エコノミックインサイト

MRIエコノミックレビュー人材

第四次産業革命⑥ -2030年に240万人の雇用減も?-社会影響の定量試算

タグから探す

2017.5.23

地域創生事業本部 主席研究員白戸智

人材
今回は、当社が2016年に社内研究で実施した第四次産業革命の社会影響の定量試算結果について紹介する。

分野別の将来シナリオの想定

試算では、まず、第四次産業革命の影響の大きい社会の9分野について、前回コラム「第四次産業革命⑤」で紹介した5つの視点に基づき、合計15の将来シナリオを想定し、2030年の将来像とそれまでの道筋を予測した。
図1 社会影響の定量化の流れ
図1 社会影響の定量化の流れ
出所:三菱総合研究所
図2 将来シナリオの対象9分野
図2 将来シナリオの対象9分野
出所:三菱総合研究所
図3 9分野の15の将来シナリオ(5つの視点との関係)
図3 9分野の15の将来シナリオ(5つの視点との関係)
出所:三菱総合研究所

社会影響の推計方法

それぞれの将来シナリオに沿って、以下の項目を推計した。

 ① 将来(2030年)の当該分野における付加価値の増減率(産業分類別)
 ② 将来の当該分野における雇用の増減率(産業分類別・職業分類別)
 ③ 将来の当該分野における海外売り上げの増減率
 ④ 将来の当該分野における輸出額の増減率

 増減率は、並行して実施した長期未来予測研究のベースシナリオ(人口の推移は国立社会保障・人口問題研究所の将来推計値の中位ケース、生産性の伸びは今後ゼロと想定)に対する増減として設定した。具体の数値の設定に当たっては、ICTを用いた高付加価値サービス導入などの先行事例における増減率を参考とした。
 これらを長期未来予測モデルのマクロモデルに入れることにより、シナリオごとの付加価値増減、雇用増減等を算定した。なお、長期予測モデルによる計算結果では、技術予測シナリオで想定した部門別の生産額が、産業連関表の投入関係を考慮して、関連部門にも配分される。
図4 将来シナリオに沿った将来付加価値変化、雇用変化の推計方法
図4 将来シナリオに沿った将来付加価値変化、雇用変化の推計方法
出所:三菱総合研究所

推計結果 -約50兆円のGDP増効果と240万人の雇用減少効果-

将来シナリオに基づく2030年の実質GDP(生産付加価値)は、ベースシナリオ(AIなどによる技術進歩などが見込めず労働生産性が今後増加しないケース)に比べて51兆円増加の595兆円と推計された。2015年度~2030年度平均の成長率はベースシナリオ0.2%、技術シナリオ0.8%となった。GDP増加分の内訳は、BtoC、BtoBものづくり変革18兆円、AI・ロボット等情報通信業13兆円、サービス業変革 8兆円等となっている。
 2030年の雇用者数については、ベースシナリオとの比較で240万人減少の5529万人という結果となった。ベースシナリオでは、現在の低い生産性上昇下で将来の生産規模を維持するため、人口減少下でも雇用が現状より拡大することを想定している。雇用の詳細を見ると、専門職、技術職は雇用増、事務職、生産工等他職種は雇用減となっており、トータルとしては雇用減の方が上回る。
 なお、国立社会保障・人口問題研究所の予測による将来の生産年齢人口に比例して雇用者数が減少するとしたケースでは、2030年の雇用者数は4992万人と推計される。今回の新技術導入ケースの試算結果はそれを上回るため、2030年時点では機械の労働代替による雇用削減効果はむしろ労働者の不足傾向を緩和する働きをするにとどまっていることを示している。
 当社が別途実施している日本経済の中長期予測(内外経済の中長期展望)の結果と比較すると、GDPでは中長期予測の結果に比べ31兆円の増加、雇用では36万人の増加となっている。現状技術で生産性向上が図られるとした中長期予測に対して、技術研究シナリオでは新たな付加価値創出は過大に、雇用については労働代替効果の影響で過少に試算されていると考えられる。
図5 将来シナリオによるGDP、雇用変化とMRI中長期予測との比較
図5 将来シナリオによるGDP、雇用変化とMRI中長期予測との比較
出所:三菱総合研究所

個別シナリオごとの影響

個別のシナリオごとに見ると、雇用と付加価値(GDP)がともに増加するシナリオとしては金融サービス、VR新サービス、セキュリティ関係などがあり、機器やサービスを提供する産業セクションの雇用・GDPも大きく増加している。
 一方で、付加価値は増加するが、雇用は減少するシナリオも存在する。これには、サービス産業、BtoCものづくり、自動運転、建設業、農業などがある。また、付加価値、雇用ともに減少するのは医療・介護であるが、これは、新技術により予防・早期発見等が可能となり、医療費総額が削減されるという将来シナリオに基づいている。
 雇用に大きな変化が無い中、付加価値が増加するシナリオとしてはBtoB製造業がある。一方で、付加価値増に大きな変化が無い中、大きな雇用減を招くシナリオに、ホワイトカラーのワーク・バリューシフトがある。トータルでは、新技術シナリオではベースシナリオに比べ、500万人の雇用が創出されるが、740万人の雇用が削減される。今回予測された、今後のホワイトカラーの大きな需要減と、専門職・技術職の需要の急激な増加に対してどう対応するかは、日本の社会、企業にとって大きな課題と考えられる。
図6 個別シナリオごとの付加価値、雇用者数の変化
図6 個別シナリオごとの付加価値、雇用者数の変化
出所:三菱総合研究所
図7 産業別、職種別の雇用者増減
図7 産業別、職種別の雇用者増減
出所:三菱総合研究所