ニュースリリース

内外経済の中長期展望 2017-2030年度

2017.7.12

三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長 森崎孝 東京都千代田区永田町二丁目10番3号)は、2017-2030年度の内外経済の中長期展望に関するレポートをまとめました。

要旨

総論:世界経済の底流となる5つのトレンド

世界経済の不確実性は一段と高まっている。先進国では、金融危機以降の低成長が社会構造に変化をもたらし、格差拡大や雇用喪失への不満から内向き化傾向が強まった。各国が直面する社会課題を放置すれば、中長期的に世界経済の成長鈍化が予想される。

希望は、課題解決の原動力となる「技術の変革」だ。世界は高齢化や地球温暖化など切実な課題に直面するが、新技術を起点に課題解決に結びつくイノベーションは次々生まれつつある。人口構造や技術、国際情勢の変化の先を読み、社会保障や雇用、規制などの「制度の変革」を実行することも国の持続的発展の条件となる。以上の観点から、2030年の世界経済を左右する5つのトレンドを挙げる。

トレンド1:イノベーション力を高められる国が長期停滞を回避

先進国では一部の国が長期停滞局面に陥ったとの見方があるが、中長期的には、技術と制度の変革を実現し、イノベーション力を高められる国が長期停滞を回避できると予想する。人工知能(AI)やロボティクスの高度化により、人間はより付加価値の高い仕事にシフトできる。新技術の社会実装で人々の課題を解決できれば「創造型需要」を掘り起こす。イノベーション力強化に向けた取り組み次第で、2030年の各国の経済力に大きな差が生まれる。


トレンド2:デジタル新技術がもたらすゲームチェンジ

技術の変革は世界の競争条件をも左右する。AIやロボットが製造やサービス提供の多くの過程に関わる世界が実現すれば、国や企業の競争力を決定付ける要素として、労働コストよりも技術力やインフラの質の重要性が増す。新市場開拓や生産性向上への新技術の活用、サイバーセキュリティーやブロックチェーンなど新時代のデジタルインフラへの対応、が競争力を左右する。


トレンド3:社会課題解決を通じた成長の実現

世界経済が抱える社会課題の大きさは、それを解決したいというニーズの大きさの裏返しであり、イノベーションが生まれる余地である。国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に必要な官民合わせた新規の投資額は、世界で約3兆ドルに上る。社会課題の解決は、新たなビジネスチャンスであると同時に、持続可能な社会を実現するために必要な投資である。


トレンド4:新興国の富裕層市場は日本の3倍に

新興国が持続的な成長を続けることができれば、新興国における富裕層向けの消費市場規模は、2014年の5兆ドルから2030年には12兆ドルまで拡大すると予想する。これは日本の消費市場の3倍に相当する。


トレンド5:保護主義から自由貿易主義への揺り戻し

世界経済の多極化が進む中、トランプ米大統領の誕生以前から、世界では通商政策において保護主義色は強まってきた。もっとも、歴史を振り返ると保護主義下では世界経済の成長が停滞する一方、貿易自由化が進んだ時期には世界経済は成長率を高めてきた。各国で自由貿易の重要性が再認識されれば、中長期的には再び自由貿易主義への揺り戻しが起きると予想する。 

海外経済:2030年までに米中GDP逆転の可能性

米国経済

トランプ政権の財政政策などにより、短期的には2%台前半の成長を見込む。中長期的には、高齢化が成長率の鈍化を招く一方、イノベーションを生む土壌の存在が下支えとなり、1%台後半の潜在成長率は維持するだろう。リスクには、①移民流入鈍化による労働力の質・量の低下、②「社会の分断」深刻化によるイノベーション力の低下、③政府債務拡大などがある。


ユーロ圏経済

2020年までは1%台前半の成長を見込むが、2020年以降は0%台後半の成長を予想。南欧諸国を中心とするバランスシート調整圧力や長引く不況による負の履歴効果、英国のEU離脱交渉に伴う不確実性などが下押し圧力となる。リスクには、①反EU勢力の台頭によるユーロ存続の危機、②難民の労働参加の遅延がある。


