MRIの考えるレガシー

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けては、どのようなレガシーを生み出していくことが期待されるでしょうか。ここでは三菱総合研究所の考えるオリンピック・レガシーを紹介します。

MRIの視点

(1)レガシーの重要性

2020年大会の東京への招致決定後、明るい未来がもたらされることへの期待が多く語られるようになりました。例えば、経済波及効果(生産誘発額)については3兆円(東京都)や11兆円(三菱総合研究所)、29兆円(三菱 UFJ証券)などさまざまな試算が出されています。確かにオリンピックは世界最大のスポーツの祭典ですが、ここで留意したいのは、大会開催に伴う直接的な効果は限定的であるという点です。付加価値に換算した経済波及効果は、政府の成長戦略が掲げるGDP成長目標のごく一部に過ぎません。また観光についても、2020年までに外国人旅行者2,000万人/年が目標とされている中で、オリンピックによる効果は外国人観戦客として80万人程度(ロンドン大会の実績等から想定)であり、それも2020年に限った一時的なものです。
そこで求められるのがレガシーの視点です。オリンピックを大会運営そのものだけではなく、それを契機にどのような社会課題解決を創出するかという点に着目すると、取り組むべき領域の範囲は飛躍的に大きくなります。例えば、観光については、東京だけでなく、大会後も見据えながらいかに外国人旅行者を地方に誘導し、それを復興や地方再生につなげるかという視点で考えます。こうした発想が、オリンピックを単なる東京におけるスポーツ大会を超えた、オールジャパンが官民を超えて事業・施策を検討すべき機会と位置付けることになります。ここにレガシーに注目すべき理由があります。 
図 社会課題解決を加速させるオリンピック・レガシー
出典:三菱総合研究所作成

(2)夢のある成熟社会への転換を目指して

では2020年東京大会に向けて、わが国はどのようなレガシー創出を目指すべきでしょうか。まず前回東京大会の1964年と比較すると、戦後復興から高度経済成長へのギアチェンジをしていた当時とは異なり、経済成長の結果として量の充足から質の改善を求める成熟社会へと変化しています。この構造変化の中、目指すべきは人口・環境・資源・財政の制約のもと、多様な国民一人ひとりが能力を発揮し、質の高い生活ができる仕組みを備えた社会ではないでしょうか。同時にグローバル化のもと、ICT・科学技術を適切に活用することで、高齢社会や安全・安心の確保など「課題解決先進国」としての姿を世界に見せていくことも期待されます。
バブル経済崩壊後のわが国は「失われた20年」と言われてきました。社会の構造転換は容易ではありません。しかし、オリンピックにはスポーツを通じて、人々の気持ちを前向きにする力があります。2020年に向けては、この力を大いに活用して、一人ひとりが夢を持てる豊かな成熟社会の実現を加速させるレガシーの創出が望まれます。

(3)レガシー・プラン

夢のある豊かな成熟社会に向けて、オリンピックの特長を活かしやすいレガシー領域としては、安全・安心、観光、イノベーション、全員参加、健康、スポーツ・芸術の6つが有望と考えられます。三菱総合研究所は、こうした領域についてオリンピック・レガシー・プランを提唱してまいります(プラン詳細についてはMRIマンスリーレビュー4月号を参照してください)。レガシー創出に向けては、下図に示すようにビジョンを仮説的に掲げながら、能動的・意識的に具体化に向けて取り組んでいく必要があります。
図 オリンピック・レガシー・プラン体系(仮説)
出典:三菱総合研究所作成
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