DX

DX実現に向けたリスタート 企業調査から見えた課題と戦略

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コロナ禍を経ても、DXに至る企業は3割未満

MRIでは日本企業のDXの現状を把握するため、独自に「DX推進状況調査」を実施しました。調査結果からは、多くの気付きがありました。

美馬 デジタル化は大きな社会課題のひとつです。企業の競争力強化のためには、デジタル技術を活用した顧客提供価値の向上やビジネスモデルの変革、業務プロセス改革による生産性の向上が欠かせません。私たちの部署ではこのデジタル化の支援を担当していますが、支援するにも海外と比べ日本はどの程度遅れているのか、日本企業全体の状況を把握しなければいけないと考え、2021年12月にこの調査を実施しました。それ以前も部分的な調査はしたことがありましたが、ここまで大規模に調査したのは初めての試みになります。
杉江 市場全体を大きく捉えるために、売上高100億円以上の全国の企業でDXに取り組む担当者1,000名を対象とし、お客さまの関心領域の特定や、課題・解決策のニーズについて調査しました。お客さまが直面している課題やニーズが浮き彫りになったと思います。
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局地的な情報ではなく、全体像を掴まなければ適切な支援が難しいですよね。

美馬 まずは現状を俯瞰して把握し、課題はもちろん、うまくいっている企業があればその理由を理解することで、他のお客さまの支援につなげられます。

デジタル化の3段階に関する進捗状況も把握できましたね。調査対象の企業は、どの段階に位置していると評価していますか?

櫻井 デジタル化には、データ化・オンライン化を進める「デジタイゼーション」、デジタル化により業務改善が進む「デジタライゼーション」、そしてビジネスモデルそのものに変革をもたらす「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の3ステップがあります。

調査結果からは、「デジタライゼーション」の段階が42%と最も多く、「デジタルトランスフォーメーション」に至っている企業は30%未満にとどまっていることが明らかになりました。また、「デジタイゼーション」にとどまる企業(24%)およびデジタル化に取り組んでいない企業(6%)の計30%においてデジタル化があまり進んでいないことが確認できます。
デジタル化の3段階とデジタル化の進展度
出所:三菱総合研究所

ビジネスの本質を変革するDXを推進するには

デジタル活用で業務効率化が達成できれば、DXに成功したと思われることも少なくありませんが、元々のビジネスモデルはそのままに、業務の進め方などを改善するのは「デジタライゼーション」です。
本来のDXとは、既存業務の改善でとどまるのではなく、ビジネスモデルの変革によって、新しい価値の創出を行うことです。コロナ禍をきっかけに、デジタル化はかなり進んだように思いますが、多くの企業がまだDXには到達していませんね。

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杉江 企業においてもっとDXが進んでいるのではと最初は期待していました。ただ、この結果は支援業務の中で感じる肌感に合致しています。というのも、MRIが2022年7月に実施した1Dayイベント、「【MRI DX DAY】DXリスタート」にお申し込みいただいた約800名の方にもアンケートに回答いただいたところ、ほぼ同様の傾向となっていたのです。DXに対してはどの企業もみな「取り組んでいる」と回答している反面、3割しかDXを実現していないという結果を鑑みるに、MRIとしてもシビアに市場を捉えていく必要があります。

デジタライゼーションまでのステップは、既存の業務の改善なので、ある程度効果は出しやすい。しかしDXとなると、既存ビジネスそのものを変革しないといけませんし、新たなチャレンジはなかなか難しいものです。
美馬 9割以上の企業がデジタル化に取り組んでいる中、成果が限定的である理由を紐解き、成功事例から学ぶ。こうした分析を踏まえて、DX実現に向けた「リスタート」が必要であると感じました。それでMRI DX DAYでも「リスタート」をコンセプトに据えました。

DXはビジネスの変革を目指しているものであり、新たなシステムを入れるIT戦略やソリューション(デジタイゼーション)とはまったく異なります。ビジネスモデルに根本的に影響する取り組みだからこそ、成功すると効果が大きいですよね。調査では、DXの進捗状況について業種別や企業規模別の特徴も見られました。

櫻井 業種別にみると、「情報通信業」や「金融、保険業」の進展度が高い結果となりました。業種全体ではDXの段階に至る企業の割合が28%であるのに対して、「情報通信業」では41%、「金融、保険業」では35%となっています。「情報通信業」はデジタルを生業としていますし、「金融、保険業」でもネットバンキングや金融EDIが注目を集めていることから、DX推進が求められている業種です。

一方、「不動産、物品賃貸業」は、調査対象の全8業種中最もデジタル化の進展度が低い結果となりました。デジタル改革関連法案の成立によって、2022年5月からは不動産関連における一部契約書の電子化が可能となり、「デジタライゼーション」が進む可能性は大いにあります。

また、企業規模別に見ると規模の大きい企業において、よりデジタル化が進んでいることも確認できました。売上高5,000億円以上(1兆円以上を含む)の企業では35%がデジタルトランスフォーメーションの段階と回答しているのに対し、売上高100~500億円の企業では、約半分の18%となっています。既存ビジネスを変えるには企業体力が必要であり、未来投資ができる企業規模の方がDXを進めやすいと推察されます。今後は小規模の企業を巻き込んでDX推進を支援していく必要があるでしょう。
業種別のデジタル化の進展度のグラフ
出所:三菱総合研究所

「ビジョン・戦略の策定」のないデジタル化は、迷走を招く

DXを進められない企業では、どのような課題を抱えているのでしょうか?

