エネルギー

グリーン成長を推進するサーキュラーエコノミー

main visual

資源枯渇の心配が少ない社会を目指して

三菱総合研究所では「サーキュラーエコノミー(Circular Economy:以下、CE)」に関する取り組みを進めていますが、そもそもCEとはなんでしょうか。

細田 円形、循環を示す「サーキュラー」という単語が示す通り、さまざまなモノや資源を循環利用しながら経済も回していこうという概念のことです。循環利用には、リサイクルのみならずシェアリングやリユース、修理してまた使うといった活動も含まれています。

それに対し、これまでの経済の流れは製造から廃棄まで一方通行の「リニアエコノミー」が主流で、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システムといえます。リニアエコノミーをそのまま続けていくと資源枯渇や品質低下、採掘や廃棄物に伴うさまざまな問題の深刻化につながるため、解決策として生まれたのがCEです。究極的には人間社会や地球上で完全に循環するのが理想の姿でしょうが、まずは目の前のモノや資源を効率的に使い、加えて植物由来の素材を開発したり、枯渇する可能性のある資源の替わりになる資源を使ったりすることで、資源枯渇の心配が少ない社会を目指そうとしています。
細田研究員

以前から存在する「3R(スリーアール)」の概念とは何が異なるのでしょうか?

古木 「3R」は、主に「ごみ」を対象とした活動をさしていますが、CEは、ごみだけでなく資源全体をみており、加えて、経済全体、社会の仕組みを循環型に変えていこうとする概念です。3Rに対しては、廃棄物に携わる人以外の関心は希薄でしたが、「エコノミー(=経済)」という単語がつくことで、経営者を含め、その対応が事業機会・事業リスクになるという意識が高まってきたように思います。
古木研究員
齋藤 「3R」は資源の有効利用や廃棄物の抑制を目指すものであり、資源有効利用促進法をはじめとするReduce(リデュース)・Reuse(リユース)・Recycle(リサイクル)を進めるための法規制の整備がなされているなど、「規制による資源循環」の意味合いが強いです。一方、CEは廃棄物だけでなく資源の消費自体の抑制も目指す「経済活動・ライフサイクル全体での資源循環施策」であり、それぞれが示す循環型社会のステージや達成手段が異なりますね。
新井 CEの考え方は日本でも理解が浸透しつつありますが、企業などが具体的にビジネスとして取り組む際には、何をどの程度まで実施すれば、社会的にもビジネスとしても適正なのかを検討する必要があるでしょう。そのためには、企業の取り組みがCEの考え方にどの程度合致しているかを評価することも重要だと思います。CEへの適合度(サーキュラリティ)の評価方法は多岐にわたりますが、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)による「循環移行指標(CTI)」などを参考にしながら、それぞれの会社・事業にフィットした指標設定が欠かせないと考えています。
図 CEの指標の基本的な考え方
CEの指標の基本的な考え方

CEに係る政策の進展とビジネスの拡大

CEに関する社会的な反応や、三菱総合研究所の取り組みについて教えてください。

細田 三菱総合研究所では、「3R」が中心だった時代から、リサイクル法の立ち上げや見直しといった資源循環の制度づくりの支援を手がけており、社会情勢やカーボンニュートラル(Carbon Neutrality:以下、CN)要請にフィットさせていく支援も引き続き実施中です。

例えば、「家電リサイクル法」は施行からすでに20年以上経っているにも関わらず、エアコンなど一部家電の回収率がそれほど高くない、もしくは行方がわからなくなっているという課題があります。これらがどこに、なぜそのようなルートに行ってしまうのか、制度に基づいてきちんとリサイクルされるためにはどうしたらよいかなどについて、国や関係する事業者とともに調査分析や対策の検討を進めています。

さらに最近は、欧州を中心に「再生材の利用義務」など各種CE強化策が図られていることから、日本の国内産業への影響もふまえた調査分析など、「新たな価値を生み出す経済活動」としてのCE実現に向けた制度・仕組みづくりの検討も支援しています。
戸上 民間企業のお客さまからは、以前は規制対応などの「守り」のご相談が多かったのですが、CE関連の新規事業などの「攻め」のご相談が増えてきました。また、サステナビリティ開示の観点では、気候変動に続き自然資本、人的資本などが注目されていますが、テーマの1つとしてCEを取り上げたいとのご相談もいただきはじめました。なぜ上流側の生産を含めたCEに取り組む必要があるか、CEと他テーマとのシナジーやトレードオフなどの検討・開示を支援しています。
戸上研究員

