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外交・安全保障 第14回:集団安全保障体制・国連の役割と期待

グローバルサウス時代の国連改革論——代表性の拡大

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2024.4.26

先進技術・セキュリティ事業本部加藤あかり

外交・安全保障
国際情勢が不安定さを増し、またグローバルサウスの台頭などによって世界の勢力図が大きく変化する中で、国連安保理の構成国や決議の硬直性が改めて問われている。外交・安全保障問題の現状と先行きを解説するシリーズ14は、国連の正統性を高め集団安全保障体制を強化する「安保理理事国の拡大」について、従来の議論の経緯と今後の展望を「代表性」というキーワードを切り口に考察する。

国際情勢の変化で問われる安保理の代表性

集団安全保障体制の維持における国際連合安全保障理事会(国連安保理)の重要性は、前コラム(外交・安全保障 第13回)※1で述べたとおりである。1965年以来、安保理は5カ国の常任理事国と10カ国の非常任理事国で構成されているが、国連加盟国数は国連設立当初から約140カ国増えている(図1)。また、当初の常任理事国選定の経緯は既知のとおりであるが、加盟国数や国際情勢が大きく変化しているにも関わらず議席数と選出国の構成が硬直している。これらのことから、変化した国際社会の状況を反映させた議席数や選出国の変更の必要性が唱えられている。

そこで本コラムでは、安保理改革の拒否権と並ぶ重要論点である「代表性」を取り上げる。「代表性」とは、地域別に定まった安全保障理事会における常任理事国、非常任理事国の議席が、特定の地域に偏ることなく、各地域の意見を代表するようバランスよく割り当てできているかを指す。現在の配分は国数に対して欧州・北米地域に偏っており、アフリカやアジアに少ないことから地域間格差が生じていると考えられている。安保理の代表性向上は、安保理の正統性を高めることで、国連が果たすべき国際平和の維持にとっても極めて重要な役割を果たす。
図1 安全保障理事会の議席数と国連加盟国の推移
安全保障理事会の議席数と国連加盟国の推移
出所:外務省HPより三菱総合研究所作成
安保理の議席増・選出国の拡大は国連改革・安保理改革のメインテーマとして取り扱われてきており、1990年以降、国連内部でも具体的な取り組みが始まった。加盟国からもさまざまな改革案が提示され、例えば日本は2004年以降、ドイツ、インド、ブラジルと共にG4と呼ばれる改革グループを結成し、具体的な議席数まで定めた改革案を作成し交渉を行ってきた。

安保理の議席数の変更には国連憲章の改正が必要であるが、憲章改正に必要な「常任理事国を含む全加盟国の3分の2以上の賛成※2」が得られる案は出されておらず、改革はいまだ実現していない。

主な安保理拡大論

安保理の議席数拡大における主な論点は(1)常任/非常任理事国の拡大、(2)地域代表の国数、(3)新規常任理事国への拒否権の付与であり、これまで提示されてきた各案の違いもおおむねこれらの点をどう扱うかにある。

1997年にラザリ国連事務総長(当時)による具体的な安保理改革案をきっかけに改革の機運が高まり、2004年12月の国連ハイレベル・パネル報告書で安保理改革に関するA案、B案が提案された(表1)。これらの案はいずれも選出基準がある程度明確であり、さらにB案では、拒否権は持たないが連続の再任が可能な「準常任理事国」という枠が新たに提案されている点が特徴である。これは常任理事国と非常任理事国の中間に位置する性質の理事国の枠組みの提案である。

これらの案を受けて、2005年にアナン事務総長(当時)が両案あるいはそれ以外の提案をもとに国連加盟国に安保理改革を決断するよう求め、G4をはじめとする複数のグループが拡大案を国連総会に提出した。
表1 ハイレベル・パネルで提出された安保理拡大案
ハイレベル・パネルで提出された安保理拡大案
三菱総合研究所作成
2005年以降の主な改革案はG4案、UFC※3案、AU※4案、L69※5案の4つである(表2)。G4案とAU案は議席数の拡大方針はおおむね共通しているが、G4は新常任理事国に15年間の拒否権の留保を付しているのに対し、AUは新常任理事国にも即時に拒否権を付与するという点で立場が異なっている。またG4に対立する立場のUFCは、常任理事国は現状のまま非常任理事国の議席数を大幅に拡大させる案を示している。小国から構成されるL69案はおおむねAU案と同一だが、小島嶼国に対する非常任理事国の議席の枠を明記している点が特徴である。
表2 2005年以降の主な安保理拡大案の比較
2005年以降の主な安保理拡大案の比較
三菱総合研究所作成

