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ロボティクス 第7回
ふつうにロボットと一緒に働く、学ぶ、癒す、食べる社会

ロボットテクノロジーが変える物流2030・2040

人手不足が深刻な物流産業

ネットで注文した商品が翌日には家に届き、送った荷物は指定した時間帯に確実に届く。日本の物流はこのような他国に類をみない便利で安心なサービスを実現してきました。しかし今、物流産業は大きな課題に直面しています。

EC(Electronic Commerce)市場が直近10年で約2.5倍に拡大し、宅配の取扱件数が増加したことや、製造業のジャストインタイム生産方式が定着したことなどの影響で、物流の少量多頻度化が進み、トラックなどの営業用自動車の輸送の積載効率は年々下がっています(図1)。

図1

営業用自動車の積載効率の年次推移

出所:国土交通省「自動車輸送統計年報」より三菱総合研究所作成

また、物流産業は荷主からのコスト抑制圧力が高い市場構造のため、長時間労働や低賃金といった厳しい労働環境の改善が進んでいません。物流業界は人材の確保に取り組んでいるものの、労働環境が魅力的でないことが影響して若年層を中心に雇用獲得に苦戦しており、他業界に比べて労働者の高齢化も進んでいます。日本の物流産業の人手不足は深刻な状態となっています(図2、図3、図4)。

図2

運輸業・郵便業の「産業別事業従事者数」各年平均値の推移

出所:総務省「サービス産業動向調査」より三菱総合研究所作成

図3

運輸業・郵便業の「労働者が不足する事業者の割合」各年平均値の推移

出所:厚生労働省「労働力経済動向調査」より三菱総合研究所作成

図4

自動車運転の職業の「有効求人倍率(パートタイムを含む常用)」各年平均値の推移

出所:厚生労働省「職業安定業務統計」より三菱総合研究所作成

昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、消費者が外出を控え、ECサイトで日用品や生鮮食品、テイクアウト料理といったモノを購入していることから、特に宅配需要が急拡大しています。しかしその中、物流の最終拠点からエンドユーザーへの配送の「ラストワンマイル」において、既存の物流ネットワークだけではカバーしきれない逼迫した状況が生まれています。これに対応しようと、例えばAmazonやUberなどが小規模の事業者や個人を参入可能とするツールを提供するなど、サービスを提供するIT企業が物流の人手不足をカバーする試みも見られます。一方で屋内での人による作業が避けられない物流倉庫内では、感染拡大による人員不足の影響が重なり、発送が遅延するという問題が起こり、一般消費者の実感としても物流業界の人手不足が感じられるところとなりました。

物流業界でのロボット導入の現状

このような課題を背景として物流業界では、製造業に次ぎロボットの活用による省人化・自動化の取り組みが積極的に行われています。ここからは物流倉庫やラストワンマイルを中心に、物流産業のサプライチェーンの各段階におけるロボット活用の状況を見てみましょう(図5)。

図5

物流産業の各サプライチェーンにおけるロボット活用状況

出所:三菱総合研究所

現状では大型物流倉庫を中心に、荷物の収納・保管、梱包、仕分け作業などでロボットの導入が普及し始めています。一方、荷物の上げ下ろしやピッキングへのロボット導入はごく一部に限られており、人手に頼らざるを得ないのが現状です。

もし今後、重たいモノ、壊れやすいモノ、柔らかいモノ、不定形なモノといった多様な荷物を扱うことができる汎用性の高いピッキングロボットが開発されれば、物流倉庫の完全自動化に大きく近づくことができるでしょう。ピッキングロボットの実現による物流事業効率化のメリットは大きいため、物流業界の大企業からITやロボット関連のベンチャー企業に至るまで、多くの企業が開発競争を繰り広げています(図6)。例えば、世界の企業の中でも最大レベルの研究開発投資額を誇るAmazonは、物流倉庫の自動化に向けて莫大な資金を投じています。しかしながら汎用性の高いピッキングロボットの実装は難しく、全自動倉庫の実現には短くてもあと10年は要するとみられています。

図6

物流倉庫で活躍するロボット例

自動倉庫
「ファインストッカー」

写真提供:株式会社ダイフク

自動搬送ロボット
「Amazon Robotics」

写真提供:アマゾンジャパン合同会社

自動梱包ロボット
「CMC CartonWrap」

写真提供:CMC S.r.l.(イタリア)

