マンスリーレビュー

2022年5月号トピックス2テクノロジー情報通信

ダイナミック共用で周波数の確保を

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2022.5.1

フロンティア・テクノロジー本部下村 雅彦

テクノロジー

POINT

  • Beyond 5G時代に向けた通信需要増で周波数資源はますます逼迫。
  • 抜本的対策としてのダイナミック周波数共用が、日本でも社会実装へ。
  • 自動化されたデータ通信への対応力を高め、分散型社会の構築支援を。

新たな帯域確保の必要性

社会や人々の生活を支える無線通信の利用は、今後ますます飛躍的な増加が見込まれている。背景にはIoT※1やM2M※2、デジタルツイン※3など新技術のもとでの通信需要増や、コロナ禍でのリモートワーク普及による通信量増大などニューノーマルにおけるデジタル化対応の加速がある。

このようなBeyond 5G時代の高速大容量化に向け、電波の周波数資源をどう確保するかが課題となっている。2030年代には携帯電話向けを中心に計100GHz幅程度の新たな帯域を2020年度末比で確保することが目標とされており、解決には周波数利用の抜本的な改革が求められる。

「動的」な共用が不可欠に

解決策は、未開拓の周波数帯を利用する技術の開発とともに、すでに逼迫している周波数帯に関しては、異なる無線通信システム間でダイナミック(動的)に周波数を共用することが挙げられる。

従来、システム間で周波数を共用する際は主に2つの方策がとられてきた。1つはシステムごとに異なる周波数帯を割り当てることだ。もう1つは、互いのシステムが干渉し合って通信に支障が出ないようにするため、稼働領域の間で保守的に大きな離隔距離※4を確保することである。いずれも「静的」な方策であったといえよう。

ところが、互いのシステム稼働領域が大幅に変動する場合は、「静的」方策が難しい。利用の頻度が限定的だったとしても、その時間や場所が任意であるため事前に離隔距離が設定できず、同一周波数帯での共用は困難であった。

このような課題を解消するため海外で使われ始めているのが「ダイナミック周波数共用」である。無線通信システムの時間的・空間的な運用状況を把握した上で、時々刻々と変化する電波利用者のニーズに応じて、動的にその都度、周波数を割り当て続ける技術だ。

日本でも導入に向け、総務省が2019年度から「異システム間の周波数共用技術の高度化事業」を実施し、当社は社会導入の推進を担当した。2022年3月より2.3GHz帯の携帯電話と放送番組中継用回線との共用を対象に、国内初のダイナミック周波数共用管理システムが稼働を開始した。

自動化されたデータ通信への対応力が鍵

現行のダイナミック周波数共用では、ユーザーが利用予定をシステムに登録することで、本格的に共用が始まる。ただ、将来的には、自動化された大量のデータ通信への迅速な対応力が鍵となる。

Beyond 5G時代においては、デジタルツイン構築や自動運転普及、ヘルスケア遠隔化などでサービスの地域分散化が進む。AIやロボット、センサーが自動で大量発信してくるデータに対応できなければ、分散型社会を支えられなくなる。

このため、地域における電波の利用状況をリアルタイムで把握し、周波数を自動で割り当てていく必要がある。当社としても、こうした利活用の完全自律化を支援したい。

※1:Internet of Thingsの略。モノがインターネットを通じて人を介さず通信する。

※2:Machine to Machineの略。IoTとは違って必ずしもインターネットを経由しないためデータ遅延が少ないなどの特徴がある。 

※3:リアル空間に存在するモノや機能の「双子」をデジタル空間上に作る技術。

※4:安全面の観点から離さなければならないと定められている距離。