マンスリーレビュー

2021年5月号特集4サステナビリティ

万博をカーボンニュートラルのショーケースに

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2021.5.1

サステナビリティ本部田野中 新

サステナビリティ

POINT

  • 万博は2050年カーボンニュートラル達成への青写真を示す好機。
  • 関西には水素利活用の協議会があるなど官民の開発意欲が高い。
  • バーチャル空間も活用して産業投資や行動変容の拡大・促進を。

未来社会のデザインを

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は、エネルギーや環境面での制約を解消できるSociety5.0実現に向けた実証の機会だ。温室効果ガス排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」やエネルギー最適化の実現に向けた青写真を示す好機にもなる。

カーボンニュートラルは人類が「地球1個分」の資源で生き延びる上で大前提となる。政府が掲げた2050年目標を達成するには、技術や制度を総動員して新たな産業を創出する必要がある。人々の行動変容も不可欠だ。万博会場をショーケースとして活用し、新技術の有用性や革新性を、実感を伴うかたちで利用者に示さねばならない。

関西の水素利活用への機運

燃焼させてもCO2を出さない水素は、発電、運輸、産業など幅広い分野でのエネルギー源として、カーボンニュートラル達成に大いに貢献できる。

関西には、水素利活用を2025年ごろに商用化実証することを目指す地元企業中心の協議会があり、神戸市や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が支援している。大阪府や大阪市も万博で水素の利活用を実際に行うよう、万博の主催者である博覧会協会※1に提案している。

水素利活用では、製造、輸送、貯蔵などのサプライチェーンの安定確保がカギとなる。それだけに、地域ぐるみの取り組みには大いに期待できる。

博覧会協会は「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」とのコンセプトに基づきアイデアを募集している。環境・エネルギー関連ではエネルギーマネジメントや再生可能エネルギー、3R(廃棄物、リサイクル)、環境技術、環境に関する啓発など200超もの提案が寄せられた。

バーチャル万博の効用

ただ、会場周辺や関西だけで実証・実装できる技術には限りがある。2025年万博ではオンライン空間を活用したバーチャル万博も計画されている。ここでも、カーボンニュートラルが達成された未来社会の姿を示してはどうだろうか。

イメージ映像や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などを駆使して、カーボンニュートラルが社会に溶け込み、温暖化が克服された生活のシーンを世界に発信するのである。例えば、石炭火力による発電が全て水素に置き換わり、自動車の排ガスも皆無となった世界である。バーチャルな場だからこそできる、実験や提案もあるだろう。

人々が利便性や心地よさを体感すれば、新たな技術やサービス、システムへの受容性は高まる。産業界としても商機を実感できれば、カーボンニュートラルに向けた事業投資を断行しやすくなる。

そうした流れは、経済活動の加速にもつながっていく。未来に進むべき方向性への共感が広がれば、万博終了後も環境・エネルギー面でのチャレンジを拡大・促進できるレガシーが残る。

当社も、未来に向けて人々の生活・行動を変容させる意欲をかき立てるデザインを描きたい。