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ロボティクス 第6回
ふつうにロボットと一緒に働く、学ぶ、癒す、食べる社会

ロボットテクノロジーが変えるオフィス2030・2040

科学・安全事業本部 松井 京子 2020.04.28

変化するオフィス需要と人手不足が深刻なビルメンテナンス業

現在のオフィス需要は底堅く推移していますが、通信技術の進展や働き方改革の推進などに伴うテレワークの普及により(図1)、今後は社員一人あたりに必要とされるオフィス面積は低下していくことが予想されます。

図1

従業員301人以上企業のテレワーク取り組み

出所:総務省「平成29年版 情報通信白書」より三菱総合研究所作成

需要の陰りが予想される一方、都心を中心に大規模ビルの新規供給が続いており、将来的にオフィス市場の競争は激化するものと考えられます。安全性や環境機能といった価値の高いオフィス空間の提供が求められ、高度なメンテナンス技術も必要となってきています。

このような市場環境を背景としながら、ビルメンテナンス業は維持コストの抑制圧力が高いのが特徴です。例えばビルクリーニング業については技能が要求されるにも関わらず、賃金は抑制され、従事者のモチベーション維持が難しいとされています。ビル警備業でも、現在オリンピック特需の様相を呈していますが、女性が働きづらいなどの理由でリソース確保が難しいのが現状です。ビルメンテナンス業での人手不足は深刻です(図2)。

図2

ビルメンテナンス業務の有効求人倍率

出所:厚生労働省「第1回 ビルクリーニング分野特定技能協議会  資料5 ビルクリーニング分野について」(2019年)、厚生労働省「職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート))」(2018年9月分)より三菱総合研究所作成

時差ビズ、サテライトオフィス、フリーアドレス化やレクリエーション付きオフィスなど、オフィスワークにおいては従来よりも多様な働き方が「あたりまえ」になってきていますが、一方で従業員同士の均質で長時間対面コミュニケーションが担保されなくなることを心配する見方もあります。

オフィス需要が変化していく中、これからのオフィスに求められるのは「維持コストを下げる」ことと「新たな価値の提供」です。オフィスへのロボット導入によって、今後どのようにオフィスが変化していくのか見ていきましょう。

オフィスでのロボット導入の現状

現在のビルメンテナンス業では、清掃・警備・受付の分野で、限定的ですがロボットの導入事例が増加しており、開発も盛んに行われています。

清 掃: 大型の床洗浄ロボットのほか、比較的小型の吸引式ロボットが市場展開している。
警 備: 平時は案内ロボットとしても併用できるものが市場展開し、実証実験段階のものも多い。
安全性確保のためのセンシング技術や、巡回を効率的に行うためのマッピング技術が適用されている。
受 付: 製品展開が多様。会話・応対性能は完全ではないものの、話題性の面からも価値を提供。 顔認識・音声認識と会話機能の技術が適用されている。
その他: コミュニケーション支援系ロボットは構想・開発段階のものが多い。
図3

オフィスロボットの例

清掃
パナソニック RULO Pro

  • 絨毯等用の吸引式とフローリング用などの洗浄式に大別
  • 日本では小型の吸引式が目立つ
  • 周囲3次元認識、マッピング技術による自動走行技術を使用
  • 衝突回避安全技術も顕著

出所:Panasonic「MC-GRS1M (RULO Pro) 業務用ロボット掃除機」
(最終閲覧日:2020/01/28)
https://panasonic.biz/appliance/VacuumCleaner/soji_mc-grs1m.html

警備
SEQSENSE SQ-2

  • 各種センサーおよび人工知能による異常検知
  • 示威・対処のため比較的大型
  • 周囲3次元認識、マッピング技術による自動走行技術を使用
  • 衝突回避安全技術も顕著

出所:「SEQSENSE」(シークセンス) 自立移動警備ロボットSQ-2 」
(最終閲覧日:2020/01/28)
https://www.seqsense.com/product/

受付
ユニロボット unibo

  • 固定、小型
  • 顔認識、音声認識機能
  • 受付案内チャットボット+発話機能
  • 多様な業務に対応するためアプリ追加が可能
  • 手足が動く、丸いフォルムなど愛嬌

出所:ユニロボット株式会社「ユニボ受付機能の紹介」
(最終閲覧日:2020/01/28)
https://www.unirobot.com/wp/wp-content/uploads/2018/08/for_reception_service.pdf

