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ロボティクス 第1回
ふつうにロボットと一緒に働く、学ぶ、遊ぶ、癒す、食べる社会

ロボットテクノロジーの進化と社会実装への道のり ――人口減少時代の生産性革命

世界と日本が抱える社会問題

少子化が想定を上回るペースで進んでいます。人口動態統計の年間推計によれば、2019年の日本人の出生数は86万4000人。1899年の統計開始以降初めて90万人を下回りました。出生数が86万人まで減少するのは国立社会保障・人口問題研究所の人口予測よりも2年早く、社会に衝撃をもたらしました。安倍首相もこの状況を「国難」と表現し対策の必要性を示したものの、現状ではまだ有効な打ち手は出ていません。少子化と表裏一体の問題とされる超高齢社会の到来はデータを出すまでもない周知の事実です。

また、日本生産性本部のデータによると2018年の日本の生産性(就業者1時間当たりの付加価値)はOECD36カ国中21位、アメリカの6割強の水準しかなく、第1位のアイルランドの2分の1以下となっています。

人口減少、高齢化、生産性の低下は経済社会の活力の低下に通じる問題です。これらの問題の有力な解決ツールとして期待されてきたのがロボットテクノロジーの活用です。

当社は2009年(平成21年)度に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から「ロボット産業の新規市場創出に向けた国内外技術動向及び市場分析に係る情報収集」を受託しました。その成果報告書の冒頭で「ロボット産業は、少子高齢化による労働力の減少・作業負荷の増大への対応や、製品・サービスの質や生産性のさらなる向上の必要性から成長が期待されている。また、家庭、介護福祉など、製造現場以外のさまざまな分野においても、日本の強みであるロボット技術を活用した課題解決への期待が高まっている」と明記しています。

この報告書ではロボット技術のユースケース(活用事例)を考え、各方面へのインタビューや第一線のロボット関係者との議論を行い、緻密に数字を積み上げて市場規模予測推計を行いました。その予測としては、2035年の市場規模は9.7兆円に成長するとしています(図)。現在でも、この数字はロボットの市場規模を表す基礎データとして用いられています。

ところが10年後の現在、製造業分野の伸びはこの予測と大きなずれはありませんが、大きな伸びを予測したサービス分野のロボットの導入が進んでいません。予測では2025年には製造業分野の倍の市場規模となっているのですが、現状ではずれが生じているのです。

2035年までのロボット製品産業の国内市場ポテンシャル推移

出所:新エネルギー・産業技術総合開発機構(委託先:三菱総合研究所)「平成21年度 ロボット産業の新規市場創出に向けた国内外技術動向及び市場分析に係る情報収集 成果報告書」(2010年3月)

なぜサービス分野のロボットが普及してこなかったのか

なぜサービス分野におけるロボット技術が普及してこなかったのでしょうか。考えられる原因を3つ挙げてみましょう。

  • ・第一には、開発においてシーズが先行し、「利用できる・利用したくなる」ロボットが開発されてこなかったこと。
  • ・第二には、ロボットとして活用されるための技術レベルが十分ではなかったこと。
  • ・第三には、十分な安全性の担保、規格・規制が不整備であったこと。

しかし、これらはこの数年で下記のように急速に解決が図られつつあります。
第一の点については、ニーズ先行型の開発スタイルが広がってきています。人手不足の深刻化や働き方改革などからユーザー側のニーズが明確になってきたことや、ロボット開発側がシーズ先行の開発では普及しないと気づき始めたことが背景にあります。
第二は、ロボットが活用されるために必要な技術のレベルが、この数年で急速に発達してきている点です。特に視覚や触覚などの各種センサーや5Gなどの高速通信技術、IoTやAI技術などの発達は目覚ましいものがあります。なお、これらの技術については、この後連載予定のコラムでもふれていく予定です。
第三の点は、生活支援ロボットに関する国際規格ISO13482が制定されるなど、規格・規制について具体的な整備が始まっています。

