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第四次産業革命① -AI・ロボット・IoEが変える社会-

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2017.1.25

政策・経済研究センター 主席研究員白戸智

経済・社会・技術

AIに高まる期待と不安

 2015年7月、アルゼンチンで開催された国際人工知能会議(IJCAI)で、米国の研究支援組織“Future of Life Institute”が一通の国際連盟宛の公開書簡をとりまとめた。書簡は、人工知能(AI)を利用した攻撃兵器の廃止を訴えたもので、署名欄には宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士、企業家のイーロン・マスク氏などの著名人が名を連ねた。

 人工知能が人間の知能を追い越す日、いわゆるシンギュラリティ(技術的特異点)の概念は、80年代に米国の数学者ヴァーナー・ヴィンジ氏が広めたとされるが、近年のディープラーニング(深層学習)などのAI技術の進展が、その現実性を一気に高めている。

 現在のAIブームは第三次AIブームと称される。これまでも何度かAIブームが巻き起こっては消えてきた。今回のAIブームの立役者はディープラーニングである。人間のニューラルネットワークの構造を模し、人間の支援なしに機械が自分で画像など分析対象の特徴を抽出し、概念化ができるのがディープラーニングの特徴であり、近年の急速なICTの発達によるコンピューティングパワーの向上、分析対象となるデータの大量集積が、その実用化を可能とした。

 2016年3月には、Googleが開発した「アルファ碁(AlfaGo)」が世界のトップ棋士の一人である韓国のイ・セドル氏に五番勝負で4勝1敗で勝利し、もはや特定分野においてはAIが人間を凌駕するものであることを証明した。

 一方で、急速なAIの発展に懸念を示す声も大きくなった。先の公開書簡に署名したイーロン・マスク氏は、2015年12月に、AI開発をオープンに進めるためのプラットフォームとなる「Open AI」という企業を設立した。これには、AI技術を特定の企業や国家が独占することを防ぐ、という意図がこめられている。

AIとロボットの結合

 AIはロボット技術と結びつくことにより、より大きな社会的インパクトを持つこととなる。ソフトバンク社のペッパーは、一定の感情表現が可能な「感情エンジン」と、クラウドと連動する「クラウドAI」を搭載し、既に企業向け・個人向けに販売されている。ロボット自体に装備されているAIの能力には限りがあるが、IBMのWatsonなど、人工知能プラットフォームと結びつくことにより、より人間らしい思考やコミュニケーションも可能となっていくだろう。

 自動運転も広義のロボットのひとつである。クルマにセンサー情報を判断するAIが積み込まれ、人に代わって判断、運転操作を行う。画像センサーや車載用集積回路などの部品コストの低下、車外ネットワークと接続するための無線通信容量の拡大などにより、自動運転もまた、実用化への道を急速に走り出している。

 オックスフォード大学のオズボーン准教授は2014年に米国労働省の定義する702の職業を分析し、その47%が10~20年後に機械に取って代わられるという論文を発表した。これはもちろん、AIが人間の知能をあらゆる面で凌駕する日が近いということは意味していない。実際、AIの専門家ほど、AIが人間を超える日は遠いと言っている。しかしながら、オズボーン氏の予測は、AI・ロボットの登場がわれわれの予想以上に早く、われわれの社会に大きな構造的変化をもたらす可能性を示している。

第四次産業革命の到来

 2016年1月のダボス会議の議題の一つとして、「第四次産業革命」が取り上げられた。米UBS社が提出したリポートには、「第四次産業革命」は、極端な自動化、コネクティビティによる産業革新と表現された(図参照)。

 これまで人類は、蒸気機関の発明による第一次産業革命、石油・電力の利用による第二次産業革命、インターネットなどのICT利用による第三次産業革命を体験してきた。第三次産業革命とされる90年代のいわゆる「IT革命」では、米国の労働生産性はそれまでのペースを上回る大きな伸びを見せた。AI、ロボットなど新たなICT技術による第四次産業革命が、本当に新たな産業変革をもたらすのか、もたらすとすればどのような形でもたらすのかが、世界経済の注目の的となっている。

 これまでのところ、近年のGoogle、テスラなどのICT、ハイテク企業の積極的な活動の割には、第四次産業革命の先端を走る米国の労働生産性は目立った向上をみせていない。これが、破壊的イノベーションの持つ既存産業への破壊効果が新たな産業の付加価値創出を相殺しているためなのか、それとも労働代替に伴い付加価値自体の縮小が起こっているのか、まだ結論は見えていない。
図 産業革命の歴史
図 産業革命の歴史
出所:三菱総合研究所、労働生産性グラフはトレーディングエコノミクスより