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第四次産業革命③ -2030年までに予想される技術進歩-

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2017.3.29

政策・経済研究センター 主席研究員白戸智

経済・社会・技術

技術進化は歩みを止めない -集積回路の進化-

 AI・ロボット・IoEの新たなニュースがネットを賑わさない日はない。しかしながら、この進歩はいつまで続くのだろうか。かつてのAIブームのように、期待されながら、我々の生活に大きな足跡を残すことなく消え去ることは無いのだろうか。

 社会は複雑系であり、特に人が絡む問題となるとその予測はとたんに難しくなる。一方で、単純な技術開発については、将来の予測が比較的よく当たる傾向にある。もちろん、破壊的な技術開発がそれまでの予測を覆すこともあるが、要素技術のレベルでの開発は、ならしてみるとその進化速度は比較的一定である。その代表例が集積回路分野におけるムーアの法則である。近年、集積回路の集積度は1.5年ごとに2倍になるという公式に従ってきた。これまでの集積度向上はゲート長と呼ばれる回路の精細化によって実現しており、参加メーカーの変化や製法の変化にもかかわらず、常に全体としての集積度向上は公式に従ってきた。近年のこのゲート長が10nmなど、加工精度の限界レベルまで達してきている。すると、今度は3D化、ナノ加工、シリコン以外の材料の利用など、集積度を上げるための新たな技術(“More Moore”)や、通信部品、センサーなどのワンパッケージ収納技術(SiP)・ワンチップ収納技術(SoC)(“More than Moore”)が開発されて、2030年までのレンジでは、法則は維持されていきそうな見通しである。2030年以降の動きはまだ見えないが、スピントロニクス、量子など次世代のデバイス技術が開発中であり、技術進化の終点はまだ見えていない。
図1 これまでのムーア則の維持と今後のブレークスルー(モア・ムーア、モア・ザン・ムーア)
図1 これまでのムーア則の維持と今後のブレークスルー(モア・ムーア、モア・ザン・ムーア)
出所:三菱総合研究所

集積回路以外の技術進化

 AI・ロボット・IoEに関して、制約条件となりそうな要素は他にも幾つかある。通信はその代表である。通信技術の進歩には疑いがないが、利用できる電波資源には限りがあり、今後の技術進化によりどこまで効率利用が図れるかが課題である。次世代通信5Gから2030年にはさらに次世代の通信技術が求められるだろう。ビッグデータ活用などの肝であるストレージの確保も課題である。全世界でデータセンターの構築が進んでいるが、今後の流通データ量拡大に対しては、更なるエネルギー効率性、空間効率性の高いストレージ技術、早い転送速度が必要となる。AIについては、自然言語理解が、利用がもう一段進むための鍵となる。社会に流通する映像など自然言語のコンテンツをAIが理解できるようになったとき、シンギュラリティは一段と近づく。センサーについては、外部からの供給なしでの作動エネルギー確保と通信能力確保が鍵となる。低電流消費化技術と環境からエネルギーを取り込むエネルギー・ハーベスティング(EH)技術が鍵となる。

 総じて見れば、集積回路のコンピューティングパワー向上を軸に、AI・ロボット・IoE技術の進展を支える技術は、2030年までは問題なく高い技術成長性を維持すると考えられる。それを受けて、AI・ロボット・IoEの応用範囲はこれまでの単能から複合機能に、個別分野から複合分野に拡大していく。IoEで全てのものがつながる中、通信、処理速度などの制約条件の下で、末端の機器、中継機器、中央制御機器、クラウドなど、それぞれのレベルにどの程度のAI機能をおき、それをどのように協調制御させるか、またそれと人間の判断・動作をどのように協調させるかが、今後の技術開発の重点課題のひとつとなると予想される。
図2 第四次産業革命を支える基盤技術・応用技術の進歩予測
図2 第四次産業革命を支える基盤技術・応用技術の進歩予測
出所:三菱総合研究所

要素技術から応用技術への展開

 関係技術は他にもある。例えば、第四次産業革命の代表選手である自動運転は制御のしやすい電気自動車(EV)との相性が良いと言われ、バッテリー技術の進展が欠かせない。また、バッテリー技術はスマートグリッドなどのIoEによる環境・エネルギー効率化技術とも結びついている。人の身体のIoEへの組み込みには、新たな繊維などの素材技術や電子回路をフレキシブルに組み込める回路印刷技術が欠かせない。幅広い分野での要素技術改革が同期して、新たな応用技術を形成する。こうした技術革新の連鎖がもたらす新サービスや製品は、我々の暮らしを一変させるものとなるだろう。
図3 2030に向けた要素技術とその応用分野
図3 2030に向けた要素技術とその応用分野
素材からITまで様々な分野の要素技術が世界のIoE化を進め、その中で多様な新サービスが展開される。
出所:三菱総合研究所

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