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DX成功のカギはデジタル人材の育成 第2回:DX推進に求められる「デジタル人材」とは?

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2020.5.28

経営イノベーション本部宮崎要

経営戦略とイノベーション

DX成功のカギは「人」

第1回では、われわれが考えるDXとは、「デジタル技術を活用して生み出された商品・サービスによって顧客の支払意思額を向上させるための取り組み」であると紹介した。「取り組み」のレベルは、改善から変革までさまざまであるが、自社ビジネスのイノベーションを目指すことが究極であるとも言える。重要なのは、顧客提供価値を見直し、「変革対象」とそれに必要な「実現手段」を決定できる「人」がDX成功のカギであるということである。
では、DX成功のカギがなぜ「人」(以下、「デジタル人材」)にあるのか、その背景を見てみよう。

DXの取り組み状況

ここで、国内におけるDXの取り組み状況について、当社が実施したセミナーの参加者に対するアンケート結果※1・2 を紹介したい。アンケートでは、経済産業省が定義している「DX推進指標」※3 に基づいてDXの取り組み状況を聞いている(図1)。

「未着手」である企業は全体の4分の1強。着手している企業であっても約半数は「一部での散発的実施」段階であり、さらに「全社戦略に基づく持続的実施」「グローバル市場におけるデジタル企業」レベルに該当する企業はゼロであった。本格的にDXを推進できている企業はまだわずかである。
図1 DXの取り組み状況
図1 DXの取り組み状況
出所:三菱総合研究所

DX推進上の課題

DXが進んでいないのはなぜだろうか? アンケート結果からDX推進上の課題について見てみたい。上位2項目が人材に関する課題である。具体的には「DXの全体工程を管理する人材不足」と「ビジネス案を実際に形にする人材不足」で、それぞれ半数前後の企業が課題に挙げている。3点目に「充分な収益性を確保できるビジネスモデルが描けない」が挙がっている点にも注目していただきたい(図2)。世の中にどれほど優れたデジタル技術が存在していても、技術を活用して実現できるビジネスモデル案を描き、具体化できる人材、そして実装までの工程管理ができる人材がいなければ、うまくDXが進まないのは自明であろう。
図2 DX推進上の課題
図2 DX推進上の課題
出所:三菱総合研究所
「デジタル人材」の確保については、圧倒的にその数が不足しており、外部からの調達も難しい状況である。その傾向は今後ますます拡大し、2030年に「デジタル人材」を含む専門技術人材(技術革新をリードしビジネスに適用する人材)は、170万人不足すると当社では予測している(図3)※4
このような状況下では、社外調達と社内育成を組み合わせ、長期的視点から人材を確保していくことが求められる。
図3 人材需給の時系列変化の予測
図3 人材需給の時系列変化の予測
出所:三菱総合研究所

「デジタル人材」に求められる多様性

では、「デジタル人材」にはどのような知見が求められるのだろうか? 繰り返しになるが、われわれはDXを「デジタル技術を活用して生み出された商品・サービスによって顧客の支払意思額を向上させるための取り組み」と定義している。この定義にのっとると、デジタル技術を活用できる「デジタル知見」を有することがマストであることは言うまでもない。しかしそれはDX推進に対する必要条件にすぎない。先に紹介したアンケート結果において「ビジネス案を形にできる人材不足」が課題になっていたように、「顧客の支払意思額の向上」を目的とするDX推進のためには、「デジタル知見」だけでなく、「ビジネス知見」も有していることが必要十分条件なのである。

一方で、この必要十分条件を兼ね備えることを一人の人材に求めることは困難である。また、DXとはプロジェクト単位で推進するものであるため、担当者が一人で進めることも難しい。そこでわれわれは「デジタル人材」を「DXの推進を担う多様な人材の総称」であると定義した。「総称」としたのは、多様なスキルを「チーム」として結集して取り組むべきと考えたからである。

「多様な人材」については以下の4類型に分類している(図4)。まずはDXを主導する「プロデューサー」、プロデューサーのビジョンに基づいてそれを企画・推進・工程管理するプロジェクトマネージャーである「DXマネージャー」、事業やサービスの単位で自社ビジネスの変革案を検討してビジネス案を形にする「ビジネス・サービス担当」、デジタル技術に精通しそれを実装する「システム・技術担当」である。ここで注目いただきたいのは、DXはチームで推進する以上、プロジェクトマネジメント、ビジネスモデル立案、業務設計、システム設計・開発など多様な役割も求められるということである。
図4 デジタル人材の類型
図4 デジタル人材の類型
出所:三菱総合研究所

イノベーションの観点から見る「デジタル人材」

冒頭でDXの究極はイノベーションを目指すことだと述べた。経営学におけるイノベーション理論では、「知の探索(新しい知を求める行為)」と「知の深化(今ある知をそのまま活用する行為)」をバランスよく進め、特に「知の探索」を怠らないことが重要であると言われる。そして、「知の探索」を効果的に行うには、人材のダイバーシティ(多様性)が有効だとされる※5。DXはイノベーションにも通じる概念であるという点からも、「デジタル人材」に多様性が求められることを理解いただけるであろう。

現在、あらゆる業界でエンジニアやデータサイエンティストの需要が高まっている状況だが、技術にたけた人材(図4に示す「システム・技術担当」)だけを集めてもDXは成功しない。「DX推進上の課題」で示した通り、「ビジネス案を具体化できる人材(図4に示す「ビジネス・サービス担当」)」、「DXの全体工程の管理ができる人材(図4に示す「DXマネージャー」)」とも連携し、多様性を発揮できるチームを構築することが肝心なのである。

第3回では、「デジタル人材」に必要な、より具体的なスキルセットとマインドセットについて紹介する。

※1:三菱総合研究所・三菱総研DCS共催セミナー「デジタル人材に求められるスキルは技術だけではない ─実効性のあるDX戦略と求められる人物像」(2020年1月)

※2:HCD-Net・三菱総合研究所共催セミナー「自社ビジネスに変革をもたらすデジタル人材の育成」(2020年2月)

※3:経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」(2019年7月)
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf(閲覧日2020年5月22日)

※4:MRIトレンド・レビュー「大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第2回 人材需給の定量試算:技術シナリオ分析が示す職の大ミスマッチ時代」(2018年8月)

※5:入山章栄『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年)

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