2030年頃にはバックヤード業務でのロボット導入が一般化

2030年頃にはビルメンテナンス業の人手不足が一層深刻化し、清掃・警備・受付の分野を中心に主にバックヤード業務において、人間とロボットが分業・協働する形態が普及するものと予測されます。

図4

2030年、オフィスのバックヤード業務での人とロボットの協働

出所:三菱総合研究所

オフィスでのロボット普及における最大の課題は「コストと性能のバランス」です。将来的には、ロボットの性能・機能の向上に欠かせないセンサーや制御といった要素技術は、自動運転を始めとした他産業分野の技術発展にともない向上し、採用コストも下がるかもしれません。しかしロボット普及の初期段階においては高性能一辺倒ではコストバランスがとれません。例えばロボットの筐体(きょうたい)に、センシング、判断、動作制御の機能をすべて搭載する設計指向では、コスト面でのハードルをクリアできず普及は進まないでしょう。

高性能なロボットシステムを低コストで実現するためには、建物に備わったIoTインフラに備わったセンシングと連携させたり、画像処理は筐体(きょうたい)の機能から分離してクラウドで行ったり、ロボットが苦手とする作業分野を人間がロボットを手助けしたりといった、総コストを最適化させたトータル設計指向が求められます。

受付ロボットの場合、すべての来客に完璧な対応をする必要はなく、設計範囲を超えるイレギュラーな場面では人間スタッフへの引き継ぎを円滑に行えるようにすることで、業務遂行が可能となるでしょう。また、清掃ロボット一台が、ビル一棟分のすべての清掃業務をカバーする必要もありません。ドアの開閉は人が行ったり、床磨きロボットが清掃できない棚の上は人間が拭いたり、といった分業が効率的です。このように少人数の人間スタッフと機能限定的なロボットが相互補完することによって、総コストの最適化が可能になります。またこのような最適化が進んでいく経過の中で、ビルメンテナンスの業態は、「ゼネコン、警備会社、電機メーカーが共同でトータルビルマネジメントを提供する」といったように変化することも期待されます。

ロボット化過渡期においては、人-ロボット協調が求められます。高齢者、外国人など多様な社会参画者の一員としてロボットにも配慮したり協力したりする社会へ変容することが、ロボット社会導入の加速につながるのではないでしょうか。例えば、清掃ロボが通るフロアには障害物をできるだけ置かないといったロボットバリアフリーや、音声認識受付ロボに対してはSQL構文的な話しかけをしてあげるといった言語配慮などが当たり前の社会となれば、ロボットの普及は進み、人は快適に働くことができるようになるでしょう。

2040年頃にはロボットが社員の高パフォーマンスを支える存在に

テレワークが普及した未来社会では、オフィスという空間は、チームメンバー間の対面コミュニケーションでしか生み出せない高付加価値の業務活動を行うため「だけ」の場所となると思われます。オフィスの価値は、メンバー間の相乗効果をいかに高める環境を提供できるかにかかってくるでしょう。

図5

2040年、オフィスの高付加価値化

出所:三菱総合研究所

未来オフィスにおいては、短時間の空間共有で最大の相互作用を担保するよう、質の高いコミュニケーションを誘導するAIアシストロボットや、五感を通じて人の能力を高める環境アシストロボットが標準的サービスとなることが期待されます。AIアシスタントが人間の議論を分析して関連情報をリアルタイムで提示するといった効率化や、単語および音声からコミュニケーションの緩急を検知し、要約や補助発言をしたりといった機能が考えられます。コミュニケーションのトーンを制御する目的では、照明や空調といったオフィス環境との連動も有用でしょう。

オフィスワーク支援ロボットが普及するための問題点は「導入効果が測定しづらいこと」です。ロボット導入による清掃費削減などと比べると、社員コミュニケーションが円滑化したメリットの効果は評価しづらいと思われます。これについては組織の業績や活動活性度、働きやすさなどを客観的に評価するための組織マネジメント機能の仕組みとの連携が必要となります。

将来的には、「職場コミュニケーション」の変化といった文化的影響も現れることでしょう。AIアシスタントがサポートすることで円滑・効率的な対話ができるようになり、職位等の立場に関わらず内容本位での議論がしやすくなることでしょう。また、ロボットとのやりとりから人がコミュニケーションスキルを学ぶようになることも考えられます。人の対話能力は衰えるのではなく、ロボットを含んだコミュニティーにおける新たなコミュニケーション形態として発達するのではないでしょうか。

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