中国経済

2030年には3%台後半まで緩やかに成長減速を予想するが、1人当たりGDPは名目で2万ドルを超え、GDP規模では米国を上回り世界一の経済大国となるだろう。リスクは、住宅市場の調整や不良債権問題の深刻化、地方政府の財政問題などを契機とする経済の急失速である。 

日本経済の展望:経済再生に向けた5つのポイント

日本は人口減少や高齢化、社会保障や財政問題などの課題に直面する。現状の延長では、日本経済の潜在成長率は2030年度にかけて自然体で0%程度まで低下しよう。2030年に向けて日本が目指すべき未来像は、①社会課題解決と経済成長を両立している社会、②全ての人が自律的にキャリアを形成できる社会、③地域が自律的に発展できる社会、④人生100年時代を支える財政・社会保障制度の実現、⑤自由貿易の推進で世界の旗振り役となり世界から尊敬される国であり続けること、である。実行すべきアクションは以下の5点である。

Point1:イノベーションで社会課題を解決する

新技術を起点とするイノベーションで社会課題を解決する視点が欠かせない。課題解決や生活の質向上につながるイノベーションへの国民の期待は高く、消費者5千人に対し当社が実施した「未来のわくわくアンケート」によると、社会課題解決につながる商品・サービスに関する消費者向けの「潜在」市場規模は50兆円に上る。もはや財政を頼みにできない中、新技術の社会実装に向けた規制緩和や過剰な公的制度の改廃など、制度面での変革が一段と重要性を増す。


Point2:人材力を高めて社会で活かす

労働力人口が減少するなか、成長市場へ必要な人材が供給されるためには、新技術の思い切った活用で生産性を飛躍的に上昇させると同時に、既存市場から成長市場への労働力のシフトが必要となる。円滑な労働移動を実現するためには、①求められる仕事の質の変化に応じた社会人の自律的なスキルアップ、②労働移動に中立的な退職金制度の構築やマッチング強化、③職務能力が正当に評価される賃金体系への転換、の3つを同時に進めていくことが肝要だ。


Point3:自律した地域経済を構築する

自律した地域経済の構築には、農業や観光などを通じて地域外の需要を取り込むとともに、商業施設など都市機能を地域の中心部に、居住地を公共交通沿線上に、それぞれ政策的に誘導する「コンパクト・プラス・ネットワーク」の実現が鍵となる。インフラの適正な維持管理や行政サービスの効率化のみならず、生産性上昇や住民の生活の質向上にもつながる。


Point4:グローバル需要を多面的に取り込む

新興国の製造業の競争力が急速に高まる中、日本がグローバル需要を取り込み続けるにはサービス輸出の強化が必要だ。2030年にかけて、インバウンド需要の拡大や日本企業の海外展開加速による知的財産権使用料の受取増加が見込まれる。TPPを米国抜きでも早期に実現するなど、自由貿易推進の旗振り役として世界をリードすることが求められる。


Point5:未来に責任ある財政運営を行う

日本の政府債務残高は、2030年の長期金利が2%台前半の場合でも、対GDP比で現状の200%から2030年には250%近くまで拡大が見込まれる。財政の持続可能性を確保するためには歳出入両面の改革が必要だ。特に国の一般歳出の3分の1を占める社会保障費の抑制は急務である。団塊世代が75歳以上となり始める2022年までの社会保障制度の改革実行が求められる。

上記の5つの改革が実現した場合、2030年の成長率は、自然体での0%程度から1.5%程度へ上昇、実質GDPの水準では約90兆円(自然体比15%)増加する。成長の果実を「未来への投資」と「財政健全化」に振り向ける余力が生まれ、持続的な経済社会を実現できるだろう。 

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