マンスリーレビュー

2020年11月号トピックス3デジタルトランスフォーメーション

金融機関が決済データ利活用を加速させるには

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2020.11.1

金融DX本部中野 啓太

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 法改正により金融機関は一般事業者と連携した決済データ利活用が容易に。
  • 従来の業務範囲が狭かった事情もあり魅力的なサービスは多くはない。
  • コロナ禍による環境変化を追い風に顧客保護とサービス多様化の両立を。
現金払いは、記録が残らない。しかしカード払いや振り込み、毎月の口座引き落としなどを記録した金融機関の決済データには、顧客の日常生活やライフイベントに関する情報が大量に残る。

金融機関はこうした決済データを、顧客の属性や資産状況と組み合わせて分析し、住宅ローンや投資信託、保険など金融商品の販売に活用してきた。金融庁も顧客の利便性向上を旗印に、金融機関によるデータ利活用推進を後押ししている※1。2019年5月の銀行法等改正によって、金融機関が第三者に顧客情報を提供する際の条件が、顧客の同意を大前提としつつ緩和された※2。政府によるキャッシュレス化の推進は、金融機関と一般事業者の連携を通じた顧客本位のサービスへの期待を一層高めている。

現時点では、決済データが顧客本位の目線で十分に利活用されているとはいえない。理由としては、金融機関の業務範囲の幅が従来は狭かったため、一般事業者との提携で魅力的なサービスを提案できるケースがそれほど多くないことが考えられる。

だが、金融機関が決済データを起点に、一般事業者と連携して顧客の生活に密着するスタンスを強めれば、おのずと道は開ける。例えば、ガス・電気・通信の料金の口座振替やカード決済の情報を、金融機関が一定の条件のもとで一般事業者に提供できれば、電気とガスのセットプランや、通信料金が割安になる仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスなどの販促につながる。また、あるカップルが結婚することになれば、住宅ローンや教育ローンといった金融商品だけでなく、ブライダルサービスや新婚旅行など一般事業者の商品へのニーズも新たに発生する(図)。

折しも足元のコロナ禍によって、キャッシュレス決済やインターネットバンキングを利用したいとの意向は高まっている※3。こうした環境変化を追い風にしつつ、顧客情報を万全に保護するためのセキュリティ強化も怠りなく進める必要があろう。そうすれば、現状では思いもよらないような多様な商品・サービスの実現を通じて、金融機関と顧客の双方にメリットがもたらされる。

※1:金融庁「令和2事務年度 金融行政方針〜コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く〜」。

※2:金融庁「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」。

※3:クロス・マーケティング社が2020年6月に実施した調査によると、世の中に普及していくことを望んでいるものとして、「キャッシュレス決済」は55.6%、「ネットバンキング」は49.0%を占めた。

[図] 金融機関による決済データ利活用のイメージ