「データ駆動経営」による主力事業の進化成長

2021.8.1

DX技術本部清水 浩行

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • データ駆動経営は収益向上に直結する主力事業から着手すべき。
  • 創造性や対人対応などが重視される業務をAIにより強化する。
  • 人材・システム・データを整備してデータ駆動経営を内製化。

今こそデータ駆動経営に取り組むタイミング

市場変化の激しい近年、前例踏襲では企業経営が立ち行かない。定量的・科学的な事実に基づいた意思決定、すなわちデータ駆動経営へとかじを切ることが望ましい。コロナ禍で業務のデジタル化やペーパーレス化が促され、企業活動のデータ化も急速に進んでいる。データ駆動経営に取り組む環境が整ってきているといえよう。

データ駆動経営は企業における全ての意思決定が対象だ。KPI(重要業績評価指標)を可視化する「ダッシュボード経営」が代表的だが、日々の営業活動や社内稟議などを含む事業運営上の意思決定、人事・財務会計の意思決定も包含される。

主力事業を強化し収益力・競争力を向上

どこから着手すべきか。規模が大きく、改善・改革が収益向上に直結する「主力事業」に注目したい(図)。主力事業のデジタル業務プロセス改革は、直接的に競争力・収益力を向上させる。一方、経営や人事・財務における意思決定は、収益への影響は間接的である。これらは事業の正しいデータに基づき意思決定されるべきであり、その点からも事業のデータ駆動化に優先的に取り組みたい。
[図] データ駆動経営の概要
[図] データ駆動経営の概要
出所:三菱総合研究所
ただし一口に主力事業といっても、さまざまな業務で構成されている。初めに取り組むのは、商品開発、評価・検査といった判断業務や営業など、創造性や対人対応などが重視される業務がふさわしい。これらの業務は、AI技術と人間が協働することにより、効率化と同時に収益向上・業務品質向上が期待できるからである。

例えばAIを活用して熟練者のノウハウをモデル化し経験の浅い社員を支援する仕組みを作れば、業務レベルを熟練者並みにできる。熟練者から思考過程や秘訣(ひけつ)を聞き取り、モデルに組み込むことが重要だ。取るべき行動とその理由を一緒に示すことが、若手の柔軟な応用力を醸成する。

当社の支援実績から商品開発、判断業務の例を挙げたい。

商品サイクルが短い飲料製造業では商品開発期間の短縮が競争優位性に直結する。当社はキリン株式会社と共同で、過去の原料配合や製造プロセスの情報から完成品の成分を予測する「醸造匠AI」を開発し、ビールの新商品開発者を支援※1。時間を要する試製造の回数削減につなげている。また、予測ロジックを可視化し若手開発者へのノウハウ継承も実現している。

判断業務の代表事例は融資審査だ。借入金額や申込者の属性に加えて過去の取引や利用目的など多くの情報から総合的に判断する場面があり、属人性が高い業務とされる。しかしAIモデルであれば属人性が排除され、過去に類似事例のない特殊な案件に人間が集中できる。当社実績では、全体の50〜70%を自動化することも可能だ※2

融資審査以外の判断業務、例えば見積もり・品質の評価、入出荷・医療の検査なども件数が膨大なことからAIモデル化の成果を得やすいだろう。

内製化・データ利用環境整備がポイント

最後にデータ駆動化のポイントを整理したい。

データ駆動化は持続的な活動である。変化の激しい市場に追随すべく常に見直しが生じる。しかし外部委託では素早い対応が困難なため、自社人材で内製化することが望ましい。重要なのは、業務知見を備えつつもデータ分析にたけた人材の育成計画だ。しかし一般的に、業務知見の獲得には時間を要する。社内業務部門の要員を分析人材化することはデータ駆動経営に至る近道となろう。評価制度・処遇を整備してキャリアパスを明確にすることも人材の維持・成長に不可欠だ。

データ駆動化の範囲拡大やモデルの精度向上を目指し、データ収集にも取り組むことも有用だ。現行業務はデータ駆動が前提ではなく、社員の頭の中や文書ファイル内に散在している情報も多い。これらのデータを収集する仕組みを構築するには費用・時間がかかる。やみくもにデータを収集するのではなく、構築費用と期待効果から優先順位を設定して取り組むことが肝要である。

収集したデータを分析する環境も必要である。ITに不慣れな業務担当者でも使えること、クラウドサービスなどを活用し処理量の拡大に応じて柔軟に計算能力を高められることを意識したい。

データ駆動化は主力事業を強化して収益力を高める有力な手段である。しかし、人材・データ・分析環境ともに一朝一夕には整わない。中期的な視野で、一歩一歩、着実な成果を生み出して周囲の理解を得ながら進めることが不可欠である。

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