マンスリーレビュー

2023年2月号トピックス2人材

継続的なリスキリングに大切なこと

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2023.2.1

キャリア・イノベーション本部奥村 隆一

人材

POINT

  • リスキリングの必要性は認識されつつも実態は低調。
  • 主体性と自律性のサポートがリスキリング継続の鍵。
  • 社員の学習行動の継続と学習内容の定着を促す仕組みづくりが重要。

リスキリングの理想と現実

DX・GX※1への対応や事業構造の転換、生産性向上、経営戦略に沿った人材配置などを迫られている企業にとって、社員のリスキリング(学び直し)は優先度の高い経営課題の一つである。

実は、過去にも生涯学習やリカレント学習など人的資本への投資が社会的テーマになった時期があったが、十分な成果には至っていない。

政府は、働く人が自らの意思でリスキリングに取り組み、キャリアを形成していくことを支援する企業への助成率を引き上げるなど、「人への投資」の施策パッケージのために5年間で1兆円の予算を組み、企業も各種研修などを進めている。日本のこれまでの状況に鑑みると、単に予算化・制度化・研修実施だけでは、残念ながらリスキリングの効果は限定されかねない。過去の二の舞は避けたい。どうすればよいのだろうか。

社員の主体性と自律性をサポート

先進企業の取り組み事例からヒントを探ろう。

KDDIでは、社員向けに「Manabi(学び)」というLMS(学習管理システム)を構築しており、サイト上に示されるポータブルスキルやコアスキル(創造性、論理思考など)の中から、自身が伸ばしたいと思うスキルを選ぶと、最適なオンライン研修メニューが提示される。各社員が望むタイミングで学習できる環境を構築することで、自律的なリスキリングを促進している。

注目したいのは主体性と自律性の社内浸透に注力している点だ。これが成長意欲や学習の動機付けを高めることにつながり、ひいては効果的・持続的なリスキリングの鍵を握るのである。

ボトルネックは「継続と定着」

当社の調査研究によると、リスキリングのネックは学習の「継続」と内容の「定着」にある※2。その障害を乗り越える工夫が不可欠である。先進事例や既往の学習理論を踏まえると、学習支援の仕組みとして以下を取り入れることが重要である。

① パーソナル・レコメンド:必要な知識・スキルの明確化と本人に合ったコンテンツの提供
② ナレッジ・アンカリング:学んだ内容を知識やスキルとして定着させるための記録
③ コミュニティ:共に学ぶ仲間の認知、仲間からの気付き

このうち①②は自分の考えを「深める」ことに意義がある一方、③は他者からの刺激で思考を「広げる」ことに効果がある。後者の視点は組織文化の醸成においても、今後重視されるべきだろう。

もはやリスキリングの必要性が問われる段階ではない。効果的・持続的な仕組みを実装する段階にあるといえる。先駆的な取り組みの知見・教訓をシェアしながら、日本全体のリスキリングのレベルアップが必要だ。

ビジネスに必要な能力の向上に終わりはない。社員の学習意欲を喚起しつつ、効果的な学びを促していくことが、これからの企業のミッションとしてますます重要になってくるだろう。

※1:グリーントランスフォーメーション(脱炭素社会への転換)。

※2:当社が2022年4月に実施したWebアンケート調査結果(対象者は25〜59歳の年収400万円以上の会社員、会社役員、会社経営者1,514人)。仕事のレベルアップを目的に自己学習を行っているビジネスパーソンの8割近くが、学習の「継続」と「定着」の少なくともどちらか一方に課題を感じている。