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大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第2回 人材需給の定量試算:技術シナリオ分析が示す職の大ミスマッチ時代

2030年の人材マッピング

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2018.8.6

政策・経済研究センター山藤昌志

経済・社会・技術
2030年に向けたあるべき人材の姿を描くに先立って、その時期までに人材需給がどのように推移するかを、産業別・職業別・性別・年齢別に定量化する。

第1回で指摘したとおり、長期的なトレンドとして日本経済に影響を及ぼす技術革新・少子高齢化・長寿化の潮流は、人材需給に対しても多様な経路でインパクトをもたらす。足もとの人材不足は、技術進歩を通じて緩和に向かうのか? どの産業・職業・年齢区分で、人材の需給ギャップが拡大もしくは縮小するのか? さまざまな要因が絡む中、先を見通すことは容易ではない。

人材需給試算の枠組み

今回の試算では、「第四次産業革命が実現した場合に必要となる就業者数」を人材需要、「公的人口推計と過去15年の産業・職業・性別・年齢別就業トレンドに基づく就労者数」を人材供給と位置づけ、両者の差分を需給バランスとして、2030年までの人材需給を推計した(図表2-1)。いわば、成り行きの人材供給に対して、技術革新が着実に実現したときの人材需要がどの程度乖離するかを計測している。需給ともに産業・職業・性別・年齢別に細かなメッシュで推計しているため、日本経済のどのセグメントで人材需給がひっ迫し、逆にどこで人材余剰が発生しているかを、細かく追うことが可能である。
図表2-1 人材需給バランス試算の枠組み
図表2-1 人材需給バランス試算の枠組み
出所:三菱総合研究所

技術シナリオに基づく人材需要予測——330万人の雇用減少効果

人材需要の推計に際しては、主要10分野で合計15の将来シナリオを想定。2030年までの新技術の普及状況を加味しつつ、雇用インパクトを算出した。この推計手法は、2016年に当社が行った社会影響試算※1の枠組みを踏襲しているが、絶えず変化する技術動向にキャッチアップするため、新技術の普及時期について、全面的に洗い替えを行った(試算結果については囲み記事を参照)。

また、第四次産業革命とは関連のない就業者の増減については、当社「内外経済の中長期展望2018-2030年度」におけるベースシナリオ(人口推移は国立社会保障・人口問題研究所の将来推計値の中位ケース:技術進歩が見込めず労働生産性の伸びが抑えられたケース)を採用し、両者を足すことで人材需要の合計を算出した。

今回洗い替えを行った将来シナリオに基づく2030年の人材需要は、ベースシナリオとの比較で約330万人減少するという結果となった(図表2-2)※2。就業者数へのインパクトを産業別に見ると、増減ともに製造業が最大となるが、純増減では卸小売業の減少幅が100万人と最も大きく、建設業の67万人減、医療福祉業の43万人減が続く。純増となったのは、情報通信業(48万人)のみであった。職業別では、専門的・技術的職業で大幅な増加となった以外は、ほぼすべてで需要が純減するとの結果が得られた。

 
図表2-2 技術革新がもたらす人材需要増減の推計結果
図表2-2 技術革新がもたらす人材需要増減の推計結果
出所:三菱総合研究所推計

第四次産業革命の社会影響試算

第四次産業革命の社会影響試算では、影響を大きく受けると思われる社会の10分野について合計15の将来シナリオ(図表2-3)を想定した。2030年の将来像と新技術の普及時期を加え、2030年までの道筋を予測した。

試算した項目は、将来(2030年)の当該分野における①生産付加価値の増減(産業別)、②雇用の増減(産業別・職業別)、③海外売り上げの増減、④輸出額の増減、⑤他産業への生産誘発効果を含めた産出高(市場規模)の5項目である。

将来シナリオに基づく2030年の実質GDP(生産付加価値)増加額は合計で49兆円と試算した。そのうち既存産業分が30兆円、新産業分が6兆円である。雇用へのインパクトは全体で330万人減少、うち既存産業のみでは450万人を超える減少を見込む(図表2-4)。

また、他産業への生産誘発効果を含めた産出高(市場規模)は、2030年時点で91兆円となった。シナリオ別では「BtoCものづくり」の影響が大きく、「BtoCものづくりと流通の大改革」では20兆円を超えると予測する。また各シナリオで発生するAIやロボットの市場も22兆円規模に上る(図表2-5)。

産業分類別の産出高(市場規模)では製造業が最多の38兆円で全体の4割強を占める。続いてサービス業が22兆円、情報通信業が11兆円である(図表2-6)。
図表2-3 10主要分野における15の将来シナリオ
図表2-3 10主要分野における15の将来シナリオ
出所:三菱総合研究所
図表2-4 将来シナリオ別の実質GDP(生産付加価値)と雇用の増減
図表2-4 将来シナリオ別の実質GDP(生産付加価値)と雇用の増減
出所:三菱総合研究所推計
図表2-5 将来シナリオ別の産出高(市場規模)の時系列推移
図表2-5 将来シナリオ別の産出高(市場規模)の時系列推移
出所:三菱総合研究所推計
図表2-6 産業分類別の産出高(市場規模)の時系列推移
図表2-6 産業分類別の産出高(市場規模)の時系列推移
出所:三菱総合研究所推計

トレンド分析に基づく人材供給予測——成り行きでは290万人の就業者減

人材供給については、①人口、②就業率※3、③産業・職業別就業者シェアの三つを考慮して将来推計を行った。

人口は、国立社会保障・人口問題研究所による将来推計人口の中位推計の性別・年齢別の人口を使用した。就業率については、性別・年齢別に推計した。女性と高齢者の労働参加がここ数年高まっている状況を踏まえて、両者の就業率は2030年にかけて上昇すると見込んだが、それ以外は2000年以降の長期トレンドに沿った数値を推計した(図表2-7)。

