マンスリーレビュー

2023年3月号特集1サステナビリティテクノロジー

テクノロジーと協調が拓く資源循環の未来

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2023.3.1

政策・経済センター古木 二郎

POINT

  • カーボンニュートラル制約下で条件が厳しくなった資源循環。
  • 循環の未来像を描く意義がある「プラスチック」と「蓄電池資源」。
  • 資源循環の拡大に向けて、先進技術の活用と協調領域の拡大が必要。

CNでハードルが上がった資源循環

気候変動、生物多様性の消失などのさまざまな環境問題がわれわれの日常生活を脅かしている。原因の一端は、一方向的な大量生産・大量消費・大量廃棄を増長するリニアエコノミー(線形経済)にあり、持続可能なかたちで資源を利用する「サーキュラーエコノミー(CE:循環経済)」への移行が急務となっている。

しかし個別の資源・製品に落とし込んでCEへの移行を考えた場合、資源を循環させることの制約や限界が見えてくる。日本の基幹産業である自動車を例にとると、国内の四輪車生産台数約785万台のうち、輸出台数は約382万台である。「製造」と「国内消費」の間で、約半分の資源が海外に流出していることになる※1

消費後の「排出・回収」と「処理・リサイクル」の過程でも、摩耗や不法投棄などに伴うロスは発生する。従ってCEに移行したとしても、同じ量の製品をつくり続けるかぎりは、循環の過程で失われるのと等しいか、それを上回る量のバージン資源(一次資源)を新たに投入する必要がある。

さらに2050年のカーボンニュートラル(CN)実現という制約が加わり、循環の各プロセスでCNにつながる取り組みが求められる(図1)。処理・リサイクル過程では、熱回収を伴わない焼却システムやエネルギー多消費型のリサイクル手法など、CNに逆行する手段は見直す必要がある。追加投入する一次資源の生産や流通などの過程でも同様である。

また今後、製造・販売量が爆発的に増える太陽光発電、風力発電、蓄電池などの製品については、新たに資源循環システムを設計・構築し、運用に結び付けていくことが求められている。
[図1] カーボンニュートラル(CN)制約下での資源循環に求められる条件
[図1] カーボンニュートラル(CN)制約下での資源循環に求められる条件
出所:三菱総合研究所

日本にとって特に重要な10の資源

こうした課題の解決策は、資源を個別に分析しなければ見えてこない。2023年2月号では、CNと経済安全保障の両立の観点から「カーボンニュートラル資源立国」という新たな視座を示した。その中ではCN資源を、「CN実現に不可欠な再生可能エネルギー資源」「再エネ発電・蓄電池などに含まれる金属資源」「素材産業のCN実現に不可欠な廃プラスチック・鉄スクラップ」などと定義した。本号では以降、重要性の高まる資源の循環に着目し、技術と社会の両面で必要となるイノベーションを提言する。

当社では国内で活用する主要資源44品目※2を対象に、基本属性※3と環境性※4、経済安全保障※5の観点から評価した場合、次に示す10の資源が特に重要になるとみている。
①リチウム、②グラファイト、③シリコン、④クロム、⑤コバルト、⑥ニッケル、⑦モリブデン、⑧タングステン、⑨レアアース、⑩プラスチック


さらにこれらの資源のうち、CN下の循環未来像を描く上で有意義なものとして、⑩の「プラスチック」と①⑤⑥の「蓄電池資源」の2領域を取り上げてみたい。

プラスチックを取り上げる理由は、石油を原料とし製造過程で熱を必要とする、CN化が最も困難な資源の一つだからである。マイクロプラスチックによる海洋汚染も大きな社会問題となっている。しかしながら、再生資源の利用率は10%程度にとどまっており、循環分野でイノベーションを介在させる余地がある。 

リチウム、コバルト、ニッケルといった蓄電池資源を取り上げる理由は、電気自動車(EV)向け需要などにより、爆発的な市場拡大が予想され、循環システムを新たに構築することが必要となるからだ。リチウム、コバルト、ニッケルの可採年数(埋蔵量なども踏まえた資源利用が可能な期間)はそれぞれ、200年程度、50年弱、40年弱である※6。いずれもEVの世界的な需要拡大で国際的な争奪戦に見舞われるなど、生産体制が追い付かずに供給不足に陥る懸念がある。

プラスチックが石油化学産業の脇役から主役に

プラスチックと蓄電池という2つの資源に絞って個別に分析すると、資源循環に共通する具体的な問題が浮き彫りになってきた。

まずプラスチックを見てみよう。現状は国内で約1,000万トン(t)の化石資源由来のプラスチックが製造されており、使用後300万t弱は国内外で再生利用、約600万tが焼却されている。CN実現に向けては、約1,000万tのプラスチック製造に伴って排出されるCO2、さらには約600万tの焼却に伴って排出されるCO2をそれぞれゼロに近づけていく必要がある。

2022年4月にはプラスチック資源循環促進法が施行された。環境配慮製品の設計指針が整備され、さらにプラスチック使用製品とプラスチック製容器包装の一括回収、産廃系の廃プラスチックの自主回収などの認定制度が整った。民間の取り組みとしては、バイオマスプラスチック製造計画を公表している事例もある。

