DX

経営課題に向き合い事業の変革を導く「DXジャーニー®」とは

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※「DXジャーニー®」は株式会社三菱総合研究所の登録商標です。

DX推進には、企業変革の姿を描いて共有することが必要

本日は中西さんにはオンライン参加いただきながら、これまでMRIが関わってきたDXコンサルティング、とりわけ「DXジャーニー」 について紐解いていこうと思います。藤田さん、中西さんともに数多くの企業経営者やDX推進責任者の方とDX実現に向けた議論を重ねてきました。その中で見えてきた事柄や企業課題を教えてください。

藤田 DXでご相談を受ける企業には、「これを機に会社全体を変えていこう」という志を感じるケースが多くあります。経営上のさまざまな課題に遭遇してDXの必然性を認識され、ただしそれは短期間で解決できる問題ではなく人の考え方や行動まで変えていく必要があることに気づかれています。そこで森さんや中西さんと「DXの本質とは何か」「経営者視点でDXを大きく進めるにはどうしたらいいか」について議論を重ね、「ジャーニー」すなわち航海のように捉えることがDXには必要だという考えに至りました。これまでデジタルという言葉はITを指すものでしたが、DXがITの延長線にあるように考えることは改めるべきです。
中西 その点は、経営者側から見てすごく難しい部分で、経営者の目線で本当に目指したい水準のDXを実現するには少なくとも3~5年かかると思います。今、DXに着手している企業であっても直ちに事業変革には至らない。時間軸に沿って戦略性のある取り組みが必要なのです。将来的にはDXがうまくいかない企業は淘汰される可能性すらあると考えます。

近年DX部署を新設し、企業経営者やCTO(最高技術責任者)・CDO(最高デジタル責任者)がDXにコミットするなど、DX実現に向けた企業の動きは加速しつつあると感じています。
しかしDX戦略の先にある実行まではなかなか落とし込めていない。この点を突破するため、「DXジャーニー」をどう適用していけば良いのか、そもそもわれわれが提唱する「DXジャーニー」とは何か? について詳しくお聞かせください。

藤田 ジャーニーという言葉には旅行、巡り移り変わっていくという意味があります。DXジャーニーは、デジタルを事業発展の道のりやストーリーの中に位置づけ、変革のエンジンの1つとして活用する考え方です。雷に打たれるようにDXが成ることはありません。「顧客や社会に届けられる価値は何か」「どういうビジネスモデルなのか」「システムを刷新するにはどうしたら良いのか」「人材が成長するにはどうしたら良いのか」といったそれぞれのテーマが時間軸の中で整合性を保ちながら変わっていく絵姿を持つことです。

それぞれの事業の責任者が自分の言葉で変化の絵姿を語れるようになると、DXは自走して加速します。単に企業のトップが旗を振るだけでなく、DX推進にコミットできる組織・人をつくる必要があります。
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DXを推進する上で、社内のあらゆる層の視座を上げ、現場も経営感覚を持つことが必要

DXはデジタル技術を導入すれば即解決というわけではなく、本格的に社内の仕組みや組織を変えようとすると現場が混乱してしまう例が散見されます。経営層が実行しようとしても、何から手を付ければ良いのかの判断も難しい。その根底には、会社のそれぞれの立場によって見える景色が違う、すなわち視座の差があると思います。

藤田 私たちは、顧客接点や現場にありながらその範囲を超える視座や問題意識を持てる人が減っていることを危惧しています。そういった人材やチームを育成するという要素もDXには欠かせないと考えています。

経営戦略と結びつけてDX戦略を考え抜くという私たちのアプローチは安易な方法ではありません。それに真正面に取り組んでいることに驚かれることもあります。会社や事業全体の課題を経営者のように理解しながら現場で具体的な活動を牽引している人の感覚も併せ持って、両者が一貫するように引っ張っていくのは簡単ではありません。ただしこれに取り組み始めると、DXプロジェクトに関係される方々の視座は経営者の目線にまで見る見る高まるようになります。

リーダー層の視座を上げていくことも、DXをサポートする上で大切な仕事の1つということですね。情報システム(以下、情シス)部署のリーダーやCDOといった方々をも含めて、企業のリーダー層が全社視点を持つような意識改革支援が欠かせない。これは次世代リーダーの育成にもつながります。

中西 ビジョンやコンセプトの共有がないところに先進的なデジタルツールを紹介しても、問題意識が不明瞭で何を解決したら良いのかわからないまま行き詰ります。ツールを導入しただけで停滞し、業務効率化であるデジタライゼーションさえ達成できないという課題を抱えている企業は多いようです。デジタルツールを導入すれば良いという時代はもう終わっていて、経営層も「それだけではダメだ、だまされないぞ」という気概を持っていらっしゃる。デジタライゼーションももちろん大切ですが、DX、すなわちデジタルを用いたビジネス変革の意識を持って進めていくことが重要です。
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北極星を描くだけでは、DX推進できない

DXを着実に成功に導いている企業も増えてきていますが、プロジェクトを通して現場のキーマンにどのような動機付けを行い、推進をサポートしたのか、具体例を紹介してください。

藤田 経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」ではDXの阻害要因としてレガシーシステムに関する課題などが強調されていました。しかし近年は、DXの本質は会社全体やビジネスのあり方を変えていくことだという意識が浸透しはじめました。

私たちがご支援している製造業の企業でも、DXリーダーの方はITの枠を超えて経営管理や生産管理、さらには将来の自社のあり様までもコンセプトを打ち出して活動を牽引しています。この活動に感化されて社内各所のリーダーが経営者のように将来を語り始めると会社はどんどん変わっていきます。「DXほどワクワクする仕事はない」と喜々としながら取り組んでおられます。

