグデータ解析サービスの提供を担当しています。「ForePaaS」はビッグデータ解析に必要な一連の工程をオールインワンで実行できるプラットフォームで、仏ForePaaS社と協業して提供しています。ForePaaS社との出会いはフランスのピッチイベントでした。話をしていくうちにMRIと一緒に事業ができるのではないかと気付き、同社の日本総代理店としてサービス提供することとなりました。
中村 ForePaaS社との出会いについて少しくわしく聞きたいです。ForePaaS社が持つソリューションを知ったときに、「ここと一緒にやっていけそうだ!」と感じた理由は何だったのでしょうか。もともと天野さんが業務遂行される中で感じていた課題を解決してくれそうだということなのか、それとも素晴らしい技術だからMRIの誰かが何かに使えそうだという発想なのでしょうか。
天野 やはり自分が使ってみたいと感じた、というところに尽きますね。「ForePaaS」はビッグデータを効率よく整備しアプリケーション化して業務適用までできるのが一番の強みです。データを一元管理し、一つのプラットフォームで各自が役割に応じてデータ活用できるので、データ分析やアプリケーションのブラックボックス化、属人化といった従来抱えていた課題に悩まされることがなくなります。MRIはこれまでもデータ利活用コンサルティングを行ってきたため、データ利活用における顧客の課題を理解し、要件定義や実際の開発支援まで伴走することができます。ForePaaS社からも、MRI無しには日本展開できなかったと言われました。
天野研究員
八巻 ForePaas社との協業はさらに進み、現在は当社で進めているヘルスケア分野の健康経営事業構想をはじめ、社会課題解決に応用できる範囲がどんどん広がっており、期待できる事業ですね。

“共領域”を加速化する「Tailor Works」

中村 テイラーワークス社はBAP2022のファイナリストです。同社はこれまで地方の課題解決をメインのターゲットとしていましたが、さらに広く社会課題解決に取り組みたいとの想いからBAPに応募してきました。同社は共創を生み出すコミュニティプラットフォームを標榜しており、コミュニティ運営ツールとコミュニティ運営を伴走支援してくれるコンサルティングサービス(以降、「カスタマーサクセスコンサル」)を提供しています。同社の従業員にはコミュニティ運営・活動を経験された方も多く在籍され、カスタマーサクセスコンサルとしてコミュニティ運営上のさまざまな示唆出しをしてくれることが特徴的だと感じています。
中村研究員
八巻 共創しようと思ったポイントはなんでしたか?
中村 テイラーワークス社は、個人が固定化された単一のコミュニティへ所属するのではなく、自己実現のためにさまざまなコミュニティに所属し、複層的につながり合うことを目指しています。そしてその実現のために、テイラーワークスのプラットフォーム内にさまざまなコミュニティが存在しており、個人がテイラーワークス内のコミュニティを越境することによる価値創出を目指しています。これはMRIが50周年記念研究で提言している「共領域」の発想と同様であったことが共創を考えたきっかけでした。

