日本経済の潜在成長率は、人口減少や投資の伸び鈍化を背景に、2030年度にかけて0%近くまで低下。期待成長率の低下は、設備投資や研究開発、人材育成など「未来への投資」を一段と鈍らせ、更なる経済活力低下とともに国民の将来不安を増幅させるであろう。日本経済の潜在力を最大限に引き出し、持続可能かつ活力ある日本経済を実現するための改革のポイントは、以下の4つである。
Point1:時代の求めに応じた人材力の強化
人材は経済活力の源泉である。人工知能(AI)など新技術の台頭で、人間に求められる能力は大きく変容する中、労働力の「質」向上が重要になる。当社の調査によれば、若年層を中心に日本の労働者のスキル向上への意欲は高い。こうした意欲を最大限活かすためにも、硬直的な雇用市場・制度の改革や、教育・職業訓練の在り方を時代の変化に合わせ柔軟に見直していく必要がある。
Point2:デジタル新技術の最大活用で需給両面の底上げ
AIやモノのインターネット化(IoT)、ロボットなどデジタル新技術の普及・発展は、国民の生活や企業の生産活動に大きな変革をもたらす。当社が実施した「未来のわくわくアンケート」では、高機能住宅、ゲノム解析治療、災害予測など、現在はまだ実用化/普及していないサービスや製品に対する潜在需要がいかに大きいかが確認された。新技術は生活の質改善とともに社会課題の解決にもつながる。また、新技術の活用次第で、企業の生産性も飛躍的に上昇する可能性があり、需給両面で成長押上げが期待される。
Point3:アジアの中間/富裕層需要の多面的な取り込み
2030年にはアジア新興国に巨大な中間/富裕層の誕生が展望される。日本企業が中間/富裕層の潜在需要を掘り起こす製品・サービスを提供できれば、輸出、投資収益、インバウンドなど多面的な外需の取り込みにより日本の成長が加速。デジタル新技術の台頭により、労働コストよりも技術力が国際競争力を左右する時代になれば、生産拠点としての日本の地位も相対的に高まる。
Point4:2022年までの社会保障制度の集中改革
日本の社会保障制度は、超高齢化社会で制度疲労が顕現化している。特に団塊世代が75歳以上になる2022年以降は医療・介護費の一段の増大が予想され、過剰なサービス抑制や「自助」の範囲拡大に向けた制度改革は急務だ。同時に、情報通信技術(ICT)やロボットなどの技術の活用により、民間分野で健康寿命延伸や自立生活を支えるサービスを増やすことも重要である。高齢者の生活の質向上と社会保障制度の持続可能性を両立できれば、高齢者も若年者も含めた「全世代」の生活の安定につながり、前向きな支出や投資を増やすことができる。