仕分けシステム
「サーフィンソーター」

写真提供:株式会社ダイフク

ピッキングロボット
「デパレタイジングロボットシステム」

写真提供:Kyoto Robotics 株式会社

物流産業におけるロボット実装の未来像

2030年、大型物流倉庫は完全自動化に近づく

現状では物流倉庫での荷物の積み下ろし、ピッキング、積み込み作業は自動化が進んでおらず、多くの人的資源が投下されています。しかし、Amazonを始めとするECプラットフォーマーや3PL※1などの企業による積極的な研究開発投資が続くことによって、10年後の2030年頃には、これらの作業の多くがロボットに代替されるような、最新鋭の大型物流倉庫が出現すると期待されます(図7)。

図7

2030年、自動化が進んだ大型物流倉庫のイメージ

出所:三菱総合研究所

ユニクロを展開するファーストリテイリングは、東京・有明にあるEC専用センターの倉庫において、2018年に省人化率90%を実現したと発表しました※2。このような各企業の取り組みが続けば、物流倉庫で働く作業員は、現在よりも1桁少なくなるのではないかと考えられます。

2040年、物流プロセスは完全自動化した大型倉庫に集約される

現在、日本には数万の物流倉庫が存在しますが、ロボット導入の対象となるのはごく一部です。ロボットが効果的に稼働するためには十分なスペースが必要ですが、多くの倉庫は手狭でそのスペースが確保できないからです。また、導入に伴う多額の設備投資のコストメリットを享受するには、定常的な取扱荷物が発生するなど一定の作業量が求められますが、その水準を保てるのは大型の倉庫に限られます。

投資余力のない製造業者や中小卸事業者が保有する中小規模の倉庫は、設置から数十年後に迎える設備更新時期を契機に、次第に減少していくでしょう。なぜなら、ECプラットフォーマーや3PLが運営する自動化された大型物流倉庫に比べて効率面で劣るからです。それに伴い、物流倉庫へのロボット設備投資は加速し、2030年までには不可能とみられる完全自動化も、2040年頃までには実現するものと予想されます。一層の効率化を遂げた施設は従来型の施設を徐々に淘汰し、物流プロセスは完全自動化した大型倉庫へ集約されていく形となるでしょう(図8)。

図8

2040年、物流プロセスは完全自動化した大型倉庫に集約

出所:三菱総合研究所

2030年~2040年、ラストワンマイル配送の無人化は段階的に普及

現在、ラストワンマイル配送の無人化を目指し、多くの企業でデリバリーロボットが開発されています。アメリカと中国ではすでに市街地での実証実験も行われており、日本でも、オフィスビル内や大学のキャンパス内などでの実証実験が始まっています(図9)。2030年頃には、大規模マンション群や特定の街区などの整備が行き届いたエリア限定で、デリバリーロボットの導入が進むと想定されます。

図9

デリバリーロボット開発例

「DeliRo™」

写真提供:株式会社ZMP

「R2」

写真提供:Nuro, Inc.(アメリカ)

自動車メーカー各社が開発にしのぎを削っているレベル5の完全自動運転車は、2030年頃には実用化の目途が立ち、2040年頃には、幹線道路では隊列自動走行トラックが走行し、地域間を結ぶ物流の幹線輸送を担うことが予想されます。

一方でラストワンマイルでは、人や動物が行き交い、さまざまな障害物が存在する複雑な環境のため、自動車の完全な自動制御は困難で、社会実装にはかなりの時間が必要です。まずは実証実験を踏まえて、道路交通法の見直しなどの制度設計や、デリバリーロボットが走行しやすい道路環境を実現するインフラ整備などが次第に進捗することになるでしょう。その結果、2040年頃には、戸建ての家が建ち並ぶような日本の一般的な住宅街においてもスマート化が進み、デリバリーロボットが稼働できる街が出現すると考えられます。ラストワンマイル配送の無人化は、段階的な普及を経て、2040年以降に本格的に社会実装されていくでしょう(図10)。

図10

2030年~2040年のラストワンマイル配送

出所:三菱総合研究所

ロボット実装の未来像に向け克服すべき課題と解決策

日本の物流システムは、これまでも世界に誇る高い信頼性・正確性・安全性を実現してきました。しかし、現在の物流業界の人手不足に加えて、到来する人口減少社会を考えれば、ロボットの導入による物流システムの格段の効率化・自動化への社会的需要は大きいといえます。一方で、上記で描いたような2030年〜2040年のロボット実装の未来像に向けては、技術課題の克服だけでなく、社会制度やインフラの課題などをクリアしていく必要があります(表1)。

