コラム

3Xによる行動変容の未来2030経済・社会・技術

3Xによる行動変容が鍵を握る10年後の未来

先進技術がドライブする生活と社会への道しるべ

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2021.8.16

先進技術センター関根秀真

3Xによる行動変容の未来2030

POINT

  • 当社は、50周年記念研究で、デジタル、バイオ、コミュニケーションの3つの領域の革新技術による社会変革=3X(スリーエックス)と共領域を提唱。
  • 3Xと共領域が、これまでの社会における固定概念や価値観を打ち破り、生活者一人ひとりの行動を大きく変容させる可能性がある。
  • 本連載コラムでは、これから10年=2030年代初頭までに3Xと共領域がもたらす行動変容の未来を健康と生活の側面から示す。

3X・共領域とはなにか

これからの50年、日本は急激な人口減少となる一方で世界の人口は100億人に達します。また、平均寿命の延伸により、先進国を中心に人生100歳時代を迎えます。そのなかで、私たちは気候変動、環境や資源の制約、感染症といった持続可能性の危機、格差や分断など、地球規模の課題に向き合い、100億人が豊かさを実感できる社会を構想しなければなりません。

当社では、2021年1月に公表した50周年記念研究※1・※2において、豊かさの定義を「量的な成長」から個人が生み出す価値に着目する「一人ひとりのウェルビーイング」に進化させ、豊かさと持続可能性が両立する社会を実現するためのビジョンと方策を示しました。この社会を実現するために鍵となる2つのファクターが、「3X」と「共領域」となります。

「3X」は、デジタル、バイオ、コミュニケーションの3つの領域の革新技術による社会変革(トランスフォーメーション)です。デジタル領域の技術群によるDX(デジタル革命)が、現在進行形でビジネスや生活を大きく変えていることは周知の通りです。同様に、BX(バイオ革命)では、人の健康、農業や自然、動植物など、生命活動を広く扱うライフサイエンス領域における技術が進歩を遂げています。さらに、コロナ禍で急速に進んだオンラインコミュニケーションの先には、人のつながり方や、コミュニケーションの姿の大きな変容が待ち受けています。これが、CX(コミュニケーション革命)です。一方、「共領域」は、3Xにより実現する、一人ひとりの自由な活動と多層的なつながりを可能とする未来のコミュニティです。このコミュニティは、目的を共有する多様な人々が地理的、時間的な制約を超えて集い、価値を創造し、新たな産業を生み出す場となります。
図1 3Xの概念
3Xの概念
出所:三菱総合研究所
この「3X」と「共領域」は、50年後の未来に忽然と現れるものではなく、これからの50年を通じた技術進化とともに人、社会のありさまを変容させていく推進力となるものです。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、私たちの価値観や生活・行動様式を極めて短期間に転換しました。パンデミックが収束した後、私たちは「コロナ以前」の行動・生活に戻るだけでしょうか? それとも、この経験を前向きに活かして、新たな社会を築き上げていくことができるでしょうか? 今、私たちはその分岐点に立っています。

3Xが人・社会にもたらすインパクト

「3X」がもたらす変革の本質は、技術による効率性や生産性の追求ではなく、一人ひとりが潜在的に有する多様な能力を発揮して社会の中で活躍することで、人と社会の新たな「豊かさ」と「持続可能性」を実現することにあります。

3Xを構成する先進技術の多くは、個人の健康、働き方、学び方、楽しみなど、一人ひとりの能力を高めるとともに価値観や行動の変容をもたらすことが期待されます。これらの技術は個人の自律性を高める一方で、社会的には格差や分断を加速させる可能性があります。また、先進技術の社会実装においては、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理的・法的・社会的課題)に対する十分な留意が必要となります。例えば、本連載コラムでも取り上げるxR技術(VR:仮想現実、AR:拡張現実、など)は、現実空間と仮想空間を融合することにより働き方、医療、観光などの在り方を大きく変える可能性がある一方で、仮想空間のみで生活が完結してしまうと引きこもりの増加や健康障害などが社会問題として顕在化していく可能性があります。また、医療技術についても、治療・投薬費用が高額であればその恩恵を受けられるのは経済的に恵まれた一部の人となり、健康や能力の格差を生み出すとともに、社会的な分断を高めることとなります。

社会が変化すれば、損をする人、得をする人も出てきます。このとき、負担を一部の人に押し付けたまま変革を進めようとすれば反発を招くのは当然です。しかし、それを恐れて変革を押さえ付けてしまえば社会は停滞してしまいます。変革への意志を明確に持ちつつ、負の影響をどう軽減するか。技術をどう活用するか。これは、人類が長い歴史においてこれまでも試行錯誤を続けてきたものです。しかし、これからの10年、技術の開発スピードが加速する一方で社会制度の整備には一定の時間がかかります。このため、未来にむけては、技術をどのように人と社会に対して活用するか、可能な限り具体的に描くとともに、さまざまなステークホルダーと共に意思をもって社会実装に取り組むことが大切となります。

3Xによる行動変容の未来へ

本連載コラムでは、3Xがもたらす人・社会への変化を、一人ひとりの行動変容の観点から読み解いていきます。これから30年、50年という長期的な未来を見据えつつ、これからの10年=半歩先の未来にて実現が期待される技術、それらの技術により実現する製品・サービスと、それらを用いることにより変化する私たちの生活、さらに、これから必要となる社会の仕組み、ビジネスチャンス……。これからの10年において、変革を起こすためのヒントとなるものです。

本連載コラムは、(1)健康シーンの変革、(2)生活シーンにおける変革、(3)CXを実現する基盤技術といったサブテーマから構成されます。

(1)と(2)では、各シーンにおける活用製品・サービスの具体像を提示し、これからの10年において3Xが社会にもたらす変化を描き出します。例えば健康シーンでは、健康増進、予防医療等に役立つ行動変容を実現するために必要となる技術・サービスを紹介し、その普及の鍵となる要素を示します。また、生活シーンでは、コロナ禍で大きく変わったわれわれの日々の生活、暮らしにおける行動変容を主題として、ライフスタイルの変革を実現する技術・サービスを示し、都市・地域における実装のためのアプローチを示します。

また、(3)では、3XのうちCXに着目し、xR技術に代表されるバーチャルテクノロジーがもたらす、コミュニケーション変革の姿を示します。コロナ禍ではテレワークによりオンラインコミュニケーションが急速に進み、「バーチャル渋谷」のように、仮想空間上にバーチャル都市を創る試みも各地で立ち上がりました。これらの取り組みは、コロナ禍の制約から生まれた「現実空間の代替」ですが、ポストコロナ社会においては、現実空間と相互に補完しながら人々の行動変容を促し、社会の変革、新産業を創出していくことが期待されます。そのために必要なプロセスを示します。

半歩先の未来を考えるきっかけとして、本連載コラムにご期待ください。