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MRIエコノミックレビュー経済・社会・研究開発

第四次産業革命④ -注目すべき3つの新技術-

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2017.4.3

政策・経済研究センター 主席研究員白戸智

経済・社会・研究開発

さらに生体に近づくAI・ロボット・IoE

 AI・ロボット・IoEの三技術は一体となって、生物のように感じ、考え、動く、自律的な機械システムを形成する。新技術の進展によって、こうした機械システムは精緻さと複雑さを増し、生体への接近が日々進んでいる。
 機械システムを生体システムにより近づけるであろう、新たな動きを三つ紹介する。

① フォグコンピューティング

 米国のCisco Systemsなどが提案する、IoT時代のコンピューティング・システムの考え方であり、「IoTを構成するクラウドとデバイスの間のネットワーク機器に、クラウド側からコンピューティング、ストレージなどのリソース・サービスを分散させ、データが生成される場所の近くでリアルタイムに処理する仕組み」のことを指す。似た言葉で「エッジコンピューティング」があるが、これはコンピューティングなどの処理能力をよりユーザー寄りに配置する仕組みで、フォグコンピューティングの一種ともいえる。

 例えば、ロボット等の操作、自動運転、VR、画像系のゲームなどではミリ秒(msec)単位の反応速度が求められるが、末端のネットワーク機器単体ではAIなどの処理能力が足りず、クラウドまで戻すと今度は反応時間がかかりすぎる。こうした場合に、ネットワーク上の端末に近い場所に、高次の信号処理のできるノードを設けることが考えられる。これは人体において、脳を介さず脊髄反射で信号から運動が誘発されることに似ている。またIoTセンサーで得られたデータをネットワーク上の機器で蓄積、分析して、必要な情報のみを上位のサーバーに送ることも可能となる。これも無数の感覚器からの情報を統合して脳に送る人体の仕組みに似ている。

 今後の半導体やメモリの小型化、低コスト化がこうしたネットワーク上での機能分散を後押ししていく。2015年11月にはIntel、Microsoftなどが加わって、フォグコンピューティングの普及促進団体“OpenFog Consortium”が米国で設立された。近い将来には、コンピューティング、ストレージなどの機能が、サーバーから末端のセンサーまで、必要に応じて分散配置される多層的な知能を持ったネットワークシステムが常識となっていくだろう。
図1 フォグコンピューティングのイメージ
図1 フォグコンピューティングのイメージ
出所:三菱総合研究所

② LPWAN

 IoT時代を迎え、多様なセンサーが開発されている。その中には、例えば環境監視センサー、インフラの保守データなどのように、時間軸、空間軸上で分散したデータ、疎なデータ取得間隔、長期にわたるデータ取得期間、省電力などのニーズを持つものがあり、こうしたセンサーには、既存の無線LAN等の仕組みは通信速度や消費電力が過剰で通信距離は短すぎる。

 こうした種類のIoTデータ取得のための通信方式としてLPWAN(Low Power Wide Area Network)が開発されている。LPWANの通信速度は10キロビット程度と、4G通信の1/1000に過ぎないが10km以上の通信距離を持ち、電力消費も端末では単四乾電池で10年以上の寿命を持つ(ということは端末自身がエネルギーを外界から取得するエネルギー・ハーベスティング(EH)にも対応容易)。既にフランスなどではSigfox社により全土にLPWANのネットワークが構築され、米国などでもLoRaWAN規格として導入が始まっている。日本では、NTTドコモが水田の見守りシステムなどで試験的に導入を始めたところである。

 このLPWANによる“ゆったりしたネットワーク”は、人体で言えば代謝系に似ている。代謝系は、体内の糖分の血中濃度に反応し、ゆっくりした制御を行う。5G通信などによる高速な反応系と、LPWANによる低速な反応系を用途によって使い分けることにより、より多彩な制御が可能となる。今後、日本でもLPWANは新たな通信インフラとして普及していくとみられている。
図2 LPWANと既存通信手段との棲み分け
図2 LPWANと既存通信手段との棲み分け

出所:”LPWAN Technologies for Internet of Things (IoT) and M2M Scenario” Peter R. Egli
https://www.slideshare.net/PeterREgli/lpwan、2017.3.29

③ エネルギー・ハーベスティング(EH)

 ハーベストとは「収穫」を意味する。身の回りにある熱や振動など様々な形態のエネルギーを「収穫」して電気エネルギーに変換する技術が、エネルギー・ハーベスティング(EH)技術である。EHが今、特に注目されているのは、センサネットワークの世界である。多数のセンサーがネットワークを介してつながり、大量の情報(ビッグデータ)を収集・活用できる可能性が見えてきた。センサーにEH技術を取り入れ各センサーの自立性を高めれば、電力コストがかからなくなるのに加え、電力を供給する配線が不要になって工事コストも低減し、センサー設置の自由度も増す。電源が電池である場合には、もともと電力配線は無いが、電池交換が不要になり、その分の保守コストが抑えられる。

 有線の通信技術を活用しているセンサーでは、電力配線をEHに置き換えるだけでなく、通信配線を無線化する必要がある。前項のLPWANのような新しい通信技術と併用されて、EH技術はその真価を発揮する。

 EH技術は、エレベータ、自動販売機、作業機械、プラント設備、インフラ構造物等の設備機器への導入を皮切りに、農業分野、保健・医療・福祉分野、交通分野、安全・防災分野等にも活用される見込みである(下表参照)。
図3 エネルギー・ハーベスティング(EH)によるセンサネットワーク無線化のイメージ
図3 エネルギー・ハーベスティング(EH)によるセンサネットワーク無線化のイメージ
出所:三菱総合研究所
表 1 センサネットワークの応用分野
応用分野 内 容
農業 ・農作物育成環境最適化
施設管理 ・エネルギー需要最適化(室温管理など)
・自動検針(電気、ガス、水道)
・構造物管理(損傷/劣化の把握)
環境 ・環境モニタリング
・地球観測
保健・医療・福祉 ・見守り(安否確認)
・リアルタイムモニタリング(生体データ収集・管理)
交通 ・交通制御(渋滞解消、環境改善、緊急車両優先、駐車場提供)
・事故回避
安全・防災 ・ホームセキュリティ(火災、防犯、緊急通報)
・被災状況把握、被災者状況把握
出所:「エネルギーハーベスティング」(2014.10.25)日刊工業新聞社より三菱総合研究所作成