産業・職業別就業者シェアについては、性別・年齢別(男女それぞれの15~64歳と65歳以上の計4区分)に15産業別・13職種別の就業者シェアを算出し、2000年以降のトレンドを引き延ばす形で2030年までの予測値を算出した(図表2-8)※4。
図表2-7 性別・年齢区分別の就業率(実績値・推計値)
図表2-7 性別・年齢区分別の就業率(実績値・推計値)
出所:総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、総務省「労働力調査」より三菱総合研究所作成
図表2-8 産業別・職業別の就業者シェア
図表2-8 産業別・職業別の就業者シェア
注:1990~2015年は実績値、2020~2030年は想定値
出所:総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、総務省「労働力調査」より三菱総合研究所作成
トレンド分析に基づけば、2030年時点での就業者数は2015年から287万人減の6,129万人となるという結果が得られた(図表2-9)。また、性別・年齢別では64歳以下男性の減少幅が大きく、特に生産職では226万人の大幅減少となっている。職種別では、専門職が性別・年齢別を問わず増加、また販売サービス職が女性および高齢者層で増加となっている。しかし増加幅はそれぞれ83万人、103万人にとどまる。
図表2-9 トレンド分析に基づく人材供給の増減(2015→2030年、万人)
図表2-9 トレンド分析に基づく人材供給の増減(2015→2030年、万人)
注:図中の「高齢者」は、65歳以上の就労者を指す
出所:総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、総務省「労働力調査」より三菱総合研究所作成

人材需給バランス予測——需給ギャップは解消するも、専門技術職が170万人不足

図表2-10は、ここまで説明した人材の需要・供給の動きを、2015年を起点として以下の四つのコンポーネント別に時系列集計した結果である。

一つ目は「デジタル技術などで失われる雇用」。製造業、卸小売業、サービス業を中心に2030年までに730万人強の就業機会が失われると見込んでいる。

二つ目は「成長市場実現に必要な雇用」。製造業、サービス業、情報通信業を中心として、逆に2030年までに400万人強の新たな就業機会が生まれると予測する(前述のとおり、純増減では330万人の就業機会が減少)。

三つ目は「ベースラインとしての人材需要」。これは新技術の普及以外の要因で生まれる人材の需要を指しており、東京五輪の経済効果を含む経済活動に関する人材需要が2020年代初頭を中心に最大140万人の就業機会を生む。しかし、2030年時点ではベースラインの雇用創出効果はほぼゼロとなる。

四つ目は「人口減少による労働供給減」。前述のとおり、トレンド分析では2030年までに人材供給が290万人減少する。これらのコンポーネントを足し上げたものが日本の人材の需給バランス、すなわち経済全体として「人材不足」であるか「人材過剰」であるかを示す指標となる。

日本経済全体では、2020年まで人材不足の流れが強まるものの、その後緩やかに需給ギャップは収束、2030年時点では逆に約50万人の人材余剰となる。
図表2-10 人材需給バランスの時系列変化(2015年対比、需給コンポーネント別)
図表2-10 人材需給バランスの時系列変化(2015年対比、需給コンポーネント別)
出所:三菱総合研究所推計
一方、マクロ的には均衡状態に近いように見える2030年の人材需給であるが、内訳を見ると新たなデジタル技術を活用して日本経済を成長軌道に乗せるには程遠い状況であることがわかる。

図表2-11は、2030年にかけての人材需給バランスを職業区分別に集計したものである。ここからわかるように、不均衡から収束に移行しているようにみえる人材需給は、職業別には大幅なミスマッチを起こしている。ホワイトカラーのワーク・バリューシフトを経て、事務職の需要は2020年代初頭を皮切りに、100万人単位で減少する。また東京五輪効果もあり、大幅な人材不足に悩む生産・輸送・建設職も、2020年後半以降は自動運転やロボット技術の進展に伴う単純労働の代替が進展するとともに、徐々に過剰感が強まってくる。

こうした中で、恒常的に不足するのが専門技術職人材だ。技術革新をリードしビジネスに適用する専門技術職人材は、2030年時点で約170万人不足すると見込まれる。職の大ミスマッチ時代の到来である。
図表2-11 人材需給バランスの時系列変化(2015年対比、職業分類別)
図表2-11 人材需給バランスの時系列変化(2015年対比、職業分類別)
出所:三菱総合研究所推計

第2回おわりに

技術革新と少子高齢化に伴う労働人口の減少は、日本の仕事を質・量の両面から大きく変える。本稿では、人口構成や産業・職業別の人材需給の動きを定量化することで、そのインパクトの一端を示した。

しかし、2030年に向けて求められる人材について、依然として明確な姿は浮かび上がっていない。不足する「専門技術職」とは、どのような人材なのか。どうすれば、新しい技術を使いこなす人材を育てることができるのか。次回は、タスク起点で職を切り分けることを通じて人材ポートフォリオを明確化し、将来に必要とされる人材の要件をあぶりだすことを試みる。

※1MRIトレンド・レビュー「第四次産業革命⑥-2030年に240万人の雇用減も?-社会影響の定量試算」を参照

※2ここでの「330万人の人材需要減」は、より正確には「330万人分のタスクの減少」を意味する。機械による代替はタスク単位で発生するため、あるタスクが代替されても職そのものは無くならず、残ったタスクは人間が担い続けることとなる。

※3就業者数を人口で割った割合。労働力率(労働力人口(就業者+失業者)÷人口)とは異なることに留意。

※4過去トレンドの非線形性が顕著な産業(製造業、医療福祉業、教育学習支援業)については、直近の動きを見つつ微修正を行っている。

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