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内外経済見通し

ポストコロナの世界・日本経済の展望|2024年2月

軟着陸に向かう世界、好循環へ踏み出す日本

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2024.2.16

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、2月半ばまでの世界経済・政治の状況や日本の2023年10-12月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
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世界経済

現状の世界経済は緩やかな減速傾向にある。

先行きの世界経済は過去に比べて低い成長率が続くが、急減速は回避し、25年にかけて2%台半ばの成長への軟着陸を見込む。過去に比べて低い成長率となる主な理由は①中国経済の減速である。中国経済は景気刺激策による押し上げを考慮しても、25年にかけて4%台半ばの成長にとどまるだろう。一方、急減速を回避する理由は、②米国経済の軟着陸と③新興国経済の底堅い成長である。米国経済は、24年前半こそ一時減速するものの、24年後半以降は1%台後半の成長が続くとみる。新興国経済も25年にかけて底堅い成長を続けるだろう。

①中国経済の減速

中国経済は、25年にかけて減速が続く見通しである。背景には、GDPの20~30%を占める不動産関連産業の落ち込みの長期化や、若年雇用の弱さによる消費の抑制、米中対立による輸出入の制約、サプライチェーンの見直しによる対内直接投資の減少などがある。中国経済の減速は、中国向け輸出の悪化を通じて世界経済の下押し圧力となる。また、中国企業が内需の減速を補うために海外進出を加速させれば、競合する各国企業にとって海外事業の収益悪化要因となる。

②米国経済の軟着陸

一方で、米国経済は景気後退を回避し、25年にかけて潜在成長率並みの成長となる見通しである。既往の金融引き締めによる需要抑制効果の顕在化によって24年前半は減速するものの、雇用環境の底堅さを背景に小幅な減速にとどまるだろう。インフレが落ち着くなか、24年半ば以降は利下げを背景に成長率が持ち直すと予測する。米国経済の堅調さは世界各国の輸出回復要因となる。特に、自動車関連において米国向け関税が低く、EV(電気自動車)の減税対象生産地となっているカナダ・メキシコなどでは恩恵が大きいだろう。

③新興国経済の底堅い成長

新興国経済でも、底堅い成長が続く見通しである。成長の原動力は2つある。第一に、物価上昇率の低下である。24年半ば以降の米国の利下げが通貨安圧力を緩和し、輸入物価上昇によるインフレ圧力が低下する。各国に利下げ余地が生まれ需要下支えも期待できる。第二に、対内直接投資の増加である。ASEAN5など新興国は、中国に代わる生産・需要地として直接投資が増加している。対内直接投資は工場建設・雇用増加などにより直接需要を拡大するだけではなく、技術力向上にもつながる。中長期的には、輸入代替を通じて国内生産を押し上げる可能性もある。
上記見通しは下振れリスクが大きく、主に次の3点が挙げられる。第一に、物価高の再燃である。地政学的緊張の高まりが原油価格や海上運賃の高騰につながれば、コストプッシュ圧力が高まる。物価高再燃で高金利が長期化すれば需要抑制要因となる。第二に、米国の保護主義の強まりである。24年11月にトランプ氏が大統領選で勝利し、無秩序な輸入関税引き上げを進めれば、貿易の停滞を通じて世界経済に強い下押し圧力がかかるだろう。第三に、中国経済の失速である。貿易の停滞によって幅広い業種で業況が悪化し、銀行の不良債権がさらに増加すれば、金融システムが不安定化して中国経済に強い下押し圧力がかかる。中国向け輸出の減少や株価下落を通じて世界経済にも悪影響が及ぶだろう。