第三国の影響力の拡大

近年、グローバルサウスと言われる第三国集団の存在が国際社会においても注目されている。例えば、2022年のウクライナ侵攻後の国連安保理決議と総会決議における投票行動を見ると、「侵攻に対する非難」「軍の撤退要求」などの内容で圧倒的に賛成票が勝っている(表3)。しかし、「ロシアの人権理事会追放」や「責任所在の明確化」など制裁的な性格を持つ内容になると、賛成票が激減、反対・棄権票が激増している。このことから、東西どちらにも属さないものの明確な反対姿勢も示さない第三国群が存在していることが分かる。また、それらの国々は現在「グローバルサウス」と呼ばれる集団とほぼ同一である。
表3 ウクライナ侵攻を巡る国連総会決議の投票数の比較
ウクライナ侵攻を巡る国連総会決議の投票数の比較
出所:UN Digital Libraryより三菱総合研究所作成
2023年のパレスチナ・イスラエル戦争に関する国連総会決議では、イスラエルを非難する総会決議の賛成票が2カ月で30票近く増加※6するなど、ウクライナ侵攻と比べても大国とは異なる立場を表明する国々が目立った(表4)。また、2024年1月には南アフリカの訴えを受けて、国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルに対し、ガザ地区に対するジェノサイド(大量虐殺)を防止する暫定措置を命ずるなど、国際司法にも影響が及んでいる。さらに、ロシアのウクライナ侵攻を非難する一方で、イスラエルのガザ侵攻を擁護する欧米の対応はダブルスタンダードであるとして、アラブ諸国を中心としたグローバルサウスから批判を受けており、国連も含めて紛争解決をリードする中心的な立場としての求心力を失いつつある。
表4 パレスチナ・イスラエル戦争を巡る国連総会決議の投票数の比較
パレスチナ・イスラエル戦争を巡る国連総会決議の投票数の比較
出所:UN Digital Libraryより三菱総合研究所作成
グローバルサウスの発展だけでなくこうした国際情勢への姿勢からも、今後の国際社会の問題への第三国の主体的な関与、影響力の拡大が見込まれる。このことは、欧米諸国や常任理事国が自国の立場を支配的なイデオロギーとして諸問題を解決に導くことが、正統性確保、合意・多数派形成の観点から困難となりつつあることも意味している。

今後の安保理拡大論の展望

安保理の議席数見直しを通じてその代表性拡大を図っていくことは、国連および安保理自体の正統性を高め、国際社会に民主・協調の理念を示し続けるという大きな意味がある。

また、安保理の場は民主主義諸国、権威主義諸国の双方にとっても、他国からの不要な反発を防ぎ、国際世論の風向きを掌握しながら、自国に有利な決議をスムーズに可決に導くための重要な機会となる。当然ながら、極力多くの国の支持を得ることが望ましい。今後、その動きにおけるキープレイヤーとなると考えられるのがグローバルサウス諸国である。

実際、常任理事各国もグローバルサウスの支持を取り付ける必要性を認識し、理事国にアフリカ代表※7を追加し安保理を拡大することへの賛意を示した※8(表5)。具体的な拡大方針(対象国、国数上限など)に対しては各国の意見に差異が生じているものの、これまで意見の一致が見られなかった安保理拡大について、初めてできた統一見解であると評価できる。
表5 常任理事国の安保理拡大における姿勢
常任理事国の安保理拡大における姿勢
三菱総合研究所作成
これまで述べたとおり、国際社会でも代表性の向上に向けて駒を進める動き、雰囲気醸成は既に進みつつある。仮に議席の拡大が実現されれば、国連を中心とした国際関係、集団安全保障体制が強化される好事例となるだろう。しかし、安保理の拡大を実現するには国連憲章の改正が必要である以上、常任理事国を含む各国の支持が得られ、かつ実現可能性の高い案でなければならない。さらに、デカップリング(非連動化)が進行する中で一部の常任理事国のリーダーシップが低下するような変化に対する抵抗感も依然大きいと想像され、現状グローバルサウス諸国の中でも連帯が形成されているとは言い難い。こうしたハードルがあることから、依然として長い道のりとなることであろうが、少しずつ国連が有機的に機能できるような改革に向けた前進に期待したい。

※1:外交・安全保障 第13回:集団安全保障体制・国連の役割と期待 ウクライナ侵攻以降の国連改革論——拒否権の制限(外交・安全保障 2023.9.15)

※2:安保理の構成は国連憲章に定められており、国連憲章の変更には「総会または全体会議を構成する国の3分の2の多数による採択」と「安全保障理事会の5常任理事国を含む国連加盟国の3分の2による批准」により全ての加盟国に対し効力を生じる(国連憲章108条、109条)。

※3:Uniting for Consensusの略称。韓国、イタリア、カナダ、スペイン、メキシコ、トルコ、アルゼンチン、パキスタン、マルタ、コスタリカ、コロンビア、サンマリノからなるコンセンサスグループであり、G4に対抗する立場。

※4:アフリカ連合。

※5:アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ、アジア太平洋の小国42カ国から構成されインドが率いるグループ。大国は他にブラジル、南アフリカ、ナイジェリアが参加。改革案は2012年にまとめたものを参照。

※6:棄権から賛成に転向した国はアルバニア、オーストラリア、カナダ、キプロス、デンマーク、エストニア、エチオピア、フィンランド、ギリシャ、アイスランド、インド、日本、ラトビア、モナコ、北マケドニア、フィリピン、ポーランド、韓国、モルドバ、サンマリノ、セルビア、スウェーデン、チュニジア、ツバル、バヌアツ、ザンビアの26カ国。

※7:アフリカ側は安保理改革について、各国個別協議はしておらずAUを通じた議論しか受け付けていない。

※8:国連総会A/77/PV.36(2022年11月17日実施)より。