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1万人調査で読み解くカード決済動向(2016年版):第1回:新規決済手段の普及のカギは利用場面拡大とセキュリティ

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2016.6.30

先進データ経営事業本部山野高将

デジタルトランスフォーメーション

新規決済手段は3つの方向性に集約、注目を集める仮想通貨決済

FinTech(フィンテック)という言葉が世間をにぎわしている。情報通信技術(ICT)を活用し金融業界に新しいサービス・システムを導入する動きの総称として、広く用いられるようになった。中でもFinTechの本丸とも言える決済の領域で、ここ数年で新たな手段・サービスが数多く登場している。それらの動向は金融関係者ならずとも気になるところだ。

一言で新たな決済サービスといっても、その方向性やスキームはさまざまである。厳密に整理するのは容易ではないが、あえてシンプルにまとめると3つの方向性に集約できる。
図1 新規決算手段の3つの方向性

図1 新規決算手段の3つの方向性
1つは、仮想通貨と呼ばれる、オンライン上で扱えるバーチャルな貨幣を利用した決済サービスだ。広義の仮想通貨としては、WebMoneyやBitCashなどに代表されるプリペイド型の電子マネーを含み、コンビニなどで購入することでオンライン上の決済に用いることができ、クレジットカードを必要としない点などが一定の支持を受けてきた。一方、それらに加えて近年注目されているのが、ブロックチェーンと呼ばれる分散管理技術を活用した、特定の管理母体を持たない仮想通貨だ(以降こちらを仮想通貨と呼ぶ)。代表例がビットコインであり、特定のサービス内に閉じないため、汎用性が高く、送金なども容易な点が着目されつつある。

もう一つはオンライン決済サービスだ。簡単に言えばクレジットカードの決済代行サービスであり、これらの登場によってクレジットカード会社の審査を通過することが難しい個人や中小事業者でも簡単に自社のWebサイト上でクレジットカード決済を導入することができるようになった。また、一般的なクレジットカード利用手数料より手数料率が低く抑えられているケースが多く、利用の拡大が進んでいる。ID利用を基本とするYahoo!ウォレット・PayPalと、ID不要のSPIKE・WebPayなどが代表だ。

最後はNFC(近距離無線通信)を活用した、非接触型の決済だ。海外ではスマートフォンをかざすだけでクレジットカード決済ができるApple Pay、Android Payなどが登場しているが、日本ではまだ対応店舗も限定的で、そもそも国内のクレジットカードが対応していないなど、課題は多い。

高まる関心も、まだまだ限定的な利用実態

これらの新しい決済手段は、実態としてどの程度消費者に認知され、利用されているのか、また各手段はどのように評価されているのだろうか?今回、弊社が2016年3月に実施した「クレジットカード等決済手段利用調査」の結果を用いてその実態をひもといてみた。

図2は多様化する決済手段のそれぞれついて、その認知状況(知っている・知らない)と利用状況(使っている・使っていない)を聞いたものだ。
図2 多様化する決済手段の利用・認知状況

図2 多様化する決済手段の利用・認知状況

出所:三菱総合研究所「クレジットカード等決済手段利用調査」2016年3月
クレジットカードなどの既存の決済手段に比べ、ここ数年で本格化してきた各新規決済手段に関しては、どの決済手段も総じて「知らない」が目立つ。ある程度想定された結果ではあるものの、認知度の拡大が最優先課題になりそうだ。

その中でも利用率が比較的高かったのがYahoo!ウォレット(15.3%)である。Yahooという多数の利用者を持つサービスと結びつけることにより利用者の利便性・認知度を高めたのがその一因として考えられる。

もう一つの要因として挙げられるのが、事業者向けサービス「Yahoo!ウォレットFastPay」の存在だろう。決済手段を導入する事業者が自社サイトに「Yahoo!ウォレットFastPay」での決済を容易に組み込むことができ、ダッシュボード(事業者毎に用意された決済情報を集約したWebページ)で結果をすぐ確認できるといった利便性もある※1。利用者だけでなく事業者側のニーズも捉えた点が、Yahoo!ウォレットの利用者拡大につながっていると考えられる。

ビットコインに代表される仮想通貨に関しては、利用率は最も低い部類に入る(2.1%)ものの、「知っているが、使ったことはない」割合は46.8%と新規決済手段において最高値となった。FinTechに対する関心が高まる中、その一つの象徴とも言える仮想通貨に対する関心の高さが伺える一方で、実体的には普及していないと言える。
図3 新規決済手段を「知っているが、使わない理由」

