ニューノーマル対応DXの着眼点

2021.8.1

企業DX本部保本 徳一

日本ビジネスシステムズ株式会社 コンサルティングサービス本部六鹿 佑樹

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • ニューノーマルにいち早く対応するべくDX戦略の見直しは急務。
  • 顧客接点は、リアルの存在意義を見直し、デジタル起点で融合すべき。
  • 顧客接点と働き方改革の両輪でニューノーマル対応DXを推進。

非接触・非対面という新たな働き方・生活様式

コロナ禍の中で1年以上が経過、公私共にわれわれの生活でデジタルシフトが進んだ。企業活動は非対面でのテレワークが定着し始めた。はんこレスやペーパーレスなど業務のデジタル化・オンライン化も進んでいる。

生活様式でも非接触を目的に、eコマースやキャッシュレスが拡大。流通、小売り、サービスなどのBtoC産業の中には事業ポートフォリオの見直しを余儀なくされた企業も散見される。ニューノーマルの時代にはスピード感と柔軟性・多様性が重視される。いち早く対応するべく、単なるリアルのオンライン置き換えではないDX戦略の見直しが急務である。

バーチャルの利点をリアルに織り込む

キーとなるのは、バーチャル・デジタル技術の利点を織り込むことでリアルに新たな良さ(ニューノーマル)を付随させることだ。

販売業では、サイトで販売を完結しても市場での競合優位性を確保できるとはかぎらない。あくまでも重視されるべきは、コロナ禍での行動変容に伴う顧客のニーズの把握である。データ活用により、リアルとデジタルを融合した顧客体験を精査することで、質の高いリアル商品・サービスを顧客に届ける「場」が提供可能になるのだ。

例えば、日本マクドナルドのモバイルオーダーなどは好例だ。コロナ禍において同社が売り上げを伸ばした一因ともなっている。入店前に注文を完了して待ち時間ゼロで受け取れるとあって、3密予防の効果が大きいとされる。

地方銀行の店舗戦略も同様だ。インターネットバンキングが進んでも、リアル店舗は顧客接点として地域経済活性化を支援するハブであり続ける。地域貢献の担い手としての期待はむしろ高まっている。行内にデータを蓄積して観光振興、地域産品展開、防災、医療・介護など地域が抱える多様な課題解決を図るコンシェルジュ的な役割も期待される。

データに基づき顧客の嗜好や行動を分析するデジタルマーケティングの要素を対顧客業務に組み入れる必要性は今後さらに高まることだろう。
[図] 顧客接点と働き方改革の両輪で進めるニューノーマル対応DX
[図] 顧客接点と働き方改革の両輪で進めるニューノーマル対応DX
出所:三菱総合研究所

安心安全な「働き方改革」の思索

ニューノーマル時代は働き方改革にも、中長期的かつ戦略的な視点が求められる。例えばテレワークへの移行。「あえてオフィスに出社する」意義は変容した。人事労務、オフィスマネジメントへの対処など、コロナ禍を機に各種労務制度の見直しを進める企業も多い。

この結果、テレワークを始め多様な働き方が可能になったことは周知のとおりだ。しかし、オンライン会議の運営の難しさやコミュニケーション不全による疲労感、人的ネットワーク構築の難しさといった心身両面の新たな課題に直面している。

当社が実施したWebアンケート調査※1において、回答者の約3割が「コロナ禍で他者への配慮・思いやりの重要度が上がった」とする結果が得られている。組織・チームへの帰属意識低下によるモチベーションダウン・退職、非定型なノウハウの伝承の難しさによる中長期の技術力の低下が発生する可能性がある。

今後の人事労務戦略にとって、心身共にストレスのないテレワーク環境の構築は不可避である。屋外や現場で作業するフロントラインワーカーに対してデジタル技術を活用したノウハウ共有で業務支援を行いつつ、ストレスモニタリングなどで従業員をケアする動きも加速するだろう。

企業のセキュリティ意識も変わると考えられる。今後も、会社のPCを持ち出したり、自宅やサテライトオフィスでPCを利用するケースは増える。企業が管理できないセキュリティレベルの業務環境が増えるので、従来の境界防御の前提が崩れる。そこで「ゼロトラスト※2」と呼ぶセキュリティ概念も注目されている。すでに業務環境のデジタル変革は待ったなしだ。

試行錯誤を繰り返し小さな成功事例を蓄積

ニューノーマル時代は、さらなる社会環境の変化に再三見舞われることも否定できない。最短・最速(Fast Path)で成果到達することも重要な経営施策である。重視されるべきは、小さな成功事例をタイムリーに積み重ねることだ。

クラウドやSaaSなどの非オンプレミス※3型の柔軟なテクノロジーを活用し、アジャイル※4により開発の準自動化を志向することも必要だ。開発期間中にコラボレーションツールを用いれば、アイデアや意見、知見などの共有が可能となる。次の変革をけん引する人材の育成にもつながるだろう。

※1:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif) 」を使用。n=5,000、2020年6月実施。

※2:セキュリティを担保する上で「何も信用せず、全ての通信を疑う」というコンセプトモデル。防壁の内外にかかわらず全ての動きを検証確認する。

※3:特定のデバイスがなくても業務ができるようにすること。 

※4:小刻みな工程を繰り返すことで、素早く柔軟に成果を得る手法。

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