変革に至るストーリーを描く「DXジャーニー®」

2022.5.1

企業DX本部中西 祥介

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略ビジョンは着手後に再び重要性が実感される。
  • 既存事業のリーダーの積極的な巻き込みがDX推進に必須。
  • デジタル技術が経営に貢献する領域を明確化したストーリーづくりを。

DX戦略におけるビジョンの重要性

デジタルビジネス変革を伴うDX※1の取り組みを開始して2~3年が経過したが、狙ったDX目標に向けた計画が進捗せず、比較的小粒な改善施策しか進展しない悩みを抱く企業が増えている。取り組みに際して、デジタルを活用した事業変革につながるビジョンを掲げずにスタートした場合だけでなく、すでに事業変革のビジョンまで掲げている企業からも同様の声が聞こえてくる。

当社が2021年12月に実施した調査※2では、「DXに関する全社的なビジョンの策定」を課題とする回答者の割合が、策定後の企業では低いことが確認された。ビジョンの策定がいったん終わり、課題をクリアしたと認識したのだろう。しかし、ビジョンやこれに基づく計画の実行度が高まるのに従って、ビジョンの重要度に対する認識が再び高まる。実際にDXの取り組みを進める中で気付かなかったDXビジョンの価値や重要性を改めて認識していることを示唆している。

ビジョンがあいまいだとDX推進が停滞

DX推進が停滞しているケースでは、既存の主力事業を預かる責任者がDXの取り組みに主体的に関わりにくい状況であることが多い。

【例1】現状延長のシステム導入前提のDX推進

ビジョンを実現するため対応策(デジタル技術活用策)として身近な既存業務改善に終始すると、計画の策定に着手した各事業の責任者の目には、抜本的な構造改革を失念した現状延長路線に映りがちである。こうしたケースでは、責任者が取り組みの推進に対する自らの役割を過小評価して、DX推進が停滞することが多い。

【例2】将来のデジタル技術の活用像があいまい

最新技術への過度な期待は禁物である。中長期ビジョンで掲げた大きな変革では、将来の技術動向も精査する必要がある。仮に「最新の〇〇技術を活用したプラットフォーム」を標ぼうするデジタル技術があったとする。もし「何でもできる万能システム」という評価が独り歩きすると、当該技術の導入自体が暗に目的化される。既存事業の責任者は技術導入以外のメリットを見いだせず、担当者が構想を具体化するまで様子見となる。
足元の業務改善の議論に終始するとDX推進は足踏みする。だが、既存事業の責任者は直近の事業年度や3年程度の中期経営計画期間での計数成長を達成することが命題である。

ジレンマの払拭には、確実に事業成長に寄与すると信じるに足る投資計画が必要である。不確実だったり、切迫感がなかったりする施策の優先順位は下がり、推進部隊への信頼感・協力も低下してDX推進が遅れる。DX推進のミッションを帯びた部署を設けた後、負の連鎖に陥ると、DX推進部署と主力の既存事業部門が協力関係を築けなくなる。DX戦略の実効性を高める知見のある既存事業部門の協力が得られないかぎり、企画・推進力の質的・量的な向上は望めず、DXの推進力の低下を招きかねない。

ストーリーを表現して求心力につなげる

このようなジレンマから脱却することがDX推進の糸口となろう。まずは、「機会(新市場の創生や顧客への新たな価値の提供)」と「脅威(市場からの淘汰など)」といった双方の観点から、自社の変革に必要な事項を明確化することが肝要である。具体的には、デジタル技術の貢献範囲を、顧客提供価値・売り上げ・コスト・人材それぞれの観点で明確化する必要がある。

これで既存事業の責任者の関与が深まり、イノベーションのジレンマにはまり込まずにDXを推進することが可能となる。

その後は、各部署の現実の事業に照らして、事業戦略構想に対応したデジタル技術活用の意義をストーリーに織り込み、DXビジョンの策定につなげることが有効だ。デジタイゼーション(データのデジタル化)の段階をクリアできていない事業が残っている状況で1つのテーマだけを変革しても、一足飛びに経営を変革することはできない。

将来のビジネスモデル変革、サービス競争力の向上といったDXの最終ゴールに向けて、個々の施策を組み合わせて、設定した中間ゴールをクリアしていくこと、すなわちストーリーとしての航海図(DXジャーニー®)をDX推進部隊、事業部門が共有することが目標達成の近道となる。

その際、階層間でコンセプトの断絶を生まない工夫として、全体責任者レベルから事業責任者、事業現場に至るまでの変革施策の関連性を確保することも有効だろう(図)。事業戦略を構想する中でデジタル技術を活用する必然性を起点とすることが肝要だ。北極星(ゴール)はその先にある。
[図] 階層間でコンセプトの断絶を生まないDX推進
[図] 階層間でコンセプトの断絶を生まないDX推進
出所:三菱総合研究所

※1:デジタルトランスフォーメーションの略。DXとは、データとデジタル技術を使ってビジネスを変革したり、新ビジネスを創出して、企業の競争力を向上させることである。DXを実現するためには、アナログデータのデジタル化(デジタイゼーション)やデジタル技術を用いた業務改革(デジタライゼーション)も欠かせないステップである。本特集では、これらを含めDXと呼んでいる。

※2:2021年12月実施。Webアンケート調査。回答者は、売上高100億円超の企業の従業員1,000人。

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