私たちはコンセプト構築から組織の合意形成、そして具体的なアクションまで伴走しています。MRIには、コンセプトを構築して共有するための方法や経験が蓄積されており、強みの1つです。例えばビジョンをわかりやすい絵や図にしたり、デザインシンキングの方法論なども大変に役に立ちます。

DX推進リーダーが全社視点でDX戦略を検討する局面で、ジャーニー・マップを用いてMRIのビジネスコンサルティングの専門性や知見を活かしたご支援をしています。MRIがご支援している企業でもDX推進部署が生まれ、各事業部への展開を推進していますが、具体的なケースを紹介いただけますか。

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中西 あるお客さまでは、DX未来像としてきれいな北極星(目指すべき理想像)を描いたことがあったと伺いました。2030年には、最新の技術でいろいろなことができるプラットフォームを活用し……という絵を描いたまでは良かったのですが、いざDXの実行に向けて一歩を踏み出そうとしたところ、各事業部がそっぽを向いてしまったのです。事業戦略の中で必要なDXのはずなのですが、現状と北極星の距離が遠すぎて、最初に打ち出したDX施策ともあまりリンクが取れていない状況でした。そのため、「そんなデジタル施策に人を取られると現場が混乱する」と指摘するリーダーがいる一方で、「自分の預かっている事業を伸ばすためにはDXが絶対に必要」と考えるリーダーもいるという混沌とした状況になってしまいました。

本来、そこでやるべきことは施策の押し付けではなく、各事業リーダーから見て「自分の事業にどう関係するのか」をつまびらかにすること。そして、DX戦略の推進が全社的な事業成長に貢献することを理解し、自分ごととして捉えられるようにすることでした。このため私たちは、まず、各リーダーのデジタル化に対する考えをしっかり聞き、今後の成長にデジタル化が必要となる事業に絞って、具体的な戦略に落としていく作業をサポートしました。このように、DXには社内のさまざまな部署や人を「巻き込んでいく力」がとても大切な要素となってくるのです。

このケースに限らず、一般に、DX推進部署が立ち上がったとしても、目配りしなくてはいけない範囲が広くて、スムーズにうまく進めることは難しい。DXの推進には多くの工夫が必要ですが、旗振り役を担われる方のご経験の中だけでは突破できない部分も少なからずあります。そんな時に私たちを活用していただきたいと思います。
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出所:三菱総合研究所

戦略立案とともに大切なのは「マネジメントシステム」

DXの推進体制は各社各様ですが、サイロ化した組織でDXを推進する場合は特に打破しなければならない課題が多くあると感じますね。DXジャーニーでは顧客体験、オペレーション、ビジネスモデル、システム、組織の5つの観点からマイルストーンを置いていくことで、DX推進上の障害を戦略的に乗り越えていくことを可能としています。このアプローチは、各社の内製だけでは難しい部分ではないかと思います。

中西 お客さまからすると、DX到達まで5~10年かかるのは長いと言われますが、考え抜いた施策体系の中で、小さな成功体験を積み重ねていくことで初めて実現するのがDXです。とはいえ、そのステップがきちんと進んでいるかをどう判断したら良いのか。戦略マップを作るだけでなく、マネジメントシステムが機能することが大事です。今、われわれが注力しているのはまさにこの部分で、進捗やKPIを可視化する「DXスコアカード™」というフレームワークを作成しました。

さらに、DXジャーニーで設定している5つの領域の縦軸・横軸に対して、施策間の関係性を踏まえて総合的にKPIを設定しマネジメントしていくことが重要です。経過をしっかりウォッチし、芳しくない点があればどんな手を打てば良いか、もしくは外部環境が変わった場合にどう取り込んで良い方向に持っていけば良いかを、経営者やDXを担う中心メンバーがマネジメントできる枠組み(マネジメントシステム)を創っていきたいと考えています。

基幹システムが変われば業務も変わります。すると人材育成の方法や組織のあり方も変わるわけで、DXのステージが1つ進む(航海が1つ先のマイルストーンに到達する)ごとに、企業としてのステージが1つ変わります。その変化を見極めながら、変革に向けて有効にKPIを設定しなおすことが重要で、それをしなければ、結局成行きで進めているだけになってしまいます。
中西・藤田 慧眼を持ったリーダーが引っ張ることで成功するのもいいのですが、その人がいなくなって頓挫しては元も子もありません。DXを企業経営に根付かせるための方策を打って、組織力で推進していくべきです。当たり前のように事業戦略にも人材戦略にもDXが組み込まれて運営される姿になるまで、MRIはそのお手伝いをする伴走者としてあり続けたいです。
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PROFILEプロフィール

インタビューアー

  • 企業DX本部 本部長
    事業戦略、サプライチェーンマネジメントなど、事業構造改革の実績多数。経営からシステムまでさまざまな専門性を持つわれわれにしか出来ないDXコンサルティングで日本企業のDX推進に貢献すべく日々お客さまと奮闘しています。

インタビューイー

  • 企業DX本部 マネジメント戦略グループ グループリーダー
    経営管理高度化・業務改革・ICT変革の多数の経験を踏まえ、DX戦略の策定やDX推進計画(DXジャーニー®)の策定の取り組みを進めてきました。現在は、DX推進マネジメントに軸足を移しながら、企業の変革をご支援しています。
  • 企業DX本部 事業戦略グループ グループリーダー
    事業戦略、DXプロジェクト統括、ITマネジメント、セキュリティ、マーケティング、データアナリティクスなど実績多数。「DXジャーニー®」の構想メンバー。専攻は経営学・経営戦略論。日本企業の経営に寄与できるように日々研鑽に努めます。

所属・役職は当時のものです

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