DX成功の鍵は社内外データの活用

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2022.5.1

DX技術本部美馬 由芽

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 新規・既存事業で成果を出している企業はデータ活用でも手応え。
  • 好調な企業はデータによる顧客行動理解を重視している。
  • 今一度、ビジネス課題に立ち戻ってデータ活用を推進することが重要。

DXによる新規事業が好調な企業は9%

DX※1推進の鍵がデータ活用にあることはストレートに伝わりにくい。国内でDX成功事例がいまだ乏しいからだ。

当社が2021年12月に実施した「DX推進状況調査」※2によると、DXを活用した新規事業において想定どおりの成果を出している企業は9%、既存事業の高度化で成果を出している企業は11%と限定的である。これら企業のデータ活用状況の差は歴然としている。新規事業DX推進で想定どおりの成果を上げている場合は、65%が社内データ活用に成功している。しかし、思うように進んでいない場合、データ活用の成功率は21%と、推進が順調な場合の3分の1で乖離が大きい。

好調な企業はデータによる顧客理解を重視

このようにデータ活用とDX推進の成否との間には一定の相関があるといえる。それではいかにデータ活用を進めるのか。新規事業の立案、既存事業の高度化における3つの障壁に注目した。

【障壁1】データ分析の効果実感が得られない

DXを活用した新規事業開発・既存事業の高度化で想定どおりの成果が出ている企業と、十分な成果が得られていない企業のデータ活用の目的を比較すると、成果が得られている企業では「顧客行動のモニタリング」の選択率が高い。

ただし顧客理解に関して、現場担当者の知見を超えるインサイトを瞬時にデータ分析から得ることは難しい。「適切なデータがない」ことを課題として選択する企業も多く、データ収集にも苦戦している。データ活用の負荷と比較して即時的な効果実感が薄いことが障壁となっている。一方で成果を出している企業では、商品横断で同一の嗜好性を分析してリコメンドにつなげたり、コロナ禍の顧客行動を分析したりと、担当者の勘と経験が及ばない領域で成功体験を積み重ねており、データ分析を根付かせる一因となっている。

【障壁2】データ活用への投資に躊躇している

新規事業開発または既存事業高度化を伴うDX推進に対し、成果は不十分だが取り組んでいる企業と、取り組みに至っていない企業それぞれのデータ活用の課題を比較すると、最も差が大きいのは「期待効果・成果が検証できない」という結果が得られた。

データ活用の初期においてはデータ収集や分析環境の整備、人材配置などの投資が求められるが、費用対効果が不明なため投資が得られないケースも多い。データ活用の目的となるビジネス課題を明確にし、これに対する簡易な効果試算を行うことが実際は近道になると考える。

【障壁3】データ活用を担うデジタル人材が不足

DXのフェーズ別の課題をみると、最終フェーズである「DXにより新たな価値を創出している段階」に至っている企業では、実務を担う「データ分析人材」不足を課題とする回答が61%に及んだ。これは前段であるフェーズ3(意思決定をほぼ自動化)を20ポイント超上回る(図)。なおこのフェーズでは「ビジネス課題とデータ分析を結び付けて施策につなげられる人材不足」を課題とする割合が35%と、全フェーズを通じて最も高い。

DXにより新たな価値を創出する段階に至るには、データ分析人材だけでは十分でなく、ビジネス課題とデータ分析を結び付けて施策につなげる人材が不可欠になっている。
[図] DX推進におけるフェーズ別課題
[図] DX推進におけるフェーズ別課題
出所:三菱総合研究所

社外データやオープンデータの活用も視野に

このようにデータ活用はDXによる競争力強化の有力な手段である。ただし、ビジネス課題にひもづいたデータ活用であることが不可欠といえる。

またデータ不足問題では、社外データの活用も有効な解決策だ。実際に、「社内に適切なデータがない」ことが課題とした回答者のうち73%が社外データを活用している。社内にデータがない状況には次の3パターンがある。

①実際には存在する場合※3
②アナログ情報をデータ化できていない場合
③自社では取得できない場合

③ではオープンデータや他社データの活用も視野に入れたい。自社商品と異なる市場の購買行動から顧客に関するインサイトを得るケース、社会や競合の動向を踏まえて需要予測を行うケース、もしくは自社商品と親和性の高い商品を提供する企業と相互送客※4を行うケースも増加している。

現在日本のDX推進は見直し(リスタート)時期に差し掛かっている※5。このタイミングで、ビジネス課題起点でデータ活用の方針を改めて見直すことが、今後の競争力強化につながるデータの特定や最適な投資・人材配置を促すと考える。

※1:デジタルトランスフォーメーションの略。DXとは、データとデジタル技術を使ってビジネスを変革したり、新ビジネスを創出して、企業の競争力を向上させることである。DXを実現するためには、アナログデータのデジタル化(デジタイゼーション)やデジタル技術を用いた業務改革(デジタライゼーション)も欠かせないステップである。本特集では、これらを含めDXと呼んでいる。

※2:2021年12月実施。Webアンケート。回答者は、売上高100億円超の企業でDXに関わる従業員1,000人。

※3:データの棚卸や部門・グループ会社間での連携ができていない場合。

※4:企業間、店舗間などで相互に顧客を誘導すること。

※5:特集1「DXの巻き返しに必要な3要素」参照。

関連するナレッジ・コラム

もっと見る
閉じる