DXジャーニーを描き変革の成功を引き寄せる

2021.8.1

企業DX本部中西 祥介

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • デジタルビジネス変革に至る航海図「DXジャーニー」を描くことが有効。
  • 自社の文脈を織り込んだ「最適解」としての変革ストーリーを描く。
  • 5つの変革領域を意識して変革コンセプトから筋の通った施策を推進。

事業変革に向けて中長期スパンでDX推進を

多くの企業にとり「デジタル技術を活用した事業変革を実現して飛躍的な成長を手に入れる」ことが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の本来目標である。しかし、既存事業の維持拡大の方が短期的な計数インパクトは大きく、「成果の早期創出につながる足元のデジタル業務改善にとどまりがち」との悩みを聞くことが多い。

デジタルビジネス変革のポイントは「UX(顧客体験)」「オペレーション」「ビジネスモデル」「システム」「組織」の5つの課題領域を検討考慮することにある。ニーズ起点で提供価値の変革を考えるべくUXの分析に取り組むと、実際には他の4つの領域の課題も見えてくる。

しかし、既存の取引関係などが新たなUXの実現の足かせになることも多い。その場合、幅広く課題を突き詰めることがゴール到達に欠かせない。その道程を「DXジャーニー」として描くことが、さまざまな変革の実現に有効だといえる。

自社の文脈を織り込んだ最適解が必要

従来のIT活用のアプローチでは、同業種内でベストプラクティス(成功事例)を展開することが多い。しかし、この方法ではストーリーを伴わないデジタル業務改善の実現にとどまりがちである。

さらに、既存の取引関係がUX変革の実現の足かせになるケースでは、一時的に衝突が起きるとしても、環境や経緯なども踏まえた上で変革に至る手段やストーリーを考えることが重要である。改革を成功に導くには内発的なアプローチが有効であり、戦略に沿った競争優位性の実現とともに「自社にとっての最適解」を得ることができる。

経営の適切な関与で旅のように「変革」実現を

デジタルビジネス変革に向けては、「社内各階層のデジタルリテラシーの不足」「レガシーシステムの存在」など一朝一夕には解決できない障壁を乗り越えねばならない。しかも新たなデジタル技術が実務水準で利用可能となる時期は不確実だ。実際の採用には留意が必要である。

これらの課題解決の取り組み自体が時には5年以上に及ぶ長い旅となる。この息の長い「旅=航海」は、継続できる環境になければ座礁する。デジタルビジネス変革への道筋を見失うことなく、アジャイル※1やリーン※2といった試行錯誤を伴う取り組み手法でスピーディかつ成果を検証しながら進捗することで成功の可能性が高まる。その際に、DXの推進者が社内外の求心力を維持し続けるポイントは以下の3つの取り組みに集約される。

①戦略・組織レベルの変革コンセプト策定
②変革コンセプトから筋の通った施策の立案
③目標から外れない事業変革のリード

当社はこれらの取り組みを「DXジャーニーの策定」と呼ぶ。息の長い旅のような取り組みを最後までブレずに完遂できるよう、変革コンセプトの実現に至る中間段階である「取り組みゴール※3」を明示した、そして各施策の意味付けを明確にした航海図としてDXジャーニーを描くのだ(図)。
[図] DXを進めるための航海図「DXジャーニー」の例
[図] DXを進めるための航海図「DXジャーニー」の例
出所:三菱総合研究所
最大のポイントは、活動の出発点にふさわしい変革の設定だ。UX、オペレーション、ビジネスモデル、システム、組織の5つを、UXを起点に組み合わせ、自社にとって必要な変革を描く。例えば、サービスビジネスへの転換を図るまでに、まずは局所的なシステム連携の向上を図りつつ業務改善レベルであってもデジタルによる変化を実感する。次にデジタルデータを本格的に活用した保守サービスの変革などを組み合わせていく。これらの発展をなし得てから初めてビジネスモデル自体の変革にまで至るのだ。

実際に変革コンセプトを定める際には、現場の創発的な議論や知恵を引き出すための工夫が必要だ。例えば、「事業のサービス化の推進で新たな価値創造」「顧客体験の刷新のために保守業務を改革」といったわかりやすい標語も設定したい。

さらに、5つの変革領域を踏まえた「変革コンセプトツリー」を作成し階層間の断絶を防止する。そのプロセスでは「新規事業開発的」な進め方が適合しやすい。現状を分析した上でデザインワークショップなどを開催して徹底的に議論することも有効だ。

これにより経営は、大きなストーリーの発信、アイデアを創発する組織文化の醸成、組織・予算面でのサポート、施策展開の合理性の確認、現状ビジネスとの競合がおきた場合の対処に集中できる。競争優位性の実現に向けて第一歩を確実に踏み出すことができる。 

※1:小刻みな工程を繰り返すことで、素早く柔軟な成果を得る手法。

※2:「ぜい肉がない、引き締まった」を意味するleanから転じた「無駄がない、効率的な」開発手法。

※3:最終的に目指すデジタルビジネス変革の手前で実現する、デジタル業務変革の目標や現状の延長での改善目標。

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