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2023年5月号トピックス2情報通信

Web3とは? その本質と普及に向けた課題

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2023.5.1

地域イノベーション本部奥村 拓史

情報通信

POINT

  • Web3への投資や有力サービスの市場が伸び悩んでいる。
  • 状況打開には理念よりも利用者目線に立った再構築が必要。
  • 中央集権とのバランスを取って、今度こそ「個」を主役に。

いつか来た道をたどるのか?

第3世代のインターネット「Web3」が岐路に立たされている。2022年上期を機に、グローバルな関連投資額が減少に転じ、商取引やエンゲージメントの醸成などに用いられる代表的なサービスである非代替性トークン(NFT)※1の取扱高も落ち込んでいるからだ。

それまで2つの世代のWebも、「個」が主役となる社会の実現を目的としていた。しかし、普及の過程で理念を失い、巨大IT企業に支配されることとなった。投機的なブームが去り真の実力が試される今、Web3もかつて来た道を三たびたどるのか、冷静に問い直してみたい。

本質はブロックチェーンにあり

Web3の基盤技術は、履歴の固まりを数珠つなぎにして、資産・権利の所在や移転を、記録・保存するブロックチェーンだ。当初は第4次産業革命の支柱と言われたが、革新的な分、汎用性に乏しく一時は忘れ去られかけた。そこにNFTが登場し、「Web3」という巧みな表現による再価値化も奏功して、再び脚光を浴びた。

全員が同じ台帳を持つ公平性・永続性と、誰もがチェックできる透明性によって複製や改ざんを不可能にした点が特徴で、運営自体もシステムが行う。人々をうまく動かし分散管理ができるようにデザインされた非中央集権的な仕組みは画期的であり、暗号資産が「仮想通貨」と呼ばれブームになった当時と、この点は何ら変わっていない。

NFTが抱える課題

NFTには現行の法制度に照らすと課題が多い。デジタルコンテンツに識別番号を刻み唯一性を証明する仕組みだが、その保有は「所有」を意味しない※2。無体物の所有は法的に認められないからだ。そのコンテンツが本物なのかも保証してくれない。

最大の課題は民主的な仕組みゆえ、利用に手間がかかったり自己責任を求められたりする点だ。多くの利用者は理念よりも利便性や安心感を優先する。このままではNFTも暗号資産同様、定着はしても、利用は一部の層に限られる可能性が高い。

今度こそ「個」を主役に

過去のインターネットにおける中央集権的な仕組みは行き過ぎた資本主義を生み出し、社会にさまざまな歪(ひず)みをもたらした。一方でWeb3は、社会を非中央集権的なものにする力を秘めている。

しかし、不安定で不親切な仕組みを社会が受容しないのも世の常だ。ブロックチェーンのポテンシャルを最大限引き出すには、技術起点ではなく、明確なビジョンのもとで利用者の現実的なニーズに即して社会を再構築することが重要である。

分散型社会でも、中央組織が安全安心を提供することに変わりはない。しかし、支配から支援へと立ち位置が変わる。分散と中央集権とのバランスが取れたWeb3の開発が急務だ。そして何より、「個」が主役の社会を実現したいというビジョンへの共感が扉を開く。出遅れ感のある日本だからこそ、社会のリデザインも容易なはずだ。

※1:Non-Fungible Tokenの略。特定のデジタルデータに唯一無二のIDを割り当て、代替不能にする技術。

※2:NFTを「デジタル所有権」を実現する仕組みと喧伝する向きもあり、注意が必要。