DX

デジタル公共インフラ整備で拓くデジタル社会とその未来

main visual

最小限のコストで最大の効果を生む、「小さくて大きな政府」が求められる

写真1
川端 現在、日本では、人口減少、少子高齢化、労働生産性の低さも相まって、将来的にも同じレベルで行政サービスを提供・維持することはもはや困難な状況に陥っています。

社会価値や個人の価値観も個別化・多様化している中で、政府や自治体など、行政のみで社会課題を解決することは以前にも増して難しく、国民や企業に任せるところは任せていく必要があります。

一人ひとりが自ら取り組む「自助」・地域や身近にいる人同士が一緒に取り組む「共助」・国や自治体などが取り組む「公助」、これらのバランスを最適化し、社会システムの構造を変革していくべきであると考えます。
井上 社会システムの構造を変革するには大きな課題があります。それは、行政と国民や企業との間に「情報の非対称性」を生み出す壁が存在するということです。その大きな理由として、現状の社会システムは行政が主導であり、行政が保有するデータに基づき一方向で行政サービスが提供されていることが挙げられます。
現状のデジタル社会における課題
現状のデジタル社会における課題
三菱総合研究所作成

目指すべきは、行政・企業・国民が対等にサービスを提供・享受できる社会

川端 これからは最小限のコストで最大限のニーズに応える「小さくて大きな政府」が求められます。目指すべきは、行政・企業・国民が保有するデータの相互理解を深め、情報の非対称性を解消することで三者が対等にサービスを提供・享受できる社会であり、実現するために必要となるのが、「デジタル公共インフラ(DPI:Digital Public Infrastructure)」であると考えています。

DPIはデータやサービスを行政、国民、企業の間をタテ・ヨコ・ナナメにつなぎ、おのおのが持つ情報の相互運用性を高め、三者の関係性をアップデートする基盤の役割を担います。例えば、就職や結婚、出産・育児、住宅購入など一人ひとりのライフイベントに応じたプッシュ型通知がスマートフォンに届き、DPIによりバックヤード連携されたデータがプレビュー表示された申請書を確認、画面上のボタンを一度押すだけで行政手続きが完了するといったことも今後可能になるのです。
井上 DPIを基盤として、近年成長が著しいAIやBDA(Big Data Analytics:ビッグデータ分析)などのデジタルテクノロジーを活用することで、社会システムを維持するための人的リソースを補完し、データの相互理解を促進することが可能になります。つまり、DPIにより公助だけではなく、自助や共助の動きを加速化させ、最適化につなげられるものと私たちは考えています。

「個別化・多様化したニーズに応える」「最小限のコストで最大限のニーズに応える」ことこそ、まさにデジタルテクノロジーの得意分野です。
目指すべきデジタル社会の姿
目指すべきデジタル社会の姿
三菱総合研究所作成

DPI整備はデジタル社会の実現に向けた第一歩

櫻井 2021年に「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」が施行され、自治体基幹系業務20業務を対象に、標準準拠システムへの移行が定められました。これにより、法改正対応に伴う人的、財政的な負担が軽減され、自治体職員は住民への直接的なサービス提供などに注力できることが期待されています。

ただし、この標準化対応や努力目標として定められたガバメントクラウド※1の利用については、技術的な課題のみならず、2025年度末の期限に向けた移行スケジュールやリソース、コストといった膨大な課題を自治体が抱えている状況です。
狩野 課題は山積状態ですが、標準化やガバメントクラウドへの移行はゴールではなくあくまで通過点です。データや連携仕様が標準化されることで、社会全体においてデータの相互流通が可能になり、企業や国民などユーザー中心のサービスが提供できます。

その基盤となるのが、公共サービスメッシュ※2やガバメントソリューションサービス(GSS)※3、ベース・レジストリ※4など、国が整備を進めるDPIなのです。

ここ数年、DPIの整備については各国のデジタル戦略の中で言及されるようになってきており、日本の重点計画でも重要施策の一つとなっています。

※1:政府共通のクラウドサービス利用環境

※2:「自治体内の情報活用」「行政機関間の情報連携」の枠組みで構成、行政が持つデータの活用・連携を迅速にするための情報連携基盤

※3:政府共通の標準的な業務実施環境(業務用PCやネットワーク環境)を提供する共通基盤

※4:住所・所在地、法人名など、制度横断的に多数の手続きで参照されるデータベース

写真2
狩野 デジタル公共インフラの普及に積極的なインドや英国などにおいて、DPIは行政と企業、国民との距離を縮める役割を担い、国民生活に欠かせないインフラとなっています。DPIにより、デジタル3原則(デジタルファースト※5、ワンスオンリー※6、コネクテッド・ワンストップ※7)の実現はもとより、目指すべきデジタル社会を実現するための第一歩となるものと考えています。

※5:個々の手続きやサービスを国民が最初から最後まで一貫してデジタルで完結する仕組み

※6:一度提出した情報を二度提出することを不要とする仕組み

※7:民間サービスを含め、複数の手続き・サービスをワンストップで実現する仕組み

社会システム全体を俯瞰し、具体の解決策を提案できることがMRIの強み

川端 繰り返しとなりますが、目指すべきは、行政・企業・国民が保有するデータの相互理解を深め、情報の非対称性を解消することで、三者が対等にサービスを提供・享受できる社会でありそれを実現するために必要となる基盤がDPIです。

日本が置かれた状況は困難を極めていますが、DPIの整備により、情報の非対称性を解消し、目指すべきデジタル社会の実現に向けた第一歩となることに強く期待しています。

当社は従前よりデジタル・ガバメント事業を推進しており、情報提供ネットワークシステム※8や公共サービスメッシュ、ガバメントクラウド等、DPIのベースとなる政府IT基盤における豊富な知見を有しています。その知見を活かし、社会全体を俯瞰したうえで、全体最適に資する具体の解決策を提案できることが大きな強みです。

今後はこのテーマを掘り下げ、行政・企業・国民それぞれの視点における連載コラムを発信予定です。当社の活動が目指すべきデジタル社会実現への一助となれば幸いです。

※8:行政機関同士が安全に情報連携できる専用のネットワークシステム

PROFILEプロフィール

メンバー

  • 川端 洋平
    川端 洋平
    公共コンサルティング本部 行政DX戦略グループ 
    主席研究員/グループリーダー
    中央省庁や地方公共団体等向けのコンサルティング業務全般、デジタル・ガバメント事業推進に従事。情報システム整備や刷新係る調査・計画策定、要件定義、調達支援、工程管理まで一気通貫での支援が可能。
  • 公共コンサルティング本部 行政DX戦略グループ 主任研究員
    政府情報システムについてのコンサルティング業務全般を担当。政府統計をはじめとした行政データの利活用分野が強み。DXのような大きな変革から小さな業務・システム改善まで幅広く手がける。
  • 櫻井 陽士
    櫻井 陽士
    公共コンサルティング本部 地域共創DX推進グループ 主任研究員
    中央省庁や地方公共団体等の政策に係るコンサルティングに従事。マイナンバー制度分野に関連する政府情報システムの要件定義、調達支援、工程管理等を中心に活動。
  • 狩野 芳樹
    狩野 芳樹
    公共コンサルティング本部 行政DX戦略グループ 研究員
    中央省庁の情報システムに係る調査研究、要件定義、調達支援、工程管理に従事。アンケート調査や規約の検討などシステムに関わる周辺分野にも取り組む。

CONTACT US

取材のお申し込み、寄稿や講演の依頼などにつきましても
フォームよりお問い合わせください。