マンスリーレビュー

2022年5月号トピックス1テクノロジー経済・社会・技術

月面ビジネスが示す新たな官と民の関係

2022.5.1

フロンティア・テクノロジー本部内田 敦

テクノロジー

POINT

  • 多くの民間企業が月面ビジネスへの具体的な取り組みを開始。
  • 日本は参加企業の数や多様性において世界のトップレベル。
  • 官ではなく産業界が主体となって市場創出に取り組む先駆けに。

遠い未来の話ではない

米航空宇宙局(NASA)を中心とするアルテミス計画によって、月への注目度が高まっている。約50年前のアポロ計画と違い単に月に行くだけでなく、民間企業との協力を通て月での持続的な活動を目指している点が特徴である。

日本政府はアルテミス計画参加を表明し、当初から民間企業と協力してきた。企業の多くは月面開発を遠い未来の夢ではなく、近い将来の自社ビジネスとして真剣に捉えている。月に関心をもつ企業や大学が形成した多様なコミュニティ※1も、月面開発の将来像や必要となる法制度、産業創出ビジョンなどの観点から、検討を進めている。

開発の目的と月面ビジネス

そもそも、なぜ月面開発を行うのか。答えは1つではない。最も根源的な理由は、①「人類の生存圏・経済圏の拡大」である。これ以外にも、②「新たな科学的知見の獲得」、③「月で得られた知見やノウハウの地球への還元」、④「観光やエンターテインメントなどのビジネスを月において展開」といった理由が挙げられる。

企業各社は、①②での政府プロジェクトへの協力や、③④での自社ビジネス展開を検討している。例えば、ベンチャー企業ispaceは、2040年には月面に1,000人が住み1万人が月と往来するようになるとの構想を掲げ、2022年末に「月着陸船」の1号機を民間独自に送り込む計画である。玩具メーカーのタカラトミーは超小型変形型月面ロボット「SORA-Q」を開発して、月でさまざまな実証活動を行う予定だ。ユーグレナは月面での有人活動を支援するため、ミドリムシを用いて食料問題を解決する研究開発を進めている。

これ以外にも、トヨタ、ホンダ、日産など自動車大手やスーパーゼネコン、食品会社、素材メーカーなどの異業種企業が月面ビジネスについての取り組みを開始しており、関心を示す企業は100社を超えている。これほどの数や多様性をもった企業群が具体的に検討をしているのは世界的にもまれである。月面ビジネス検討において、日本は世界のトップレベルにあるといえよう。

官民協力の新たな姿

2021年6月には世界4番目となる宇宙資源法※2が制定され、宇宙資源ビジネス実施に向けた法制度が先行的に整えられた。産業界が月面開発に関する独自の提言やビジョン※3を公表するなどして政府に働きかけたことが、大きなうねりとなって法制度などの整備も進んできた。

宇宙や海洋などのフロンティア領域では、そもそも市場が存在せず、市場を創る段階も含めてビジネス開発を行う必要がある。まずは「官が」となりがちであるが、産業界がリスクをとって市場形成の初期段階から取り組み世界のトップを目指している月面開発は、官民協力の姿を従来の官主導から、民主導に転換させる先駆けともいえる。

このような関係性構築は、今後のビジネス創出の模範となりえるのではないだろうか。

※1:フロンティアビジネス研究会、有人与圧ローバが拓く“月面社会”勉強会、月惑星に社会を作るための勉強会、SPACE FOODSPHERE、月面産業ビジョン協議会など。

※2:宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律。

※3:当社も作成に携わった「月面産業ビジョン−Planet 6.0時代に向けて−」など。

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