プラスチック分野でのCEは再生材とバイオマス化がカギ

新井 素材や技術という面では、三菱総合研究所でも再生プラスチック(以下、再生プラ)に焦点をあて、ステークホルダー間のマッチングに関する取り組みにチャレンジしているところです。ものづくりをする企業が再生プラの活用に本気で取り組む局面に入っています。ただ、再生プラと一言で言っても、さまざまな品質での需要が存在します。これまでは、こうした多様な需要に対する十分な供給が実現できていませんでした。そこで、需要側と供給側との間での需給マッチングが効率的に進むように、業界やあるいは業界を超えて再プラに関する品質情報の共有などを図っています。

そもそもCE分野は自社だけでは対応できず、他社との連携が不可欠です。三菱総合研究所がハブとなって、「競争領域」と「協調領域」を見極めながら、企業間や業界間の連携をいかに進めるかを一緒に考えることで、スムーズにいくことも少なくないと思っています。
図 プラスチック資源循環プラットフォームの構想と再生プラスチックマッチングのイメージ
プラスチック資源循環プラットフォームの構想と再生プラスチックマッチングのイメージ
舟橋 CE関連のテーマとして最近、バイオマス化に再び注目が集まっており、経営課題として取り組んでいる企業が増えています。というのも、どんなに高効率でリサイクルしても資源の目減りは避けられないからです。また、タイヤは使うと摩耗する、洗剤は排水とともに流すなど、そもそもリサイクルが難しい製品もあります。そこで、CNやCEにまつわる各課題に直面している企業の皆さまと、新たに投入するCN資源として「バイオマス素材」の活用意義を検討し、事業化を進めていくお手伝いをしているわけです。

バイオマス化の難しさのひとつに、サプライチェーンや加工方法が大きく変わることがあります。どこでどのバイオマス資源を確保するのか、どこで何に加工するのか、最終的にはどのようにして使うのか。こうした検討を1つずつ積み上げていく必要があるのです。三菱総合研究所にはバイオマスや化学の専門家が多数在籍するため、技術課題を含めて伴走できるのが強みです。
舟橋研究員

CE実現を目指すことのメリットとは

CEは企業にとってコストアップになることは否めませんが、どのようなメリットがあるのでしょうか?

細田 メーカーからすると、従前の製造方法を変えるためのコストや、化石資源を使わないことによる収入減少が気になるのは当然です。資源節約や安定供給以上に大きなメリットは、「SDGsをはじめ、世の中の流れや価値観の変化を先取りすることで先行者利益を得られる可能性」だと考えています。

今、リサイクル原料を使ったペットボトルが当たり前に普及していますが、日本では利用を義務付ける法規制があるわけではなく、先進的な企業と消費者がそうした潮流をつくり出しているのが良い例です。資源の目減りが避けられない以上、将来的には素材の取り合いとなるため、循環のルート構築や素材の品質を上げられる技術開発を先行した方が業界をリードできると考えられます。これは大企業に限った話ではなく、中小企業でもCE実現が新たな商機になると考え、臨機応変に小回りを効かせて取り組んでいる例も多々あります。
舟橋 在学時、私の専門は環境に優しい材料の研究でした。入社当時は技術革新と言えば工学のテーマが多かったのですが、CEが潮流となる中、環境分野の知見・価値観が本当の意味で受け入れられるようになったことに隔世の感があります。今後、局所的には寄り戻しが見られるかもしれません。しかし全体の流れとしては、技術革新や価値観の変化により、CE実現に向けて世の中は大きく変わると確信しています。

技術開発は重要ですが、経営課題として取り組む上でコストの観点は必要不可欠です。三菱総合研究所には各分野の理論や技術、そして経済や財務を深く理解しているメンバーが多数揃っており、新技術がもたらす将来像の可視化を企業の皆さまと一緒に進めています。分野特有の視点や考え方、共通言語を知っているからこそ、技術と経営の橋渡しができると自負しています。
対談の様子
齋藤 CN×CEの融合策は、トータルコスト削減につながります。当社が2024年6月にリリースした研究・提言レポートでは、エネルギー関連技術を積み上げて構築したエネルギー需給モデル(TIMES)を用いて、2050年GHG削減目標(2013年度比の削減割合[%])とGHG限界削減費用[万円/tCO2]の関係性が分析されています。

その結果、CNに向けた取り組みを単独で推進するシナリオでは、「GHG限界削減費用=約10万円/tCO2」ですが、CNに加えCE関連の取り組みも進むと想定したシナリオでは、「GHG限界削減費用=約5万円/tCO2」と試算されています。CO2削減技術であるDACよりも、GHGを削減するための費用対効果が大きいCEを促進することにより、DAC依存度が低くなるため、CEを融合させ一体的に施策を展開するほうが、GHG限界削減費用を抑えられることが示唆されたのです。

その一方、現状CN×CEの融合が進んでいない理由としては、製品製造〜廃棄・リサイクルに至るライフサイクル工程の処理を担う各主体が、自社の事業コストを最小化するための個別最適を取ってしまうことが一因だと思われ、三菱総合研究所では各社の視座を「個別最適」から「全体最適」へと引き上げることを提言しています。

