コラム

Safety Biz~安全・安心を創る新しいビジネス~防災・リスクマネジメント

災害時の支援物資輸送の課題とICTを用いた物流革命

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2017.6.14

科学・安全事業本部中村智志

Safety Biz

POINT

  • 支援物資輸送の課題解決には、物流の技術革新が必要。
  • 災害時には、輸送に必要な工程数が少なく、物資の需給量を可視化した物流インフラが必要。
  • 無線ICタグ(RFID)やブロックチェーンといった技術が、平常時の物流を改革し、災害時の物流を改革する。 

届かない食料や水

インターネットショッピングにおける過剰とも言える配達サービスやドライバーの慢性的不足により、わが国の物流が危機に晒されている。平常時でさえ物流の再構築が提唱されている状況において、もし首都直下地震が発生した場合には、支援物資が適切に輸送できるだろうか。内閣府の試算では、首都直下地震が発生した場合、発災2週間後に避難者が最大で約720万人に達し、食料は発災後1週間で最大約3,400万食、飲料水は最大約1,700 万リットル、毛布は最大約37万枚の物資が不足すると予測されている(※1)。これは、ダンボール箱に換算すると実に400万個の物資が不足することになる。支援物資の物流インフラ網が早期に構築されなければ、被災地域内への食品や生活物資の搬入の絶対量が不足し、深刻な物資不足に陥るだろう。

課題となるのは、「輸送プロセスの簡略化と物流の可視化」

2016年4月の熊本地震では、一ヶ月近くも集積所に支援物資が滞留し、避難所に届けられない事態が発生した。自然災害などが発生した時、支援物資の輸送プロセスがあまりにも複雑であれば、途中でボトルネックが発生し支援物資が滞留してしまう。災害時には人手が不足して支援物資の確認や仕分けが困難になりがちだからだ。その結果、避難者に支援物資が届かないようでは本末転倒である。

また、災害時の支援物資の輸送にはもう一つの課題がある。せっかく仕分け・集積した物資の情報が関係者間で円滑に共有できていないのである。そのため、集積拠点で物資を仕分け・整理した成果が十分に生かされず、どこに物資があるのか把握することが難しくなっている。この課題を解決するには、ダンボール1箱に至るまで支援物資のトレーサビリティ(物流、流通経路の追跡)を高め、集積状況や需給状況を輸送担当者間で共有し、本当に物資を必要とする避難者へ届ける仕組みを構築する必要がある。
図1 首都直下地震を想定した支援物資の配送フローチャート
図1 首都直下地震を想定した支援物資の配送フローチャート
出所:内閣府資料より三菱総合研究所作成

RFIDやブロックチェーン技術を用いた物流革命

災害発生を想定した支援物資の仕分け・配送において、IoT技術を用いて物流の一部を自動化する試みとして、RFID(Radio Frequency IDentifier)とブロックチェーン技術による輸送プロセスの簡易化に期待が集まっている。RFIDは、SuicaやPASMOといった交通カードに応用されている小型のICタグを無線通信で読み書きする技術である。RFIDは、5cm四方の小さなタグに数10キロバイトの情報量を保存可能で、記録された情報を、専用のリーダー(読み取り機)を使って数メートル離れた位置から読み取ることができる。例えば、輸送物資のダンボールにRFIDタグを貼り付ければ、複数のダンボールの詳細な情報を同時に読み取れるため、集積所で物資を確認する手間を削減することができる。また、物資を移動させた場合でも、移動先の履歴を追跡(トレース)することで、ダンボール箱1つの位置情報に至るまで管理することができるようになる。

RFID技術によって、物資の内容や位置情報が管理できるようになれば、今度は物資の集積情報を共有するシステムが必要になる。従来は、紙と簡易な表計算ソフトを用いて拠点ごとに物資を管理していたため、複数の拠点間で物資の集積状況を共有することができなかった。そこで、ブロックチェーン技術を用いた物資の分散台帳を構築することで、支援物資の需給状況を可視化することが考えられる。ブロックチェーン技術は、仮想通貨を支える仕組みとして2009年に提唱された。ブロックチェーン技術の特徴は、1つの集積サーバーでデータを管理するのではなく、複数のデータサーバー間で同じデータを分散保持できる点にある。この技術を応用することで、耐災害性が高く、どの集積所や避難所からでも、全ての支援物資の輸送状況が確認できる。支援物資に対する避難者のニーズを拾い上げるシステムと組み合せれば、集積所や避難所の物資の需給情報を可視化できる。このようにRFIDやブロックチェーンなどのICT技術によって、物流に技術革新を進めることで、大規模災害時にも避難者が求める支援物資を適切に届けられる輸送インフラを構築することが可能となる。今後、これらの技術は、まず平常時の物流インフラを大きく変革すると考えられる。その際に、災害時への応用を前提に技術導入・制度設計を進められれば、耐災害性の高い支援物資の輸送インフラの実現に大いに役立つだろう。
図2 新規技術を用いた災害時の支援物資輸送
図2 新規技術を用いた災害時の支援物資輸送
出所:三菱総合研究所

※1「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~ 人的・物的被害(定量的な被害) ~」
内閣府中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