このようにロボット普及に向けて重要な要素となる「プレーヤー」と「技術」、「制度」の3つが揃い出しているのです。今後は、特にロボットの開発側には、社会や事業環境を予測し、必要となるユースケース(活用事例)を実証し、受け入れられる製品を開発していくことが求められています。

これまでのロボットと、これからのロボット

ロボットの定義としてこれまで長く用いられてきたのは、「ロボット政策研究会 報告書」(2006年、経済産業省)で示されたものです。そこではロボットは「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」と定義されています。
一方、日本工業規格(JIS)の「JIS B 0134」では、「自動制御によるマニピュレーション機能または移動機能を持ち、各種の作業をプログラムにより実行でき、産業に使用される機械」と定義しています。

さらに、ロボット革命実現会議※1での議論を経て2015年にとりまとめられた「ロボット新戦略 ―ビジョン・戦略・アクションプラン―」では、ロボットの劇的変化として次の3点を挙げています。①自ら学習し行動するロボットへの「自律化」、②さまざまなデータを自ら蓄積・活用する「情報端末化」、③相互に結びつき連携するロボットへの「ネットワーク化」。中でも「ネットワーク化」が取り上げられたことは特徴的です。
「NEDOロボット白書2014」では、ロボットの定義が流動的であることを示し、その理由として「時代とともに科学技術はもとより、産業構造、社会制度、文化なども変化し、ロボットの役割や受け取られ方も変遷してきていること」としています。

このように年月の中で経た議論を踏まえ、現在ではロボットというものの考え方が自由に、柔軟になり、マニピュレーターや移動系システムがなくても自ら学習し、また、さまざまな情報を蓄積・活用するものもロボットと捉えられるようになってきました。例えばRPA※2のようなソフトロボットもロボットと呼ばれるし、ドローンも自律性やネットワーク性などを備えたロボットの一形態ととらえられるようになってきました。IoT化された家電や自動運転車も、ロボット技術(RT)を用いた広範囲なロボットと定義されるようになってきています。

先端技術メガトレンドで取り上げるロボットユースケースの分野

当社では現時点の最先端の技術を踏まえつつ、これからロボット技術が活躍する分野として、介護、農業、教育・スポーツ、物流、小売り・飲食、オフィスの6つを選び、動向分析を行いました。分野の選定にあたっては、①世の中のニーズが多いのにもかかわらず供給側の人手が不足している分野、②生産性の向上が求められる分野、③世界的に課題解決が求められる分野という点を重視しました。
また、この6分野について、2030年と2040年をターゲット年とし、ロボット技術が活躍する社会がどのようになっているかを検討しました。2030年については、社会実装される技術はその萌芽(ほうが)が今すでにあるものと仮定し、現在、開発の最先端にある技術の延長の中で考えうるロボット像と、それが活躍する社会像を描きました。一方、2040年は、2030年の社会との連続性に考慮しつつも、変化した社会の姿を先に考え、その社会の中で活躍しているロボット像を描きました。ケースによっては、ロボットが活用されるために必要な社会システムやインフラ変革の姿についても描きました。

今回の検討の特徴は、ロボット技術については専門外である当社の中堅・若手研究員が中心に行ったことです。ロボット技術の枠にとらわれず、自由な発想のもとに描くことにより、これまでのさまざまなロボット社会予測本にはない内容となっています。

ロボット技術は、携帯電話やデジカメのように人々の暮らしや制度、社会の形を変えていくことになるでしょう。当社においてもロボット技術についての専門性を高めるだけでなく、ロボット技術の社会実装を通じて、あるべき未来社会の実現や社会課題解決に貢献していきたいと考えます。ぜひ以下のコラムシリーズも一読ください。

  • ※1:2014年のOECD閣僚理事会(パリ開催)で安倍首相が表明した「ロボット革命を起こす」宣言を受けて創設された。
  • ※2:Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)。インターネットからの情報収集や表計算ソフトでの情報整理といったコンピューター上の定型作業を自動化するソフトウエア型のロボット。
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