日本経済

日本経済は、物価高による消費下押しと人手不足による設備投資の遅延に加え、足もとでは自動車認証不正問題や能登半島地震の影響もあり、景気回復が足踏みしている。先行きは、各種下押し要因の緩和により緩やかな成長軌道に復すると予測する。賃上げ定着や家計の賃金期待改善により、個人消費は持ち直しに転じるだろう。設備投資は、GXや経済安全保障などに関する中長期的な取り組みのほか、人手不足への対応も誘因となり、拡大する見通しである。消費者物価は、賃金上昇がサービス価格の上昇に波及し、+2%以上の伸びが続くと見込む。日本銀行は24年4月にマイナス金利の解除およびイールドカーブ・コントロールの見直しに着手するが、緩和的な金融環境を維持するだろう。実質GDPは、23年度は前年比+1.3%(前回12月時点同+1.6%)、24年度は同+0.8%(前回同+1.1%)と個人消費の停滞や自動車生産の下振れを踏まえて下方修正する。25年度は同+0.8%と潜在成長率並みを見込む。この間、人手不足克服に向けた設備投資や人材投資により生産性が上向き、経済の好循環実現に向かう構図を想定する。

米国経済

米国経済は、引き締め的な金融環境のなかでも底堅い雇用・所得環境に支えられ堅調に推移している。先行きは、景気の急減速を回避し、軟着陸を見込む。24年半ばにかけて既往の利上げ効果の顕在化やコロナ禍に実施された財政支援の剝落により成長が減速するものの、25年末にかけて成長率は緩やかな持ち直しを見込む。インフレの落ち着きによりFRBが24年央以降利下げに転じるほか、構造的な人手不足による解雇抑制や産業政策が成長を下支えする。24年の実質GDPは、23年実績の上振れなどを踏まえ、前年比+2.1%と、前回11月時点(同+1.2%)から上方修正する。25年は同+1.7%と潜在成長率並み(1%台後半)の成長に落ち着くだろう。なお、24年11月の米大統領選を経て第2次トランプ政権が成立した場合、25年の成長率は小幅の下振れを予想する。仮に所得・法人減税が実施されるとしても、景気浮揚効果の発現は主に26年以降となるだろう。

欧州経済

ユーロ圏経済は、物価の伸びは鈍化しているが引き締め的な金融環境により内需が弱く、停滞が続いている。先行きは、実質賃金の増加により消費は緩やかに持ち直すとみる。ただし、24年は引き締め的な金融環境が経済活動を抑制、本格的な回復は25年以降を見込む。ECBの金融政策は、インフレ率低下の持続性を見極めるため、当面は現在の金利水準を維持し、利下げは24年央以降とみる。実質GDPは、24年は引き締め的な金融環境の継続を背景に前年比+0.6%(前回11月時点は同+0.8%)へ下方修正する。25年は同+1.3%と予測する。24年6月の欧州議会選挙は、極右政党の躍進が予想されるが、親EU派の議会構成が維持される見込みであり、現行のグリーンと成長を両立する政策路線は継続するだろう。

中国経済

中国経済は、不動産投資低迷の下押しを景気刺激策で補い、前年比+5%程度の成長率を維持している。先行きは、GDPの20~30%を占める不動産関連産業の落ち込みの継続や、若年雇用の弱さによる消費の抑制、米中対立による輸出入の制約、サプライチェーンの見直しによる対内直接投資の減少などを背景に、減速が続くとみる。景気刺激策による押上げを加味しても、24年の実質GDPは前年比+4.6%(前回11月時点から変更なし)、25年は同+4.5%とみており、コロナ危機前(同+6%台)と比べて低めの成長が継続する見込みである。

ASEAN・インド経済

ASEAN5経済は、堅調な内需に支えられコロナ危機前の成長ペース(前年比+5%程度)を維持している。先行きは、着実な内需拡大やインバウンド需要の回復に支えられ、現状の成長ペース継続を見込む。実質GDPは、24年は同+5.0%(前回11月時点から変更なし)、25年も同+5.0%と予想する。

インド経済は、内需をけん引役に高成長を継続している。先行きは、インド市場拡大への期待などを背景とする国内外からの投資拡大に加え、食料価格の落ち着きを背景とするインフレ圧力緩和が追い風になり、24・25年度ともに前年比+7%程度の成長を見込む。

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