しかし、これらの効果の見込みや計画値を積み上げたとしても、依然として現状の半分程度、約500万tの化石資源由来プラスチックが必要となる見込みである(当社試算)。

さらにCN下では化石資源燃料の需要が大幅に減少する。日本のガソリン需要は2050年には現在の3割になるという予想もある。その場合、副生物のナフサから生産できるプラスチックは100万t程度になると予測され、400万t程度のプラスチックを別途輸入で確保する必要がある。

その上で、世界の経済成長や人口増加により、プラスチックの世界需要は約10億t※7と現在の2.5倍となる可能性があり、安定的にプラスチックやその原料を海外から調達できる保証はない。これらの複雑な課題を乗り越えるため、従来の制度・政策や関係主体の取り組みに加えて後述する施策により、さらなる3R(リデュース・リユース・リサイクル)や、他国との獲得競争にさらされない国産バイオマスの活用に取り組む必要がある。

なお特集2「プラスチック資源循環の高度化と拡大に向けた方策」では、プラスチックの資源循環を対象に、CNに向けた技術的な手段と協調領域の拡大策について詳細に紹介している。

蓄電池はこれからの備えが大事

もう一つの重点検討対象である蓄電池資源では、素材製造から電池製造、車体組み立て、リユース・リサイクルに至るサプライチェーンを国内で可能な限り維持することが好ましい。ただしリユース・リサイクルの対象となる使用済み製品が大量に発生するのは10年ほど先である。まだ、まとまった量の使用済み蓄電池が出てこない中で、今から取りうるアプローチは2通りある。一つは電池の中古品リユースやシェアリング型ビジネスを普及させること。もう一つはリサイクルの観点から日本のリサイクル産業の競争力を高めるための技術革新と事業モデルの確立である。

日本発の技術を、アジア圏を含めて輸出する手段もある。今後の成長分野であることを念頭に、今時点で対応を加速させる意義はある。蓄電池の資源循環の最新動向について、特集3「ものづくりを支える蓄電池リサイクル実現を」では、先行する海外の資源循環戦略を踏まえた、日本の取り組むべき方向性を提示した。

「先進技術」と「協調」でイノベーションを

このように脱炭素社会では、素材・製品の特性を踏まえて、国内に持続的な循環システムを構築していく必要がある。どの素材・製品にも差別化を目的とした競争領域ではない「先進技術を活用した協調領域」を広げていくことが必要である(図2)。既存の技術やスキーム(枠組み)だけではすでに限界突破が不可能である。ここでは先進技術と協調領域は推進の両輪であり、どちらか一方でも欠けてはならない。両者を組み合わせ(掛け算し)て初めて新たな資源循環が実現されるのだ。
[図2]「 先進技術の活用」×「協調領域拡大」による資源循環拡大のイメージ
[図2]「 先進技術の活用」×「協調領域拡大」による資源循環拡大のイメージ
出所:三菱総合研究所
例えば製造段階の「設計の共通化(業界内の協調)」。環境配慮設計では、CO2排出量を抑制できる新素材の開発などに各社が取り組んでいる。しかしリサイクルにとっては、素材は同質・均一であることが望ましく、部品の仕様(形状や性能)が統一されていれば、リユース(再使用)やリペア(修理)もしやすくなり製品寿命が延びる。同じ業界内で、資源循環の観点から素材・部品仕様の協調領域を拡大し、その上で個々の製品性能を高度化・差別化していくことが望まれる。

また世の中に同質・均質なものが増えても、再生資源(二次資源)のユーザーとサプライヤーが、質・量・売買価格などで合意しなければ循環は実現しない。古紙や鉄くずがそうであるように、他の素材でも「二次資源市場を確立」することで新たな資源循環の機会が増える。

一連の社会要請を受けて当社では、プラスチックを対象に、「業界横断型の二次資源市場の創設」「需給マッチング機会の拡大といった社会実装化」を目指している。市場機能を発揮するには多くのユーザーとサプライヤーが参加し、情報開示などでの協調が必須であるが、そのためにはDXを活用した安全かつ効率的な情報管理・運用が必要不可欠であろう。

このようにCNへの持続的な対応を厳しく問われる未来では、資源循環につながる新技術の社会実装と普及に向けて「既存スキーム」を横断する協調領域を拡大することが不可欠である。資源循環の拡大、サーキュラーエコノミーへの転換は待ったなしの状況である。今こそが、もてる技術・資源を最大限活用して、協調に取り組むべき時期といえるだろう。

※1:一般社団法人日本自動車工業会2021年統計。輸入車販売台数は約34.5万台。

※2:通商産業省(1999年)「循環経済ビジョン」の評価資源に、経済産業省(2012年度)「資源確保戦略」の戦略的鉱物資源と、枯渇の懸念される肥料資源(リン、カリウム)をもとに選定。

※3:利用量が1,000万t以上、可採年数が100年以下、自給率が30%以下。

※4:CN資源であるか否か、再資源の利用率が20%以下。

※5:民主化度がマイナスの国の依存率が80%以上(世界銀行による2018年の政治の民主化度ランキングをもとに、民主化度が平均値以下の国の依存率を算出)、特定重要物資の主要構成資源か否か。

※6:現状の可採量および需要量を前提とした静的可採年数(アメリカ地質調査所調べ)。

※7:OECD(2022年)"Global Plastics Outlook POLICY SCENARIOS TO 2060 "