マンスリーレビュー

2024年1月号トピックス1テクノロジー情報通信

裸眼で体験できるメタバースの将来

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2024.1.1

先進技術センター大山 みづほ

POINT

  • 裸眼でも体験可能なメタバースが、すでに身近に多く存在。
  • ストレスフリーで長時間、大人数で体験できるという長所がある。
  • ビジネスへの本格的な応用で、コミュニケーションの変容も。

身近でストレスフリーな「裸眼系メタバース」

2023年9月に米ラスベガスの巨大球状アリーナ「Sphere(スフィア)」のこけら落とし公演を、U2が行った。内外の壁は高精細なLEDパネルで覆われており、観客は超広角で大迫力の映像や大音響が間近に迫る体験を楽しんだ。

ヘッドマウントディスプレーのような専用機器を装着不要で、スマホやPCを通じた視聴とも異なるこのようなメタバース体験は、実は身近に多く存在する。例えば、壁面に表示されているにもかかわらず立体的に見えるデジタルサイネージや、プロジェクションマッピングなどだ。

本稿では専用機器の装着が不要な「裸眼系技術」の現状と今後について紹介する。なお、本稿における「メタバース」は、バーチャル空間だけではなく、リアルとバーチャルが融合した空間を含む「広義のメタバース※1」を指している。

ハードルの低い二次元表示

裸眼系技術は機器装着が不要なためストレスフリーな長時間視聴が可能で、技術によっては1つのディスプレーで大人数でも視聴できる。また、空間への立体表示よりも簡便な装置を用いる平面への二次元表示には主に以下の2つがある。

1つは立体には見えないが没入感のあるバーチャル体験ができるものである。風景に香りや音を加えて自然の中に出かけたような感覚を得たり、遠隔地にいる人を実物大に映して同じ室内にいるかのように議論したりすることが可能だ。

もう1つは目の錯覚を活用したものだ。L字型のLEDパネルを用い2つの面に平面画像を投影することで、特定の位置からは立体に見える。街角の広告ビジョンなどで使われている。

裸眼系技術はどこに向かうのか

裸眼系技術は現在、エンタメやスポーツ、芸術など多くの分野で活用されている。スポーツの場合は試合を遠隔地で応援する際、間近にいる観客の表情やジェスチャーといった非言語情報を感じながら、リアルタイムで実際の試合の映像や音響に触れて臨場感を味わうことができる。

リアルな周辺環境が確認できることは、運動時や移動時などの安全性確保でも有益だ。有名な寺や城などを、地形の起伏に気をつけながら、現地ゆかりのバーチャルなキャラクターとともに旅するといったような、観光資源としても活用できる。

さらなる技術の進展によって、コンテンツ作成などがより容易で安価になれば、裸眼系メタバースはさらに普及すると期待される。

ビジネスでも活用の幅が広がるはずだ。インフラ設備の異常な箇所を投影してメンテナンス対応の訓練を行ったりすることなどは、すでに実現している。中長期的には「カメラで読み取った表情をアバターで再現してバーチャル会議を活性化する」「提案段階の試作品を3D化して複数人で同時にレビューする」ことなどにより、コミュニケーションの変容が期待される。これに伴い、場所に縛られない、より自由なビジネス展開が可能になる。