櫻井 今回の調査では、デジタル化に取り組んでいる企業と取り組んでいない企業に分けて各社のDX推進上の課題を調査しました。その結果、いずれの企業からも、「ビジョンや中長期的な戦略の策定」が最大の課題として挙がっており、DXに関するビジョンを適切に策定することが不可欠と考えられます。

また、「DXを推進する人材の育成・獲得」に悩んでいる企業も少なくありませんでした。データそのものを扱える人材はもちろん、データとビジネスを結びつけられる人材がDXには不可欠です。規模の小さな企業ほど、データとビジネスを結びつける人材が不足していました。それに対し、規模の大きい企業ではデータ自体を扱える人が不足している傾向が見られました。人材不足の課題に対しては、外から招致するだけではなく「内部の人材を育てる」ことも解決策として提案し、どのように育成していけば良いかの計画策定をお手伝いすることもあります。
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日本のDX推進の現状などを踏まえたうえで見えてくる、本質的な課題はどのようなものでしょうか。

美馬 1点目は、DXビジョンに基づく「目的志向でのDX推進」が途上であることです。先ほど、企業は「ビジョンや中長期的な戦略の策定」を課題に感じているとの話がありましたが、これが本質的な部分を表しています。目的があいまいなまま、デジタル化しやすい部分から取り入れ、取りあえずDX推進組織を立ち上げるといった進め方をした結果、デジタル化の優先順位が明確でないためにどれも進まない、もしくは一部の組織だけが取り組んでいるというような状況が散見されます。また、DX推進組織と事業部門がなかなか噛み合わないという例も少なからずあります。

2点目は、データ活用が社内に根付いていないことです。ビッグデータを分析に活用する会社は増加傾向ではあるものの、まだまだ少ないのが現状。事業判断をデータで行うのが当たり前という企業は少数派です。しかし「DX推進調査」では、ビジョンの進展度が高いほど、またデータ駆動経営が根付いているほど、コロナ禍の業績が良いという結果が出ています。これはすなわち、データで事業判断を行うデータ駆動経営であればコロナ禍やリーマンショックのように、誰もが予想できないような大きな出来事が発生しても、素早く対応できるということを示しています。過去のデータが役に立たない状況下でも、新たなデータを蓄積し、分析することで、これまでとは違う対応策や意志決定がスピーディーに実現します。

企業規模が大きくなるほど、安定的に精度の高い意志決定が重要になってきます。

美馬 テクノロジーの進化により、さまざまなモノやコトを対象に膨大な量のデータを迅速に取得できるようになりました。事業活動において現場の勘に頼っている部分は、こうしたデータを活用し、意志決定に結びつける取り組みが急務です。同時に、そのための人もデータも不足していることが大きな課題となっています。

日本企業の中でも、3割弱はDXに成功しているようですが、その成功要因とはなんでしょうか。

櫻井 デジタル化はただやみくもに進めれば良いというものではありません。調査結果からは、「DXビジョンの策定状況」と「データ活用の進展度」の2つの軸において、「コロナ禍の業績」との相関が確認できています。「ビジョンや実施計画を策定しており計画通り実行している」企業の40%が業績を向上させているのに対し、「立案する予定はない」企業で業績が向上したのは9%にとどまっています。また、同様の相関が、「データ活用の進展度」と「コロナ禍の業績」の間にも確認されています。

これらの結果から、「DXに関するビジョンを適切に策定すること」、そして「データ活用を積極的に進めること」の2点が成功要因と考えられます。一方で、「デジタル化の進展度」と「コロナ禍の業績」の間には相関が見られませんでした。これは、デジタル化するだけでは業績に貢献せず、いかに活用するかが問われていると解釈することができます。自社に合ったデータを活用し適切な判断を行えるようにすることが重要です。
ビジョン進展度別のコロナ禍の業績とデータ活用進展度別のコロナ禍の業績のグラフ
出所:三菱総合研究所

