まずは視座。経営幹部がDXの全体像(グランドデザイン)を描くには、長めの時間軸で、社会・産業のメガトレンドを踏まえた自社の理想像を考える必要がある。その際、業務プロセス改革だけをイメージするのではなく、新規事業の成長戦略 を描くことが重要である。
そのヒントとして、デジタル技術活用で企業間が連携した姿と実現した時の顧客接点や顧客提供価値の変化をイメージすると良い。前述のとおり、DXの恩恵は個社よりも、サプライチェーン全体で大きく享受しうる。デジタルビジネス変革は、業界構造だけでなく産業全体を変える可能性を有しているのだ。
そしてアプローチ。最初に取り組むべきはデジタルビジネス変革で実現させたい自社の姿を描くことだ。
次に現実と理想とのギャップを構造的に整理・理解した上で、デジタル業務プロセス改革の変革目標を設定する(バックキャスト)。焦点を当てるべきは「データ駆動(デジタル技術によるリアル業務補完)」推進だ。具体的には、自社のビジネスが生み出す客観的なデータを経営や業務の意思決定に活かし、既存のコア事業の収益力や競争力を強化する。
並行してデジタルビジネス変革の姿を見据え、自社の強みを強化する新規ビジネス開発に着手する。その際陥りがちなイノベーションのジレンマを避けるためにも、判断業務のデジタル化などによって組織の生産性を向上させておきたい。ま た、コロナ禍でリモートワークが広がったため顕在化した従業員の心身のケアや、情報セキュリティ強化も怠ってはならない。
以上の認識に基づき、DXに取り組む経営幹部と従業員が同じ航海図を見て目指すべき針路について要所要所で確認・共有することが重要となる。その航海図ともいうべき「DXジャーニー」の作成も欠かせない。
本号では引き続き、DX推進に欠かせない3つの取り組みについて述べる。
DX推進の航海図には一つとして、同じものは存在しない。自社の理念や成長戦略と整合したDXで実現したい姿をゴールに据え、俯瞰的に変革の方向性を定めることが肝要である。