急がれるサステナブル・サプライチェーンの構築

産業別企業グループへの参加がカギを握る

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2024.6.21

海外事業本部山添真喜子

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 欧米で高まるサプライチェーン全体でのサステナビリティ対応
  • 企業経営に多様なメリットを生む産業別企業グループへの参加
  • 日本企業も個社対応から企業グループ参加への変革が急務

サプライチェーン全体での対応が世界潮流に

持続可能な社会の構築には環境や社会に対する負荷軽減が必要不可欠である。そのため、企業各社はサステナビリティ経営を推進してきた。しかし最近、一部の企業の取り組みだけでは実効性が低いことから、EUを中心としてサプライチェーン全体に脱炭素、サーキュラーエコノミー、デューデリジェンスの対応を要請する法規制が検討・施行されている(図表1)。
図表1 サプライチェーンにおける対応を要請する法規制事例
サプライチェーンにおける対応を要請する法規制事例
出所:公開情報を基に三菱総合研究所作成
このような規制は、サプライチェーンに属するサプライヤーに関する環境・社会・ガバナンス(以下、ESG)データの収集を求めるとともにESG対応が不十分で改善の余地のあるサプライヤーに対してはその遵守を求める。業界全体のサステナビリティを底上げするため、欧米ではサステナビリティの取り組みに関して同様な志を持つ企業グループ(イニシアチブ)を中心とした活動が展開されている。特に、同一産業のイニシアチブ(以下、セクター・イニシアチブ)の多くは、①製品フットプリント関連指標・ルールの策定、②サプライヤー・マネジメント、③トレーサビリティの向上を目的に活動している(図表2)。
図表2 サステナブル・サプライチェーン構築におけるイニシアチブの活動目的
サステナブル・サプライチェーン構築におけるイニシアチブの活動目的
三菱総合研究所作成

セクター・イニシアチブの事例にみる多様なメリット

化学業界のセクター・イニシアチブTogether for Sustainability(以下、TfS)を事例として紹介したい。TfSはサプライチェーンのサステナビリティパフォーマンス向上を目的として、2011年に設立された。

今年5月に、サプライヤーのESG評価ソリューションを提供するEcoVadis、TfSおよび三菱総合研究所の3者は「サステナブル・サプライチェーン・セミナー イニシアチブを活用したサステナブル・サプライチェーン構築の取り組み」を開催した。そこでは、TfS参加のメリットが以下のように説明されている。第1は、TfSの50社のメンバー企業の売上高は130兆円に上るため個社では達成不可能なスケールメリットを活かしたサステナビリティへの取り組みを実践することが可能ということ。第2は、共通プラットフォームを活用したサプライヤー・マネジメントのプロセス簡略化が挙げられた。共通プラットフォームを使うことでサプライヤーは、統一のESG調査票に回答すればTfSメンバー企業と評価結果をシェアすることが出来る。さらに、優れた評価を受けているサプライヤーは、メンバー企業から新たな取引を求められることもあり、ビジネスマッチング機能も果たしている。その他のメリットとして、セクター・イニシアチブの共通ルール策定機能がある。具体的には製品カーボンフットプリント(以下、PCF)のガイドラインを策定し、PCFデータ共有ソリューションのテスト利用の推進が図られている。

日本企業がイニシアチブに参加する意義

次に、日本企業がTfSのようなセクター・イニシアチブに参加する意義を整理したい。前述の「サステナブル・サプライチェーン・セミナー」での議論を踏まえると①サステナビリティ関連政策やトレンド情報の入手、②セクター・イニシアチブの戦略作りへの参加、③グローバルレベルでのネットワーキングの3つに要約できる。日本企業は、グローバルレベルでのビジョン策定やルールメイキングを不得意としていると言われることが多い。②で挙げられているように、加盟企業としてその将来戦略策定に参加することで、産業界の目指す姿やロードマップを自社の状況を踏まえて策定することが可能となる。③のネットワーキングに関しては、分科会やワークショップへの参加だけではなく、担当者間のフラットなコミュニケーションも活発に行われており、新たなビジネス・アイデアや機会の創出が期待される。

セクター・イニシアチブ参加に向けて

2023年に経済産業省が実施した調査によると、約96%の企業が「サプライチェーンのデータ収集に課題がある」と回答している※1。また、同報告書では、セクター内の複数企業間におけるデータ連携・共有の在り方についての検討や、自社システムを構築する際に先行するデータ連携・共有プラットフォームとの相互運用性を確認することが求められている※2。セクター・イニシアチブへの参加は、日本企業のこのような状況の解決策にもなり得る。一方で、セクター・イニシアチブ参加にあたっての課題は、入会費や参加費といった初期投資が求められることだ。企業には、投資に見合ったリターンが得られるセクター・イニシアチブはどの組織なのか、精査することが求められる。そのため、自社が属する産業に関連する法規制の整理、またサステナブル・サプライチェーン構築を目指すイニシアチブに関する事前調査が必要だ。個社での対応を続けることとセクター・イニシアチブを活用し他社との連携の上で活動することを比較分析し、コスト&ベネフィットを評価した上で意思決定することが日本企業に求められる。

※1:経済産業省「サステナビリティ関連データの効率的な収集及び戦略的活用に関する報告書(中間整理)ー概要版ー」(2023年7月18日)
https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230718002/20230718002-2.pdf(閲覧日:2024年3月19日)

※2:経済産業省「サステナビリティ関連データの効率的な収集及び戦略的活用に関する報告書(中間整理)ー概要版ー」(2023年7月18日)
https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230718002/20230718002-2.pdf(閲覧日:2024年3月19日)

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