検討を進め、ある程度意見がまとまってきた段階で、ビジョンを言葉に落とし込む作業に移る。自社が将来にわたって目指す姿を表現するものなので、従業員のみならず、ステークホルダーに対しても、分かりやすく、将来の姿がイメージできる言葉であることが求められる。
これまで議論してきた内容を論理立てて整理していくことに加え、心に響く言葉に変換していく右脳的な発想も必要だ。これは最後までメンバー内で意見がまとまらないこともある、非常に骨の折れるプロセスである。
一言で対象に意図を想起させるという点では、コピーライティングに似ているが、単に心地よく韻を踏むような言葉づくりを志向するのは本末転倒である。短文でキャッチーであることは望ましいが、多少長くとも、チームで検討してきた自社の将来像を想起できるような言葉を選んでいくことが非常に重要となる。
社風として「堅い」企業ほど、このプロセスで議論が煮詰まってしまうことがある。その場合、まずは従業員に対して何を伝えていくか、という点に絞って検討を進めることで、おのずと言葉はまとまっていくことが多い。また、これまでメンバーで検討時に用いていた言葉がそのまま採用されるケースも多い。
繰り返しになるが、自社が思い描く将来の姿を共有するために、ビジョンを言葉にするのであり、「自社らしい」言葉を選択することが最も有効であると考えている。
上記のプロセスを経て、自社の目指す姿をイメージとして形にする段階に到達することになる。冒頭に述べた、登山に例えるならば「登る山」と「なぜ登るのか」を関係者に伝えることができる状態になったといえる。
第5回では、従業員、ならびにステークホルダーに対し、一緒に山に登ってもらうために必要な戦略目標と基本方針の立て方、そして、変革に向けたロードマップへの落とし込み方について紹介したい。