※:2050年GHG削減目標を2013年度比100%削減とした場合。

2050年温室効果ガス(GHG)削減目標と限界削減費用
古木 これまでは、企業のCE担当者が経営層に提言しても「今はCNの方が大事」と言われることが多かったのですが、CNに向けたトータルコストの削減効果を訴えることでそれぞれが別物ではなく、両方とも大事であることがご理解いただきやすくなったのではないでしょうか。

CE実現に向けた私たちの想い

舟橋 リニアな大量生産・消費・廃棄型から、サーキュラー型に社会が転換することで、企業や消費者の価値観が変わり、新たなビジネス創出につながります。CEの取り組みは「将来的な社会変化を見据えて、企業価値を高める投資」と捉えていただきたいですね。
古木 日本はエネルギー資源の約9割、鉱物資源はほぼ全てを輸入に頼っています。枯渇だけでなく社会情勢で資源が手に入らなくなる可能性がある中、CEは日本全体で取り組まなければいけない社会課題であることは間違いありません。
齋藤 三菱総合研究所では、プラスチックの2050年のマテリアルフローを試算したところ、見通すことのできる未来像では依然として約500万tの化石資源由来のプラスチックが必要という結果になりました。これを確保できる保証はないので、より一層、バイオマスの活用や、CE移行を進めていく必要があるのです。
齋藤研究員
細田 個人的には、CEを環境負荷低減の手段としてだけではなく、「消費者へ新たな価値を提供するための手段」にしたいと考えています。日本は世界でもまれに見るほど多様な産業が立地しており、資源に乏しくても価値を生み出す技術は発展しています。循環しながら新たな価値を生み出すところにはワクワク感もありますし、国や地域の経済活性化にもつながるはずです。
戸上 Z世代をはじめ若年層は、気候変動のみならず、プラスチック問題や食品ロスといったCEを含むサステナビリティに高い関心を持っています。ですから企業が積極的にCEに取り組む姿勢を見せることで、新卒採用にも良い影響があると考えています。
新井 過渡的には痛みを伴うかもしれませんが、業界や個人を横断し、変革に向けた橋渡しや提案をできるのは三菱総合研究所ならではだと考えます。「気付いたらCEが当たり前になっていた」となるように、無理なく社会変容を進めていく主体の1つになれればと願っています。
新井研究員

PROFILEプロフィール

メンバー

  • 政策・経済センター VCP政策研究グループ
    兼 エネルギー・サステナビリティ事業本部 環境イノベーショングループ
    資源循環、循環経済への移行を主なテーマとして、社会課題解決に資する研究提言活動を担当。この活動を通じて、持続可能な社会の実現に貢献したいと考えている。
  • エネルギー・サステナビリティ事業本部
    環境イノベーショングループ
    循環経済(Circular Economy)分野の調査分析・コンサルティングを担当。国、企業の戦略立案や事業化を支援し、プラスチック資源循環確立に向けたソリューション開発に取り組む。また、企業のサステナビリティ経営実現に向けたコンサルティングにも携わっている。
  • エネルギー・サステナビリティ事業本部
    環境イノベーショングループ
    サステナビリティ経営や気候変動対策・政策、資源循環など、環境・サステナビリティ分野を幅広く支援。近年は環境変化が大きく、スピード感のある検討が求められるが、お客さまにとって真に必要なことは何か、対話の中で共に検討を形作ることを心掛けている。
  • エネルギー・サステナビリティ事業本部 環境イノベーショングループ
    兼 政策・経済センター VCP政策研究グループ
    資源循環分野を中心に、官公庁向けの政策制度設計支援や技術調査などに従事。民間のお客さま向けに、リサイクルやサーキュラーエコノミーに関する事業開発の支援も行っている。
  • ビジネスコンサルティング本部 新事業・技術戦略コンサルティンググループ
    兼 政策・経済センター VCP政策研究グループ
    企業の競争力の源泉である「技術の強み」にも焦点をあて、事業戦略の策定を支援。先端技術に関する豊富な知見と深い情熱・コミットメントで、実現したくなるソリューションを創り上げている。
  • エネルギー・サステナビリティ事業本部 環境イノベーショングループ
    兼 政策・経済センター VCP政策研究グループ
    主に資源循環分野において、官公庁・民間企業のお客さまに対する国内外の政策動向調査・研究、制度設計などの支援を担当。お客さまとともに議論・検討を深め、ニーズ・課題に沿った解決策を提供できるよう努めている。

所属・役職は当時のものです

CONTACT US

取材のお申し込み、寄稿や講演の依頼などにつきましても
フォームよりお問い合わせください。