能登地域の生み出す付加価値がどの程度下押しされるかは、道路などの社会資本の今後の復旧スピードに大きく左右される。インフラの復旧が長期化すれば、民間資本ストックや労働力の復旧の遅れ、あるいは他地域への流出の可能性も高まる。
今回の地震は甚大な被害が特定地域に集中するとともに、能登地域特有の地理的条件によって復旧工事が難航している。日本全体での人手不足を勘案すると、復旧ペースは従来の地震災害に比べて遅れるだろう。地震発生から3カ月が経過し、電気・水道などの基本的なライフラインは復旧が進んでいるが、上水道については、珠洲市や輪島市など被害の大きい地域を中心に依然として5,310戸が断水している(4月16日現在)。執筆時点で明らかになっているインフラの復旧状況なども勘案して、労働力が1年程度でおおむね震災前の水準に戻ると仮定した場合、能登地域の付加価値下押し額は約1,600億円、能登地域で創出される年間付加価値の約21%にのぼると推計される(図表5)。地域経済に重大な打撃となる。
図表5 能登地域の付加価値の下押し額
注1:付加価値の下押し額は、内閣府(2016)「平成28年熊本地震の影響試算の推計方法について」の手法を参考に、注2~3の通り試算。
注2:付加価値の喪失額=各産業の付加価値×(1-稼働可能率)。
注3:稼働可能率=(1-ストック毀損率)×インフラ復旧率×労働復帰率。
注4:ライフラインと労働がおおむね正常化するまでの期間は執筆時点の復旧見通しや過去の震災を参考に、ライフラインはおおむね3カ月、労働力はおおむね1年と仮定した。
出所:総務省「令和3年経済センサス‐活動調査」、内閣府「県民経済計算」、石川県、富山県を基に三菱総合研究所作成