※共領域:三菱総研の造語。多様な人や組織のつながりによって新たな価値を創出する未来のコミュニティを指す。

MRIならではの強みを活かしたスタートアップ共創

八巻 最近はMRIがスタートアップへ出資する事例が生まれるなど、会社としてもスタートアップとの共創に関して盛り上がりが見られるようになりました。経営戦略を検討するために外せない要素となってきたように思います。
加藤 さまざまな大企業で、機動力があり、優れたテクノロジーを保有するスタートアップと共創してみようという気運が高まっています。それ自体はとても良いことですが、大企業とスタートアップの共創プロジェクトにおいて、社会的インパクトの大きいビジネスが多く創出されているかというと、未だ発展途上のように思います。MRIとしては率先して多くの社会実装案件の創出を手掛け、社会にインパクトを与えたいですね。スタートアップが提案するビジネスのなかには、市場が育っておらず、規制などの問題を解決しなければいけないケースも少なくありません。シンクタンクとしては、革新的なビジネスの市場創造・拡大のために、国や経済団体などへの政策提言もおこなっていきたいと思っています。現在、9回目となるBAP2023が募集を開始しているので、われこそはと思うスタートアップはぜひ応募してください。
八巻 「絵」には描けても、実際に動かせるかが肝要ですね。そこを官公庁事業の経験などから、政策の必要性をしっかりアピールし、実装へとサポートしていきたいですね。
天野 まずは「ForePaaS」の社内外での活用度を高めたいという思いがあります。また、私は金融セクターの部署にいますが、データの取り扱いその他、独特の規定や流儀があります。特に日本の金融機関にはそうした傾向が強いために、海外ベンチャー単独では参入が難しいと思います。これも金融機関の実情を知っているMRIだからこそ伴走できる一例です。MRIならではの知見を活かし、金融業界でも「ForePaaS」の導入成功例をつくり、事業成長させていきたいです。
中村 私は共創による事業創出を主要なミッションに据えています。共創の相手はスタートアップに限りませんが、スタートアップは時代の一歩先を行く技術でニーズを的確に捉えたソリューションを持っています。MRIはこれまで官公庁のお客様との業務経験を踏まえ、自社でソリューションを開発してきた例も多くあると認識しています。そのような自社開発ソリューションを高度化するという観点でのスタートアップ連携もそうですし、当社だけでは進出が難しいテーマに対して、複数のスタートアップをまとめて一つの大きな事業を創り上げていく動きも重要だと考えています。
八巻 いわゆる、アライアンスづくりですよね。
天野 「三菱」ブランドが海外でも認知度が高いことは、アライアンスや事業づくりを進める上で大きなメリットです。また、MRIは「三菱」の名前がついていますが、三菱系企業内での売上依存度が高くなく、中立的な立場であるからこそ、あらゆる企業と話ができます。加えて、スタートアップは1年前とはまったく異なるほど、成長スピードを感じられるのが魅力です。実はForePaaS社は2022年、欧州最大のクラウドプロバイダーである仏OVHcloud社に買収されました。現在、MRIはOVHcloud社とも連携を進めようとしています。当初は想像できなかったほどの広がりを感じてワクワクしています。
加藤 社内の研究領域が多種多様なので、専門的な知見を有する人材はいないかなと社内の研究員を検索すると、すぐに適切な人材が見つかるのは本当に強みですよね。
八巻 MRIはさまざまなテーマでのコンソーシアムづくりや運営も得意ですし、スタートアップ連携でもMRIならではの優位性をどんどん発揮し、提言から実装までできるメリットをさらに高めていきましょう。

PROFILEプロフィール

メンバー

  • 未来共創本部 兼 営業本部 コーポレートベンチャー連携推進グループ
    ヘルスケア関連事業本部にて医療・ヘルスケア領域の官公庁事業に長く従事。厚労省の医療系ベンチャー支援事業「MEDISO」の統括を務めたのち、未来共創本部にて多様な分野でのスタートアップ共創・連携に取り組んでいます。
  • 未来共創本部 兼 イノベーション・サービス開発本部 健康ビジネスグループ
    ICF Business Acceleration Programを通じてスタートアップ支援・共創事業創出に取り組んでいます。ヘルスケアやフェムテック関連の自社事業開発・運用にも従事。
  • 中村 京春
    中村 京春
    営業本部 コーポレートベンチャー連携推進グループ 兼 未来共創本部
    原子力に関する受託業務の経験を経てスタンフォード大学に留学。留学中に学内の仲間とスタートアップ立ち上げに挑戦。帰任後は全社組織でベンチャー連携を推進する立場へ。
  • 金融DX本部 金融DXエンジニアリンググループ 兼 デジタル・トランスフォーメーション部門統括室 クラウド事業準備グループ
    金融機関向けシステム構築やFintech事業会社でのクラウド活用やAIモデル開発経験を経て、ForePaaSを用いたデータ利活用支援および新規サービス開発に取り組んでいます。

所属・役職は当時のものです

Our Efforts

「スタートアップ共創」分野のコンセプト

広く社外にネットワークを形成し、イノベーションを通じた社会課題解決を目指す会員プラットフォーム「未来共創イニシアティブ」(ICF)を構築しています。ICFではスタートアップを支援し、事業創出を共に目指す「ICF Business Acceleration Program」(BAP)を実施。マクロな視点で「社会的インパクトを与える事業」は何だろうか、より「革新的なソリューション」は何なのかを考えることを大切にしています。

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