図3 新規決済手段を「知っているが、使わない理由」

出所:三菱総合研究所「クレジットカード等決済手段利用調査」2016年3月

「知っているが、使ったことはない」と回答した人を対象に、使用しない理由を聞いたところ、全ての決済手段において「利用場面がない」が1位、「持つきっかけがない」が2位となった。使いやすさや金銭的メリットを感じないことよりも、使える場所・機会が限定的なことが、その決算手段を使用しない原因と考えた方がよさそうだ。まずは利用できる環境を増やすことが利用率の向上にもつながり、結果として認知率の向上にもつながるだろう。

仮想通貨に関しては、セキュリティに対する不安を抱く人の割合が21.0%と他の決済手段に比べて相対的に高い。ブロックチェーンなどの先進技術によって高い堅牢性を保証していても、ユーザーの理解が追いつかずに「なんとなく」残る漠然とした不安感・抵抗感がセキュリティに対する不安として現れているのではないか。
図4 新規決済手段を利用した理由(複数回答)

図4 新規決済手段を利用した理由(複数回答)

出所:三菱総合研究所「クレジットカード等決済手段利用調査」2016年3月
逆に、既に利用していると回答した人(利用者)に対して、なぜ利用しようと考えたのかを聞いてみた。

利用率1位であったYahoo!ウォレットに関しては、約半数(49.0%)の人が利用メリットを感じており、他の手段に比べ頭一つ抜けている結果となっている。購入時にクレジットカード情報や個人情報の入力を省くことができる手軽さや、セキュリティリスク低減などのメリットを、利用者に巧みに訴求した結果であろう。

その他の手段は総じて、メリット以上に「購入手段が該当の手段しかなかった」の割合が高い。特にPayPal(55.2%)、WebMoney(50.5%)では、5割を超えている。この2つは利用率でもYahoo!ウォレットに次いでそれぞれ2位(8.3%)・3位(7.2%)を占めている。前者はオンライン決済サービスの草分け的存在として、後者は特にゲーム・音楽等のエンターテインメントを中心として、それぞれのマーケットにおける決済手段として確固たる基盤を構築している様子がうかがえる。

仮想通貨に関しては、利用メリットを感じている割合は27.8%とYahoo!ウォレットに次いで2番目に高い。海外送金などにおける手数料や支払いの容易性を感じている可能性がある一方、「新しいものが好き」の割合も19.3%と最も高く、イノベーター的消費者を中心として利用普及の動きが少しずつ見え始めている。

普及・拡大には利用者が安心して使える利用環境の整備が急務

前節までに紹介したように、世間ではFinTechが騒がれているものの、新規決済手段の利用は、現時点ではまだまだ限定的というのが現実であろう。
では、これらの新規決済手段の利用を拡大するためには今後、何がポイントになるのだろうか。

図5は、既に利用していると回答した人(利用者)がどのような不満を感じているかを調べたものだ。
図5 新規決済手段利用者が不満に感じている点(複数回答)

図5 新規決済手段利用者が不満に感じている点(複数回答)

出所:三菱総合研究所「クレジットカード等決済手段利用調査」2016年3月
全てのサービスにおいて「利用できる場所・場面が少ない、限定的」と「セキュリティが不安」の2項目が不満上位に表れた。利用者の拡大を狙うにあたっては、まずは万全のセキュリティ対策を行い、それを適切に訴求する事で、ユーザーの安心感を獲得するのが最優先課題であろう。

一方、利用者数上位3サービス(Yahoo!ウォレット、WebMoney、PayPal)を比較すると、PayPalはセキュリティの不安が21.6%と比較的高い比率を示しており、利用普及に影響を与えている可能性がある。一度ID登録すれば以降カード情報の入力が必要ない利便性と裏腹に、カード情報の流出やアカウント乗っ取りなどの懸念が払拭しきれていない可能性がある。

WebMoneyはセキュリティへの不安は高くないものの、利用できる場所・場面の少なさへの不満が37.5%と最も高い。さらなる拡大のためには利用環境の整備が課題だ。

結果として、Yahoo!というサービスと組み合わせることで、セキュリティと利用場面に対する懸念を一定程度に抑えたYahoo!ウォレットが、結果として最も多い利用者を集めている。新規の決済サービスは、これら2つの懸念を解消していくことよって、今後より一層の拡大が期待される。

クレジットカード等決済手段利用調査 概要
調査時期:2016年3月
調査人数:10,094人
調査対象:15歳から69歳までの男女、日本国内居住
(うち、20歳以上は当社アンケートパネル mif(生活者市場予測システム) 回答者)

※1:https://fastpay.yahoo.co.jp/

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