策定から実装・実行まで、一気通貫での支援を目指すMRIグループ

DX推進、そしてその本質的な課題を解決するための、MRIグループならではのアプローチや支援策はどのようなものでしょうか。

杉江 MRIグループでは、「中期経営計画2023」において、DX事業を成長事業に位置づけ、既存のコンサルティング事業だけではなく、実装領域までをグループ会社と連携してサポートする体制を構築しています。まさに、戦略立案から実装まで一貫してご支援する体制です。また、DX事業の中でも「データ駆動経営」と「DXジャーニー®」の2つを重点領域に設定し、お客さまのDX実現に向けた支援を行っています。シンクタンクとして長年培った、さまざまな分野の政策や業界に関する知見、ファクトやデータの分析、俯瞰的な視点による支援といったアプローチは、当社ならではの特徴です。
美馬 データ駆動経営を推進する障壁として、「適切なデータがない」「DX人材不足」「効果実感が薄い」といった課題が挙げられます。

確かに、例えば製造業などで、自社で販売は手がけていないため顧客データがなく、意図した分析が十分にできないといった状況はよく見られます。そのため、外部のデータホルダーと提携し、お客さまがお持ちのデータと組み合わせながら、お客さまに必要なデータの特定・整備から活用までを支援しています。

デジタル人材の不足という課題に対しては、MRIグループ会社と連携し、トータルな伴走支援の一環として、お客さまの社内の人材育成をお手伝いしています。

「効果実感が薄い」という課題にはどのようなアプローチを図っていますか?

美馬 調査では、ビジョン・実施計画を策定しても十分に実施できていない企業が約半数を占めるという結果が確認されています。MRIグループでは、企画を立ててお任せするだけではなく、結果が出るところまでを支援し、お客さまと一緒にPDCAを回すようにしています。例えば、お客さまの移動・購買データの分析結果を店舗(現場)で実際に活用できるようにするには、業務プロセスの見直しも欠かせません。さまざまなタイミングで今一度最終的なゴール、ひいてはそれに向けた中間目標を見直し、ステップバイステップでDXの歩みを進めるご支援をしたいと考えています。
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チャレンジングなテーマではありますが、お客さまと一緒に新規事業を創出し、その伴走者としてMRIがあれば良いと思います。MRIグループは提言するだけでなく、お客さまとともに主体的な役割を担い、事業活動を共創したいですね。

美馬 はい、そのためにも今手がけている支援や分析をより深めていきたいです。DXは部門によって進展度が異なりますし、デジタル化に抵抗感のある方も少なくありません。営業部門もその一例で、営業活動が高度化すれば業績に反映しやすいはずなのに、業務がデジタル化することに意義を感じない方もいらっしゃいます。そんな方をいかに巻き込み、納得できるDX推進策にしていくためには、私たちが今行っていることの深度を増し、成功事例を積み重ねていくことが必要です。
櫻井 データ駆動経営を推進する障壁についても、お客さまの直面する課題やニーズに寄り添いながら突破するためのご支援を進めていきます。お客さまと共に成果を積み重ねることが、真の推進力になります。
杉江 MRIグループがDXを支援していることが、まだまだ認知されていないと感じています。「DX支援と言えば、MRIグループ」ともっと想起していただきたいですし、そのための情報発信を強化していきます。今回の調査結果を元に策定した「DXリスタート」というコンセプトを用い、これからもメディアミックスでの情報発信に取り組んでいきたいと思います。MRIグループは、お客さまのリスタートとその後の戦略的な取り組みをしっかりとご支援します。

「MRIは地に足のついた支援をしてくれるね」とお客さまに言っていただくことは多いですね。MRIグループの強みを生かして、法規制に関わる提言など、業界単位で変革を促していくことにも取り組んでいきたいです。

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PROFILEプロフィール

インタビューアー

  • DX技術本部 本部長
    コンサルタントとして、マーケティング分野を中心にデータ・AI活用戦略策定や実行支援をしています。またマネージャーとしてメンバーと共に、ビッグデータ解析・AI活用によるお客さま及びMRI自身のデジタルトランスフォーメーションを推進しています。

インタビューイー

  • DX技術本部 デジタルコンサルティンググループ
    デジタルマーケティングや新規事業開発支援など、データ活用を通じた民間企業のご支援をしています。最近は特に、営業DX(営業部門や顧客接点のDX)にも力を入れています。
  • 櫻井 元貴
    櫻井 元貴
    DX技術本部 デジタルコンサルティンググループ
    BDA・AI等を用いて、主に民間企業のDX技術活用コンサル業務をご支援しています。最近はオルタナティブデータに携わる機会が多く、データ自体の分析からデータ活用の概観まで幅広い形で関与しています。
  • デジタル・トランスフォーメーション部門 統括室 協業推進グループ
    DX事業の事業企画業務に従事し、マーケティング戦略策定・推進を担当。2021年からは三菱総研DCSの関連社員との相互兼務からなるMD一体マーケティング組織を運営し、DX事業の認知度向上や顧客拡大に取り組んでいます。

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