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actfulness─行動が価値を生むプロセスの見える化─

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2022.9.27

株式会社三菱総合研究所

MaaS
株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:籔田健二)は、心が豊かになる行動の実現を通し住民、企業、地域に価値をもたらすactfulnessの価値創出のプロセスを構造化しました。そのうえで、actfulnessの実現に向けて小田急電鉄株式会社(以下、小田急電鉄)との共同研究で実例に基づき、行動機会の増加がもたらす効果を試算し、住民の生活満足度向上や経済効果を確認しました。

今こそ一人ひとりの行動欲求の充足を目指したビジネス変革を

ウィズコロナの状況下になって久しい。日常生活では、在宅でのリモートワークが普及し、人々の職と住、暮らし方に対する考え方や行動にも変化が生じている。通勤をはじめ人々のリアルな移動を支える公共交通機関の利用減少は、変化の最たる例だ。各種オンラインサービスが普及する中、ポストコロナ社会でも公共交通機関の利用がコロナ前の形に完全に戻ることはないだろう。

一方、当社が実施した生活者三万人アンケートによると今後より増やしたい行動として、旅行やレジャーでの外出(44%)、友人知人とのリアルな会食(34%)、外食(31%)などが上位に挙げられている※1。こうしたワクワクする行動や、心が豊かになる行動への根源的な欲求は高く、それらを満たすサービスには依然として個人の消費が拡大する余地、言い換えるとサービスへの投資機会が十分に存在していると言えよう。こうした人々の生活を支える都市・モビリティサービスの提供企業にとっては、今こそ一人ひとりの行動欲求の充足に向けたビジネス変革が求められる。

行動起点で価値を創造するactfulness

ワクワクする行動や心が豊かになる行動の実現に向け、当社ではactfulnessを提唱している。actfulnessとは、一人ひとりの価値観や生活環境に応じて行動機会の創出や価値向上を可能とするものである。

actfulnessの実現によりさまざまな行動を充足することで、人々にもたらされる価値は四つある。新たな行動の喚起や個々の行動の価値を高める「望みの実現(Wish)」「新発見(New)」「期待以上の価値の実感(Great)」と、それら価値の高い行動の実現に向けゆとりを創出するための「困りごと解決(Smooth)」であり、四つの価値の英単語から「WiNGS」と呼ぶこととする。そして、WiNGS創出のために人々の顕在・潜在ニーズと都市・モビリティに関する各種サービスをつなげるナビゲーション機能を提供するのがactfulnessサービスだ。行動起点でこれら四つの価値を生み出すことは、人々の生活の満足度向上につながる。

価値創出のプロセスの見える化

actfulnessの実現がもたらす価値の発現先としては、住民一人ひとりに加え、企業、地域の三つの主体が考えられる。住民への効果は前述の四つの価値(WiNGS)を通した生活の満足度向上、ひいてはウェルビーイング※2向上が主となる。一方で、価値を実感する行動の増加が新たな消費を生み出すことが期待され、企業にとっては事業収益の拡大につながる。さらには、そうした住民ニーズに応えるサービスの提供を通して、中長期的には住民からの評価が高まり、企業に対する信頼の獲得につながることも期待される。また、地域にとっては、住環境向上に伴う定住・交流人口の増加、地域の経済成長が挙げられる。

当社は、上記行動起点での価値創出のプロセスを構造化し、生み出される価値の効果計測モデルを検討している。具体的には、行動機会の増加に伴うウェルビーイングの向上効果の定式化や、行動増加に起因した消費の増加による経済効果の算出式の構築を試みた。ここで重要なのは、行動量の増加という一次的な効果や経済効果などの財務価値のみならず、増加した行動から得られる価値や地域住民のウェルビーイングという、地域経営において今後より一層重要視されるであろう非財務面の価値も計測していることだ。

地域住民を主要顧客とする都市・モビリティサービスの提供企業にとって、非財務面の価値の見える化は、地域の持続的な成長への貢献度の見える化でもあり、企業価値の向上にもつながる重要な視点である。

継続的な効果計測と改善によるサービス向上を

今回、当社では価値創出のプロセスに沿った効果計測を試みた。ただし、当社が提唱するactfulnessサービスをこれまでに実装した例はないため、小田急電鉄にご協力いただき、同社のMaaSアプリ『EMot』とモビリティサービスを題材として効果計測モデルの一部を検証した。具体的には、行動機会の増加がもたらす影響に焦点を当てた検証を行った。

その結果、限定的ではあるものの行動機会を創出するサービスの利用による行動の増加量や増加した行動からWiNGSの実感効果がもたらされていることを確認した。また、行動増加に起因する消費支出の増加効果も得られ、一定の仮定条件下ではあるが地域の小売販売額が1.5%増加しうるという地域経済へ及ぼす効果の試算結果も得られた。さらに、サービス利用を通じて住民の企業に対する評価の向上に寄与する可能性も示唆された。

今回は一時点での効果検証となったが、actfulnessサービスによる価値創造効果にはその発現に至るまでに期間を要するものもあるため、定期的な計測と検証の積み重ねも重要である。それによって住民ニーズの変化への対応が迅速になり、ニーズと提供サービスのギャップを埋めていくことが可能になる。

また、actfulnessの実現には、多様な都市・モビリティサービスの提供主体による連携が必要だが、効果の見える化により、事業収益の拡大や社会での存在意義といった企業目線、地域の持続的成長といった地域目線など、さまざまな関係主体が自分事として捉えられるようになる。そうすることで、人々が希望する行動の実現に向け真に必要なサービスの姿を描くことができ、ステークホルダーが一体となったサービスの提供も可能になると考える。それは、市場の奪い合いではなく、新たな市場創出の機会を見いだすことにつながり、住民、企業、地域の成長を実現するものになるであろう。

当社が提唱したactfulnessの概念や価値創出のプロセスの見える化に関する考え方および事例が、今後actfulnessサービスの構築を目指す企業や自治体に対して、その取り組みを後押しするための一助となれば幸いである。そして、当社としてもactfulnessサービスの実現に向け、今回の検証で明らかになった行動機会の増加がもたらす効果を踏まえ、人々のニーズと都市・モビリティサービスを結びつけるナビゲーション機能の要件の具体化と、その効果検証をさらに進めたく、多くの企業や自治体の皆さまと協働で取り組みを進めていきたいと考えている。

※1:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」ベーシック調査、2022年6月実施。

※2:肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。

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