表1

ロボット実装の未来に向け、克服すべき課題と解決策の一覧

克服すべき課題 解決策

【物流倉庫】
素早く正確な荷の上げ下ろし、ピッキング作業を可能とするロボットの実現

【要素技術の開発】

  • 触覚センサーの実用化(重量物、不定形形状物への対応)
  • アーム制御技術の進展(機械学習による多様な荷形状への対応、ティーチング不要化)

【ロボットが稼働する環境の整備】

  • パレットや台車、梱包資材などを標準化し、ロボットがモノを扱いやすくする
  • センサーで得難い情報はRFIDで管理し、ロボットによる業務の最適化を図る
  • 人とロボットが効率的・安全に協働できる業務を設計、空間をデザインする

【ラストワンマイル】
自動輸送を可能とするための社会制度、インフラの整備

【複雑な環境下での自動運転輸送の実証実験】

  • 国交省や経産省および自治体の事業による道路区域での実証実験を行う
  • 民間が街区管理を一括しているような大規模開発街区や集合住宅などでの実証実験を行う

【法制度の見直し、制度設計】

  • 自動輸送に関する道路交通法など、制度面について段階的な見直しを進める

【インフラの整備】

  • 自動輸送に適した道路および周辺のインフラ整備を進める
  • 収納ボックスなどの受け取る側の環境も整備する

【全体】
ロボット導入により得られる費用対効果の拡大

【ロボット自体のコスト低減】

  • 普及拡大、量産化によるロボット自体の価格低減

【ロボット導入メリットが出やすいサプライチェーンへの遷移】

  • 自動化された大規模倉庫へのシフトが順次進むことにより、業界全体としての効率化が進展

出所:三菱総合研究所

物流倉庫のロボット導入を加速させるためには、要素技術の開発だけでなく、ロボットが稼働しやすいような環境整備が重要です。具体的には荷を格納するパレットやカゴ、台車などを業界で標準化することや、RFIDの導入によって荷の重量や取扱留意点など具体的な情報をロボットに提供するなどが挙げられます。また、ロボットの故障やハンドリングミスが発生することを前提に、業務設計や施設空間整備においても、人間とロボットが効率的で安全に協働するための工夫を凝らすことも必要です。

ラストワンマイルでデリバリーロボットを導入していくためには、自動運転技術の確立だけでなく、法律をはじめとした制度設計やインフラの整備を進める必要があります。日本の道路には、歩車分離が実現している道路もあれば、歩行者・自転車・自動車が行き交う道路もあるため、それらとデリバリーロボットが安全かつ円滑に共存する交通の仕組み・ルール作りをいかに構築していくかも課題です。車道専用のデリバリーロボットと歩道に特化したタイプのデリバリーロボットを使い分け、荷物をリレーするようなネットワーク網が実現する時代が到来するかもしれません。

これらのロボットが導入され、普及していくための最大の課題は、コストに見合うメリットが享受できるかどうかです。ロボット単体で要求機能を実現しようとすると、ロボットにさまざまな機能を付加せねばならず、コストは嵩んでしまいます。大量生産することによってロボット自体の価格が低減されるとしても、コストの壁を打破するのは容易ではありません。また、インフラ整備や制度設計を含めた全体としてのコストとなると、さらに積み上がります。世界最大のロボット製造大国であり、スマートシティでも世界最先端を行く中国の都市においてさえも、物流倉庫内やラストワンマイルでの作業は低賃金の労働者による人海戦術でカバーされているのが現状です。

ロボットが稼働するインフラをどのように整備するか、社会制度をいかに設計するか、ロボットと接する人間の行動ルールをどのような方法で規定するか、人間だけでなくロボットの安全をどう確保するか。到来する人口減少社会の礎となる物流システムを実現するためには、ロボット開発者だけでなく、さまざまなステークホルダーや専門家が社会全体をトータルデザインする発想で知恵を出し合う必要があるといえます。

  • ※1:3PL(third party logistics):企業の物流業務を長期的・包括的に請け負う物流専門事業者
  • ※2:ファーストリテイリング「株式会社ファーストリテイリングと株式会社ダイフクとの『戦略的グローバルパートナーシップ』に関する記者発表会(2018年10月9日(火))」
    https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/presen_back.html (閲覧日:2020年5月8日)
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