世界経済の不確実性は一段と高まっている。先進国では、金融危機以降の低成長が社会構造に変化をもたらし、格差拡大や雇用喪失への不満から内向き化傾向が強まった。各国が直面する社会課題を放置すれば、中長期的に世界経済の成長鈍化が予想される。
希望は、課題解決の原動力となる「技術の変革」だ。世界は高齢化や地球温暖化など切実な課題に直面するが、新技術を起点に課題解決に結びつくイノベーションは次々生まれつつある。人口構造や技術、国際情勢の変化の先を読み、社会保障や雇用、規制などの「制度の変革」を実行することも国の持続的発展の条件となる。以上の観点から、2030年の世界経済を左右する5つのトレンドを挙げる。
トレンド1:イノベーション力を高められる国が長期停滞を回避
先進国では一部の国が長期停滞局面に陥ったとの見方があるが、中長期的には、技術と制度の変革を実現し、イノベーション力を高められる国が長期停滞を回避できると予想する。人工知能(AI)やロボティクスの高度化により、人間はより付加価値の高い仕事にシフトできる。新技術の社会実装で人々の課題を解決できれば「創造型需要」を掘り起こす。イノベーション力強化に向けた取り組み次第で、2030年の各国の経済力に大きな差が生まれる。
トレンド2:デジタル新技術がもたらすゲームチェンジ
技術の変革は世界の競争条件をも左右する。AIやロボットが製造やサービス提供の多くの過程に関わる世界が実現すれば、国や企業の競争力を決定付ける要素として、労働コストよりも技術力やインフラの質の重要性が増す。新市場開拓や生産性向上への新技術の活用、サイバーセキュリティーやブロックチェーンなど新時代のデジタルインフラへの対応、が競争力を左右する。
トレンド3:社会課題解決を通じた成長の実現
世界経済が抱える社会課題の大きさは、それを解決したいというニーズの大きさの裏返しであり、イノベーションが生まれる余地である。国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に必要な官民合わせた新規の投資額は、世界で約3兆ドルに上る。社会課題の解決は、新たなビジネスチャンスであると同時に、持続可能な社会を実現するために必要な投資である。
トレンド4:新興国の富裕層市場は日本の3倍に
新興国が持続的な成長を続けることができれば、新興国における富裕層向けの消費市場規模は、2014年の5兆ドルから2030年には12兆ドルまで拡大すると予想する。これは日本の消費市場の3倍に相当する。
トレンド5:保護主義から自由貿易主義への揺り戻し
世界経済の多極化が進む中、トランプ米大統領の誕生以前から、世界では通商政策において保護主義色は強まってきた。もっとも、歴史を振り返ると保護主義下では世界経済の成長が停滞する一方、貿易自由化が進んだ時期には世界経済は成長率を高めてきた。各国で自由貿易の重要性が再認識されれば、中長期的には再び自由貿易主義への揺り戻しが起きると予想する。